ビットコインから分岐した仮想通貨

「ビットコイン」は仮想通貨の「元祖」

「仮想通貨と言えば、ビットコイン」

ビットコインは仮想通貨の代名詞と言っても、おかしくはないでしょう。全世界に1000種類以上あるといわれる仮想通貨の中で最も知名度の高い代表選手で、日本でもすっかりおなじみです。あまりにも有名なので、ビットコイン以外の、総発行量で2位以下の仮想通貨はひっくるめて「もう一つの(オルタナティブな)」という意味の「アルトコイン」と呼ばれているくらいです。

ビットコインは世界で最初にできた仮想通貨、つまり元祖です。電子ネットワーク上で仮想通貨のしくみをつくり出した「ブロックチェーン」という基本技術を応用して、最初に開発された仮想通貨でした。今や世界の大手金融機関からも注目されるブロックチェーンの概念を最初に発表したサトシ・ナカモト(中本哲史)氏は、正体不明ですが日本人だといわれています。ビットコインは2010年、ネット上での支払いのために、仮想通貨として最初に使われました。

注目を浴びるようになったのはここ2、3年で、日本でその知名度がグンと上がったのは、2014年2月に起きた「マウントゴックス事件」でした。マウントゴックスとは当時世界最大だった仮想通貨取引所の名前で、経営者は外国人ですが東京に本社がありました。それがいきなり経営破たんしたため、利用者がそこに預けていた約65万BTCのビットコイン、約28億円の日本円が引き出せなくなり、大騒ぎになりました。注意してほしいのは、マウントゴックスは日本で言えばコインチェックやビットフライヤーやザイフのような取引所のうちの一つで、通貨のビットコインそれ自体に全く罪はなかったことです。日本ではそれが誤解されてしまい「ビットコインはこわい」「仮想通貨はこわい」と、イメージが悪化しました。

中国のビットコイン取引規制と10倍の急騰で再び注目

それから3年経過した2017年は、また別の話題でビットコインは注目を浴びました。一つは9月に中国政府がビットコインの取引を規制したことで、中国国内の仮想通貨取引所はビットコインの売買を全面停止しました。そのため、一時は売買シェアで9割を占めた中国の存在感は大きく低下し、日本が売買シェアトップに躍り出ました。もう一つは1月に1BTC=約10万円だった日本円との交換レートが、12月には一時1BTC=100万円を突破したことです。1年足らずでなんと約10倍の高騰です。中国政府の規制が始まって以来、ビットコインの交換レートはジェットコースターのような激しい乱高下を繰り返すようになりました。

その背景には、仮想通貨を持ちたい人、使いたい人が全地球的規模で増加しているという需要の高まりがあります。その統計を公表している「Cryptocurrency Market Capitalizations」によると、仮想通貨全体の市場規模は12月11日現在、約4566億ドル(約51兆8000億円)となっています。今年1月5日は182億ドル(約2兆円)でしたから、2017年に1年足らずで約25倍になりました(ドル円レートは当時のもの)。どんな商品でも、需要が急増すれば価格が上昇するというのは経済の大原則です。市場規模が25倍になったのですから、価格が10倍になってもおかしくはありません。しかも、ビットコインはその需要がどんなに急増しようとも、供給(総発行量)の上限は2017年の1月も12月も、2100万BTCのままで変わりませんでした。需要が急増、供給が一定でバランスが偏っていたのですから、価格が高騰するのも、ますますもって当然の結果だったわけです。

インフレを起こさぬよう総発行量に上限設定

ビットコインの総発行量は上限が2,100万BTCと決まっています。なぜそう決めているかというと、通貨の値打ちが下がる「インフレーション(インフレ)」を起こさないようにするためです。円もドルもユーロも、インフレを起こさないように発行する機関(日本銀行、アメリカ連邦準備銀行、ヨーロッパ中央銀行)が通貨発行量を調整しています。それなのに仮想通貨が発行量を好き勝手に増やし続けては、誰も仮想通貨を信用しなくなります。通貨としての価値がどんどん下がって、仮想通貨を持っている人が損をしてしまうからです。

「そんなことは絶対に起こさない。総発行量には上限を設けて、それをきちんと守る。だからビットコインを信用してほしい」

ビットコインの発行者は、通貨としての信用を守るために、総発行量の上限を設けてそれを超える分の通貨を発行しないという自主規制のルールを打ち出しました。ビットコインにならって、イーサリアムやリップルなども同じ「通貨政策」を採用しています。おかげで仮想通貨は金融界や社会からの信用を得て、現在のような地位を得たと言ってもいいくらいです。

しかし、供給に上限を設けると、増え続ける仮想通貨の需要に応じきれません。通貨量が不足すると「仮想通貨は全然出回らないから、使いたくても使えない」と敬遠されて、仮想通貨の発展が妨げられる可能性があります。それ以外にブロックチェーンのシステム上の技術的な理由もあり、電子ネットワークの中で送金が遅れる、処理速度が遅くなるなどの問題が生じてきます。

