あくまでもサラリーマン・年金受給者向けのルール

仮想通貨の取引は確定申告の対象であるが、20万円以下であればしなくても良いという話はよく聞きます。所得20万円以下の確定申告不要制度は、確かに所得税法上にも規定された制度です。しかし住民税に関して定めた地方税法には無い規定ですし、また誰もが使える制度でもありません。

対象者としては、会社で年末調整の手続きが行われたサラリーマン、もしくは原則65歳以上(場合によっては60歳以上でも)で受け取れる老齢年金の受給者です。また高所得者は使えない制度で、サラリーマンであれば年収2,000万円以下、年金受給者であれば年400万円以下で利用できる制度です。

確定申告する場合には20万円以下の所得も除外できない

サラリーマンが年収2,000万円以下でないと使えない理由は、この範囲を超えてしまうと会社は年末調整できず、確定申告義務が発生するからです。20万円以下の申告不要ルールは、厳密に言えば20万円以下非課税というルールでは無く、確定申告義務が発生しない場合に限り手続きが不要になるルールです。そのため事業所得が生計のメインとなる自営業者、もしくは専業トレーダーはこのルールの対象外であり、20万円以下の仮想通貨取引も申告対象となります。

また年末調整を受けたサラリーマンであっても、医療費控除のように確定申告しないと控除できないものを申告する場合にも、申告対象となります。また前年以前に事業所得・不動産所得や株FXで損失が発生し、損失を繰り越すためには確定申告しなければいけませんので、この場合も20万円以下の所得を含めて申告します。

ここで、上場株式等の配当所得、源泉徴収あり特定口座で発生した上場株式等譲渡所得との違いには気をつけてください。これらに関しては、所得税や住民税がすでに徴収されているので、金額に関わらず確定申告する際に除外できます。またすでに株式取引を行っていた投資家が仮想通貨も取引するケースはよくありますが、その際に理解したほうが良い事例を紹介します。例えば年末調整を受けているサラリーマンが、給与所得以外に20万円の雑所得(仮想通貨取引)と上場株式の配当所得(金額は問わない)を得ている場合は、確定申告不要制度を活用できます。

所得20万円の意味

仮想通貨取引と株式取引を行っているサラリーマンの事例を説明しましたが、このような事例を考えると、仮想通貨取引以外の投資も行っている場合は「所得20万円」の意味をよく理解しておく必要があります。給与所得以外に雑所得しか無ければ単純であり、雑所得が20万円以下という意味です。

複雑なのは例えば、仮想通貨取引以外に不動産投資を行っている場合です。給与所得以外に、仮想通貨取引の雑所得10万円+不動産所得10万円であれば、確定申告不要制度が使えます。仮想通貨取引の雑所得30万円+不動産所得△40万円の場合はどうでしょうか?税額計算上では不動産所得で生じた損失は、他の所得(不動産譲渡・株・FX取引は除く)と損益通算が可能で、給与所得や雑所得から差し引くことが可能です。

ただ所得20万円の判定に関しては損益通算を適用するとは規定されておらず、この場合は損失40万円を0円とみなします。もっともこの事例であれば、雑所得より不動産所得の損失が上回り、給与所得からも損失を差し引くことが可能なので、確定申告すると所得税の還付金も得られます。

なお不動産所得について青色申告を行っている場合は、10万円または65万円の特別控除額を差し引くことができますが、65万円の特別控除額を差し引く場合に確定申告不要制度は使えません。10万円を差し引く場合は次に説明する住民税の申告をすれば受け付ける自治体もありますが、基本は確定申告を行うことに気をつけてください。

確定申告不要でも住民税の申告は必要

仮想通貨税金地方税法に申告不要制度の規定が無いということは、20万円以下の所得にも住民税はかかることを意味します。所得税の確定申告とは別に住民税の申告もあり、確定申告を行えば住民税の申告も行ったことにはなりますが、20万円以下の確定申告不要制度を利用した場合は住民税の申告を行わないといけません。所得20万円の判定のために、2018年以降であれば交換業者の発行した年間取引報告書に基づいて「仮想通貨の計算書」で所得計算できます。

20万円以下であれば、この確定申告のための計算書は住民税の申告で利用します。住民税の申告書は各自治体で異なりますが、仮想通貨の所得を単独で書く欄は用意されません。仮想通貨の計算書「1 仮想通貨の名称」以降に必要事項を入力すると、「5 仮想通貨の所得金額の計算」欄に収入金額・必要経費・所得金額がまとめられますが、この計算書は仮想通貨ごとに分けて使用します。

例えば2018年の1年間でビットコイン・イーサリアム・ネムの3種類取引していた場合は、3枚使用します。全ての計算書について集計した収入金額・必要経費・所得金額を住民税の申告書・雑所得記入欄に転記します。その他給与所得がある場合は、給与収入や社会保険料控除など源泉徴収票の内容を住民税の申告書に記入します。

仮想通貨の計算書「2 年間取引報告書に関する事項」には、例えばビットコインについて複数の交換業者で取引していた場合は、その業者の数だけ入力します(2社あれば2行にわたって記入)。年間取引報告書に記載されない場合(仮想通貨決済で所得を得た場合など)は「3 上記2以外の取引に関する事項」に記入します。

「4 仮想通貨の売却原価の計算」では、2017年分の仮想通貨の計算で翌年繰越分として残した仮想通貨の金額を記入します。仮想通貨の計算書は総平均法ベースでしか利用できませんが、2017年分の取得費計算を移動平均法・総平均法どちらで計算していたとしても、前回の確定申告で計算した金額を使用してください。仮想通貨の計算書1枚で所得金額が20万円を超えていたとしても、他の計算書で損失が生じており全部合わせて20万円以下であれば、確定申告不要制度が利用できます。

手間と所得税額の軽減にはなるので有効に利用を

確定申告不要制度を利用したとしても、制度に則った上での手続きを行うとなれば相応の手間はかかります。しかし住民税の申告書では所得計算は行うものの税額計算まで行わないので、所得税の確定申告ほどの手間はかかりません。また確定申告書を作成した結果として所得税の税額が発生することがわかれば、確定申告を行うとともに申告期限(例年3月15日)までに納税も必要です。

しかし給与所得や公的年金等に係る雑所得以外に、仮想通貨取引による所得が20万円以下しかない場合は、確定申告を行わず納税もしなくて済みます(申告してしまったら納税も必要です)。最大で、所得20万円×40%(確定申告不要制度が使える範囲で最大の税率)=8万円程度の所得税が軽減されます。ただ20万円以下の所得だったとしても、所得控除を申告することによりむしろ所得税額が減ることもありえます。

例えば医療費控除を計算してみたら30万円になった場合は、20万円以下の所得を上回る所得引き下げ効果が得られます。もし所得税額軽減のために申告不要制度を利用するのであれば、確定申告書等作成コーナーでいったん確定申告書を作成し、還付金が生ずるかの確認をしましょう。確定申告書等作成コーナーで所得税を計算し、「納める税金」が生じた場合は、確定申告はしないほうがいいケースです。「還付される税金」が生じた場合は、確定申告したほうがいいケースです。