仮想通貨の税金逃れを国税庁が調査
あるべき税制を議論するのが税制調査会であり、取引量が増大して税金の確定申告の仕方も固まってきた仮想通貨は議論の対象になってもおかしくないです。厳密には政府(内閣府)の税制調査会と政党の税制調査会があり、自公政権において税制改正に大きな影響力を及ぼすのは与党の税制調査会です。
政府税制調査会(政府税調)の議論は必ずしも税制改正に直結するとは限りませんが、資料や会合動画は公開されています。2018年では10/10~11/7に開催されましたが、仮想通貨は主要テーマの1つになりました。政府税調には幅広く税制を議論する総会(動画・資料とも公開)と、テーマを絞って議論する専門家会合(資料のみ公開)があります。仮想通貨に関しては4回にわたる総会の他に、取引慣行もふまえて3回にわたる「納税環境整備に関する専門家会合」を開催し議論の対象となりました。
2018年の政府税調の前には国税庁で「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」(以下、「国税庁の研究会」と呼ぶ)が開かれ、こちらは確定申告簡素化の方法が主要議題となりましたが、政府税調は脱税防止のための情報把握に力点がおかれました。
仮想通貨の税金計算はどこまで妥当か
仮想通貨の取引から確実に税金を徴収しようと考えた場合、有力な方法として源泉徴収制度の導入があります。給与・年金・配当からは所得税などが源泉徴収されますし、株式取引でも投資家の税金選択により源泉徴収が行われます。徴収する側が正しく税金計算し納めることが前提なので、源泉徴収票なども税務当局に提出させていますが、仮想通貨の税金においても導入すべきだという話が政府税調では議論されました。
株式は購入から売却まで同一の証券会社で行うのが一般的であり、特定口座年間取引報告書などにも記録されるので、所得に対する税金の税額計算は容易です。仮想通貨の税金の場合、異なる交換業者の口座間で仮想通貨を移転したケースなどは取得価格の把握が難しいため、税金が源泉徴収税額を所得額×税率ではなく収入額×税率にせざるをえないことが指摘されました。また税金を確定申告すれば最終的に還付されるのですが、この方式では損失が出ても税金が源泉徴収される問題もあります。
そもそもこのような形で税金の源泉徴収制度を導入することや、新興の業者が多い仮想通貨交換業者に税金の源泉徴収まで導入することが妥当か、そして政府税調では指摘されていませんが、株式の所得で税金の課税ミスが多発している問題もあり、税金の導入には時間がかかることが予想されます。
仮想通貨の税金対策における課題とは
2017年分の税金についての確定申告に関して、国税庁は2018/5段階では概ね税金が適正に申告されたと外部には答えていました。しかし、2018/11に国税当局の所得税税務調査(2017/7~2018/6)の結果では、仮想通貨に対する税金の申告漏れ事案も公表されました。
東京国税局では、妻名義の仮想通貨取引(実際は夫自身が取引)など約5,000万円を申告漏れしていた会社員男性の事例を公表しました。重加算税を含め約2,400万円の税金が追徴課税されたので、悪質な税金逃れの事案と見て取れます。政府税調においても、高額で悪質な税金の無申告者等に対しての厳正な対応が必要と言う意見があがっています。 このような状況では税務当局による所得捕捉の強化が課題になります。
税務当局からの要請に協力という形で(あくまでも任意ですが)、仮想通貨交換業者から税務当局に情報提供を行う方法があります。公平な課税のために、無申告者の取引を把握することは重要です。しかしこのことで交換業者の負担が増えることの他、顧客情報を提供することで投資家との信頼関係に響くので、法制化が必要との意見が出ました。
こういった意見も受け、2018/12/14に公表された2019年(平成31年)度与党税制改正大綱に、業者からの情報提供を義務化する形で、罰則付きで情報照会制度を法制化することが盛り込まれました。なお仮想通貨取引に限定しているわけではありませんし、この税金は所得税法ではなく国税通則法の改正です。また照会事項は取引者の住所・氏名・マイナンバー等で、高額所得者で巨額の税金の申告漏れが疑われるような場合の税金に限定される方針です。
仮想通貨の税金における報告義務を検討
サラリーマンや年金受給者は、年収額などが確認できる源泉徴収票が年末年始にかけてもらえます。この源泉徴収票は税務当局に税金を納めるための情報提供するためにも利用されており、税金納付の法定調書の一部になります。税金の法定調書には、不動産賃貸料と対象にしたものや、株式投資家がもらえる特定口座年間取引報告書もあり、政府税調では仮想通貨取引にも導入が要望されました。
なお、国税庁の研究会を受けて、2018年分より仮想通貨交換業者は年間取引報告書を投資家に発行することになりましたが、これは法律の定めで発行するものではないので法定調書ではなく、税務当局への提供を義務化してはいません。仮想通貨に法定調書の導入となれば、交換業者に作成の負担がかかるため、過重な負担にならないよう慎重論も政府税調では出ました。
また、法定調書は一定金額以上の取引に作成義務が発生するので、少額取引が捕捉しきれないという問題点もあがっています。なお原稿料・講演料などの法定調書を支払先に渡す慣習もありますが、受取者が確定申告を行うことが多いからです。これが根付けば、税金の申告者の負担が減るというメリットもあります。
法定調書に関してはまた議論段階の話であり、導入されるとしても2019年度税制改正よりもっと後になる方向です。なお給与の源泉徴収票ですが、実は国は全部を把握しておらず高額所得者に絞られており、市区町村のほうが網羅的に把握しています。しかしマイナンバー制度も導入されている現状では、地方に届け出た情報も国側が効率的に所得把握できるので、長期的には国と地方の情報把握のあり方を変えていくことが、仮想通貨取引の所得捕捉のためにも必要だという意見も出ました。
仮想通貨の税金もe-tax等の取り込みを前提に
これまでの論点を見ると、所得税や住民税を確実に徴収するための話が多く、納税者側にメリットになるような話が全然出てきていません。実際このことを政府税調で指摘する委員もおりました。納税者側にメリットがある仮想通貨の税制改正に関しては、有志研究会の「暗号通貨に関する租税制度研究会」では改善案も出されましたが、この改善案は政府税調ではほとんど話題になりませんでした。
そのような中で確実にメリットになる数少ない話として、税務申告に使える電子通知の整備があります。この点は国税庁の研究会で同じ方向性の議論はされましたが、政府税調では法定調書制度との関連でも話題になりました。法定調書は現在電子データとして作成することもでき、電子申告を行う段階でこのデータを生かせれば便利と言う意見も出ました。
電子データの取り込みは2018年分の確定申告からという話は出てきていませんが、かといって仮想通貨への申告分離課税導入のように何年もかけてというほど悠長な話でもないので、国税庁と仮想通貨業界の取り組み次第で数年程度での導入が予想されます。
国税庁の研究会において、仮想通貨投資家の税金申告のために「仮想通貨の計算書」を用意する旨が決まり、政府税調においても報告されました。特段の異論もなく、2018年の政府税調会合は11/7で終了し2週間後の11/21には、国税庁から正式に「仮想通貨の計算書」がリリースされました。交換業者が発行する年間取引報告書をもとに税金を簡便に記載できます。
年間取引報告書には売却した仮想通貨の数量・単価とそれに対応した購入単価・数量が記載されますが、仮想通貨決済などは記載されません。仮想通貨の税金の計算書の詳しい記載方法については、確定申告期間前に改めて触れる予定です。