仮想通貨の需要と供給の間のアンバランスを解決する手段

ビットコインの場合は、日本でもネット通販が対応したり、街なかでも「ビットコインが使えるお店」が現れて、「買い物に使うお金」という役割が増していることも、その需要の急増に拍車をかけました。仮想通貨の需要と供給の間のアンバランスを解決する手段の一つは、全く新しい仮想通貨を発行することです。ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とかクラウドセールと呼ばれています。それがビットコインのような総発行量に上限がある仮想通貨の需要を肩代わりします。

もう一つの解決手段が、現在ある仮想通貨自体から、子どもを生むようにそれをもとにした新しい仮想通貨を誕生させて、再び一緒にはさせない「分岐(ハードフォーク)」と呼ばれる手段です。分岐すると、ブロックチェーン内部の「取引台帳」が新しく1冊、つくられてはっきり分離しますので、送金遅れや処理速度が遅いなどの技術的な問題もある程度は解消します。ビットコインでは2017年の8月に第1号、10月に第2号の分岐が実施されました。

ビットコインからの「のれん分け」で誕生

ビットコイン、ビットコインゴールド、ビットコインキャッシュの違い8月1日、ビットコインから分岐して「ビットコインキャッシュ(単位:BCH)」が分離・独立しました。本拠地は中国で、誕生当日の交換レートは「1BCH=1BTC」で、ビットコインを持つ人は同じ量のビットコインキャッシュに交換できました。12月11日現在の交換レートは1BCH=0.0865BTCで、分岐後、ビットコインとは異なる値動きをしています。

10月24日、ビットコインから分岐して「ビットコインゴールド(単位:BTG)」が分離・独立しました。本拠地は香港で、誕生当日の交換レートは1BTG=1BTCで、ビットコインを持つ人は同じ量のビットコインゴールドに交換できましたが、実際の運用開始は11月13日まで遅れました。12月11日現在の交換レートは1BTG=0.0149BTCで、これも分岐後、ビットコインとは異なる値動きをしています。

どちらの仮想通貨もビットコインから分岐(ハードフォーク)して生まれた、新しい仮想通貨です。ビットコインキャッシュの取引量はすぐにランキング上位まで浮上し、ビットコインゴールドのほうも現在ランキングのトップ10圏内まで上がっています。ビットコインのネームバリューもあって、2つとも仮想通貨の世界ではすでにメジャーな存在になっています。ビットコインキャッシュは日本の仮想通貨取引所でも売買できます。

2017年8月、ビットコインの分岐第1号としてビットコインキャッシュが誕生した時、日本の大手メディアでは「ビットコインがついに分裂した」と大きく報じられました。「分裂」と言っても、たとえば政治の世界で「A党がB党とC党に分裂」というような、「お家騒動」のようなゴタゴタの内紛が起きて内部が真っ二つに分裂した、という事件ではありません。それは仲間割れと言うよりは、そば屋さんや和菓子屋さんの「のれん分け」にたとえるほうが適切でしょう。「ビットコイン」が仮想通貨の「総本家」で、「ビットコイン○○○○」がのれん分けしたお店のようなものです。ビットコインから分かれても、ビットコインの「のれん(ブランド)」をつけています。内紛でケンカ別れしていたら、ブランドを使わせてもらえません。

分岐しても、ビットコインの利用者には何の不都合も起きていません。分岐直後には需要と供給のアンバランスが緩和されて、ビットコインの交換レートの急騰や急落が抑えられるという効果が出ましたが、仮想通貨の需要の伸びがすさまじいので、すぐに元に戻ってしまいました。なお、世界総発行量2位の仮想通貨イーサリアムでも2016年6月、イーサリアムクラシック(単位:ETC)が分岐しています。

2017年、必要に迫られて、総本家の「ビットコイン」がのれん分けするように、そのブランド(のれん)をつけた新しい仮想通貨「ビットコインキャッシュ」と「ビットコインゴールド」が分岐し、誕生しました。ルーツは同じで、ブロックチェーンのシステムもほとんど同じものを利用していますが、仮想通貨としては、その3つは全くの別物で、値動きも連動していません。「ビットコイン・ファミリー」と呼べるほどの濃い関係はなく、苗字が同じというだけでつきあいがない遠い親戚というより、ほとんど他人のようなものです。名前が似ているので、売買する時はくれぐれも混同しないようにご注意ください。

なお、ビットコイン分岐第3号として「ビットコイン・プラチナム(BTP)」という名前までついて11月23日に予定されていた「ビットコインSegwit2X」の分岐は、結局中止されました。それでも年明けの2018年1月、お正月早々に「ビットコインキャッシュプラス(単位:BCP)」がビットコインから分岐する話がいま、出ています。実現すればこれが第3号になりそうです。