ビットコインをはじめとした仮想通貨の価値が急騰し、仮想通貨元年と呼ばれた2017年(平成29年)分の確定申告は、仮想通貨の課税についてはっきりとした法律の規定が決まらないまま進められました。仮想通貨取引における消費税に関しては、法令で非課税と決められました。しかし所得税・住民税に関しては、国税庁が実務上の取り扱いについてQ&Aを公表するにとどめ、それに基づいて投資家は仮想通貨による所得の申告を行うことになりました。
自動的に税額を徴収してくれる制度もなく、株式投資家でもあまり意識していない取得費の計算方法などを自分で身につけて申告し、その上で所得税の納税が求められました。雑所得が億単位まで及んだ「億り人」は、2017年分は推定でわずか331人にとどまりますが、所得が高いと所得税率がおよそ45%にまで及び、この高税率ぶりも知られるようになりました。
仮想通貨の申告漏れを防ぐための対策とは
仮想通貨に関する2017年分の確定申告に対して、納税者側から申告がやりにくかったという指摘があがっていました。国税庁としては申告しにくさを理由に申告漏れが起きても困るので、2018年4月~10月に仮想通貨交換業者をまじえて「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」(以下、「研究会」)を開催しました。仮想通貨交換業者の意見を聴取しつつ、納税者に対して提供しておきたい(申告に必要な)情報、そして申告の利便性向上策について協議しました。
この研究会自体は非公開の会合ですが、協議結果やその資料は公開の政府税制調査会について報告されました。この研究会に経て前向きに進みそうなものとして、2018年分の仮想通貨取引からは損益報告書を投資家に向けて必ず提供すること、さらに報告書様式を共通化することが挙げられます。株式投資を特定口座で行っていれば、各金融機関でほぼ共通の特定口座年間取引報告書が投資家に渡されるため、これが特定口座普及に一役買いました。
またFX取引も普及から10年以上経ち、各社共通とは言えないものの、損益報告書の提供が一般化しています。ところが仮想通貨交換業者に関しては、2017年後半になって国税庁が仮想通貨の取り扱いを具体化させたこともあり、投資家に損益報告書の提供を行う慣習があるとは言えませんでした。損益報告書を必ず仮想通貨投資家がもらえるようになれば、個々の取引を集計する手間が省け、申告のハードルが下がります。
国税庁へ期待する仮想通貨の申告方法
仮想通貨はブロックチェーンの技術を用いて、インターネット上で流通する通貨です。一方で現在の確定申告は、e-taxもあるように電子手続きによって申告することが可能であり、マイナンバーカードはe-taxに利用することも想定しています。それならば紙の損益報告書を用意してくれるのもありがたい話ですが、電子データでやり取りできれば面倒な手続きが無くなるようにも考えられます。
紙の損益報告書の他、電子データを仮想通貨交換業者から投資家に提供する方法も検討されました。またこれは2018年分の確定申告からというのは難しいでしょうが、ゆくゆくは電子データを確定申告書作成コーナーhttps://www.keisan.nta.go.jp/、もしくはマイナンバーカードを作成すると操作できるマイナポータルhttps://myna.go.jp/に取り込んで申告できるようにする方向です。現在取引履歴データを取り込んで雑所得を計算するソフトはいくつかありますが、2018年時点で確定申告書作成コーナーに取り込んで電子申告できるようにはなっていません。
これは研究会よりも政府税制調査会で検討された話ですが、原稿料などは法定調書(報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書)を支払者が受取者に渡す慣習があり、仮想通貨取引においても仮想通貨交換業者が投資家に支払調書を渡したらどうかという話もありました。ただ支払調書の本来の意義は、支払者が国税当局に(金額の大きい一定の報酬に関して)情報提供し、個人の申告漏れや脱税を防止することです。
まず仮想通貨取引を支払調書の対象にするかの問題もありますが、支払調書を受け取るということは、申告漏れを起こしたら国税当局に目をつけられることを意識すべきでしょう。もっとも支払調書も電子データ送信される時代であり、支払調書を確定申告書作成コーナーやマイナポータルで取り込めるのであれば、申告の簡素化につながるので意義があることです。
仮想通貨の申告には必要経費が加わる
もう1つの申告上の問題は、確定申告書における計算明細です。株式やFXは申告分離課税が適用されることもありますが、損益報告書がもらえるだけでなく、確定申告書には決まった様式の計算書もあります。申告書に記載すべき所得や損失についても、その計算書を見ればわかるようになっています。しかし仮想通貨の場合はそのような計算書は無く、また確定申告書作成コーナーですら、雑所得の入力は収入金額欄と必要経費欄を入力する程度でしかありません。
記載項目は少ないですが、収入金額と必要経費のそれぞれの計算方法が、確定申告書やその手引きを見ても不明確という問題もあります。このため、2018年(平成30年)分の確定申告より、「仮想通貨の計算書」が新しく加わる予定です。この計算書の様式は2018年11月中旬現在未公表ですが、収入金額の内訳や、取得費の計算欄(移動平均法と総平均法があるので、両方に対応した形の計算欄)、その他必要経費の計算欄が加わるものと考えられます。仮想通貨取引が電子データで用意される場合も想定すると、確定申告書作成コーナーでも「仮想通貨の計算書」を入力するようになることも考えられます。
仮想通貨の申告に関わる税金
仮想通貨に関しては、取引に対して消費税はかかりませんが、所得税・住民税の他、相続税や贈与税がかかる場合があります。相続税の課税については、2018年の通常国会で国税庁側が国会答弁しております。上場株でも時価を基にした相続税評価額があるので、仮想通貨においても時価に基づいて相続税評価額を計算します。
もっとも仮想通貨においては、相続税評価以前に、遺族が仮想通貨のことをよくわからず相続手続きに戸惑うことが想定されます。例えばこの点も国会で論議になっていますが、遺族が仮想通貨のパスワードを知らないという場合でも、相続税の課税は免れません。しかしこれは酷な話なので、研究会では相続手続きの整備も必要とされました。仮想通貨交換業者が遺族に仮想通貨の相続手続きについて案内したり、また相続税評価額を即座に知るための残高証明書を発行したりするようなことが考えられました。
仮想通貨の申告において分離課税の可能性はあるのか
今回取り上げた国税庁の研究会とは別の有志研究会(暗号通貨に関する租税制度研究会)では、円に換えた時だけに課税する案や申告分離課税に変更する等、仮想通貨税制を変えることに関して議論が進みました。しかし、2018年末に与党が発表する税制改正に結びつくとは言い難い状況です。
税制改正はもっと先の話になりそうですが、交換業者が発行する取引・損益報告書や国税庁が用意する仮想通貨の計算書は税制改正に比べかなり早く実現する方向です。このままの税制では納税資金が用意できるかの問題もありますが、税金は払ってもいいから申告の手間だけは省いてほしいという意見もあります。仮想通貨投資家から出ている不満を順次解決する方向で、事態が進むことを望みたいです。なお政府税制調査会でも、徴収する側の論理になりますが、仮想通貨その他のシェアエコノミーに関する申告について議論が進みましたので、別途触れて行く予定です。