仮想通貨投資家にとっては、株式やFXで導入されている申告分離課税、FXでは導入されていないですが株式に適用されている源泉徴収制度、いずれもうらやましく感じるものです。株式やFXでは所得に対して20%強(所得税率・住民税率あわせ)で課税され比較的わかりやすいのですが、仮想通貨の場合は課税所得に応じて15%強~55%強で変動するため、税率面でのわかりづらさがあります。
さらに株やFXでは、損失が生じた時に翌年から3年間繰り越すこともできます。株式配当や源泉徴収を選択した特定口座での取引であれば、20%強の税金を金融機関が徴収するため、金額に関わらず確定申告不要も選択できます。仮想通貨においてもこのようにわかりやすく申告の手間が省け、さらに税負担の軽減策があればありがたい話です。ただ株式に関する税制は、わかりやすいようで課税実務上やっかいな点があることも明らかになってきています。こうした課税上の問題点を、今後仮想通貨に申告分離課税や源泉徴収を適用する上では克服していくことが投資家のためです。
申告において多くの地方自治体が課税ミスを発表
東京都や千葉県の市区町村(全体の7割程度)で、2005年からの14年間にわたって上場株式の譲渡所得と配当所得に関して課税ミスをしていた疑いがあると報道され、その一部の自治体は(早いところでは2018年9月に)公式Webサイトで正式にお詫びしています。
ミスした点に触れますが、まず所得税の確定申告を行えば、基本はその情報をもとに地方が住民税を計算し課税します。ところが一定の期限を過ぎて納税者が申告してきた場合は、所得税と同じ方式で課税できない申告内容もあり、そこを同じ申告方式で課税してしまったのが今回のミスです。
この一定期限とは住民税の納税通知書送達日であり、サラリーマンのように給与から天引きされる場合は5月、自分で納める場合は6月です。また所得税と同じ方式で課税してはいけない申告内容には、上場株式の譲渡損失や源泉徴収された譲渡所得・配当所得が含まれます。この申告内容に関しては法律上確定申告不要が原則であり、税負担を減らすために申告するのは例外措置です。住民税では救済的な例外措置の適用期限を、原則は申告期限(3月15日)、遅くとも納税通知書送達日としています。
申告内容により変わってしまう課税種類とは
ミスを直して正しい課税を行い、所得税の申告内容を住民税では申告が無かったことにする場合、源泉徴収済みの黒字の所得であれば通常納税者が損することは考えられません。しかし損失が無かったことにされれば、税負担軽減が無くなるため5%の住民税が追徴課税されます。
例えば、2016年に100万円の損失が生じ、2017年に50万円の配当所得+譲渡所得(所得税76,575円・住民税25,000円が徴収済み)が生じた場合、2017年分の確定申告期間である2018年2月16日に両方の年分を確定申告することは可能です。その結果徴収されていた所得税などを取り戻すのですが、住民税25,000円まで取り戻す処理を市区町村が行ったら課税ミスです。
2016年分の損失は2017年5~6月の納税通知書送達日までに申告しないと、地方税法の規定では翌年には繰り越せないからです。課税ミスを正すと25,000円が追徴課税されます。そして2018年分に繰り越せる損失が所得税では50万円残っているのに、住民税では全然無いという奇妙な現象も生じます。
課税種類により申告時期が異なるためミスが多くなる
「納税通知書送達日」という期限は、少なくとも東京都や千葉県の多くの市区町村では認識していなかったことになります。さらに11月下旬からは埼玉県など、他の県からも誤っていた市区町村が現れています。そのような状況では、一般人にも浸透しているはずがありません。
申告の窓口は通常国の機関である税務署であり、国の法律では申告の期限設定していません(還付申告は5年以内にというのはあります)ので、3月15日の申告期限を過ぎた後でも税負担軽減の申告を受けつけてくれます。このため上記の例で言えば、2016年分の損失を申告し忘れていても、2017年分の確定申告期間でさかのぼって申告すれば大丈夫だと主張するマネーサイトも複数存在しました。この申告期限が意識されるようになった背景として課税が、所得税と住民税で異なる課税方式が可能なことを明確化したことが挙げられます。
例えば納税通知書送達日までに、所得税の確定申告とは別に住民税の申告を行うことで、所得税では配当を申告対象とし、住民税では申告不要とすることも可能です。このやり方に納税通知書送達日までという期限があったことで、法律上納税通知書送達日までに必要な申告内容も明らかになってきた経緯があります。
分離課税・源泉徴収の導入で複雑になった申告方法
株式投資は国として推奨していることもあり、税率を一定にして申告の手間と課税の救済策の両面で手厚くしましたが、有利な申告という観点から見た際にかえって申告制度を複雑にした面もあります。申告してもしなくてもよい所得があり、さらに所得税と住民税で異なる課税方式を選べ、両者で損失申告など課税に関するの期限設定が異なるとなれば、納税者側に想定外の課税の結果をもたらす場合もありえます。
仮想通貨の所得は総合課税であり源泉徴収もされませんが、所得20万円以下でサラリーマンが所得税の確定申告不要制度を利用する場合を除けば、所得税と住民税で課税される雑所得の額は同一です。また、損失の繰り越しはそもそもできません。仮想通貨に関しては所得が大きい場合の税率が高いという大きなデメリットもありますが、確定申告が一旦終わった後に想定外の結果をもたらす可能性は低いです。仮想通貨の所得計算を申告者自身に求めてきたことが申告しにくさを生んでいるところはありますが、株式譲渡所得や配当の課税のように、複雑な法令の解釈によるミスはまだ生じにくい状況です。
申告分離課税と源泉徴収のこれから
申告分離課税と源泉徴収をめぐる現状がこうなっていると、この状況で仮想通貨にこれらの制度を導入して良いかは、慎重な検討を要する問題だと言えます。株式の所得課税について住民税の計算を行い課税する自治体は今後注意すればいいでしょうが、法令がこのままですと所得税と住民税の繰越損失が異なるケースが出て、想定外の不利益をもたらす問題は残ります。場合によっては、国民健康保険料や給付金にも影響しかねません。この点を克服してから申告分離課税の適用を拡大させないと、今度は仮想通貨の投資家が思わぬ不利益を被ります。
金融所得の損益通算制度をめぐっては、総合取引所の実現などを考慮しながら、株式と先物取引を横断的に通算する制度の導入も検討されています。この制度改正にしても、損益通算と繰越損失の扱いを変えますから、現状の問題点を見直す必要が出てきたと言えます。この横断的な制度に仮想通貨を取り込む形であれば、なおさら現状の株式所得課税を見直す意義は大きいです。
住民税の所管は国税庁ではなく総務省ですが、総務省に自治体からの報告があがるだけでなく、金融所得課税の複雑さに対する不満も漏れてきています。申告分離課税導入の提言は仮想通貨専門家有志の研究会で行われましたが、円転時までの課税繰り延べ案などと比較すると、申告分離課税に関しては導入を急いでいません。また源泉徴収は政府税制調査会などで検討されましたが、交換業者側で取得額把握が困難なケースもあり、こちらも早期に導入できる見通しはたっていません。
仮想通貨取引に拙速に申告分離課税や源泉徴収を導入するよりも、現行制度をどう改善したら投資家・課税側の両方にとって良くなるかを十分検討の上で導入したほうが、仮想通貨発展のためにもなります。そのためにも今回の課税ミスに関しては、未発表の市区町村でもどれほどの規模で起きたかを含め、全容解明が急がれます。12月以降も課税ミスを発表する市区町村が、全国で現れることが予想されます。