仮想通貨を所有している方の中で、現実の支払い手段としてコインを使ったことがあるという方は実はあまり多くないのではないでしょうか?現実的に使えるシーンが少ないという点や、投資目線で考えると価格の上昇が見込めるためまだ使うのはもったいないといった要素も出てくると思いますが、それに加えて決済手段や交換手段として使いにくいのが、種類が多く、しかもそれらを交換するにはどちらかが持ち逃げのリスクを負うか、取引所に高額な手数料を払って交換を行うかという2択になります。

しかし、そういった課題を解決しうるのが、異なるコイン同士の交換を、第三者を介さずに行うことができる「アトミックスワップ」です。今回はアトミックスワップについて、その仕組みや、現在の課題、今後アトミックスワップが仮想通貨市場にどのような影響を及ぼすかについて、考察していきたいと思います。

仮想通貨でアトミックスワップを使用しない場合の手間

たとえばですが、イーサリアムを手放してネムを入手したいAさんと。ネムを手放してイーサリアムを入手したいBさんの2人がいたとします。もし、2人が同量の仮想通貨の交換に合意したとすると、取りうる手段は2つあります。

① それぞれのウォレットに合意した金額を送金する
② イーサリアムとネムに対応する仮想通貨の取引所を利用する

① の場合、取るべき手続きは非常に簡易です。お互いに送金先のアドレスを教えあい、そこに送金するだけで手続きが完了します。しかし、言うまでもなくこの手続きにはリスクが伴います。どちらか一方が送金の義務を履行せず、相手の送金を持ち逃げすることが場合によっては可能だという点です。

その場での取引であったり、身元が分かっている相手同士の取引であればそういったリスクは回避することができますが、仮想通貨の魅力の一つはブロックチェーンの技術を用いて不正な取引をさせないことです。その保証により、相手側の信用リスクを避けて即時の取引を可能としているのに、「持ち逃げ」というアナログな方法で逃げられてしまっては価値が半減してしまいます。

② の場合も考え方は簡単です。ETH⇔NEMの交換に対応している取引所を使い、そこで取引を行うことで手続きが完了します。こちらであれば取引所という(おそらく)信用のある第三者を介すため、持ち逃げのリスクは極めて低くなりますが、一方で取引所に対し高額の手数料を支払う必要が出てきます。また、イーサリアムやネムといったメジャーなアルトコイン同士ですら国内の大手取引所では取り扱いがなく、海外の口座を使う必要性が出てきますので、もっとマイナーな通貨が絡むようであれば交換所の選定にはさらに苦労するでしょう。

仮想通貨のアトミックスワップという仕組み

これらの課題を解決する手段として有力なものが「アトミックスワップ」です。アトミックスワップを用いることで、第三者を介すことなく、異なる通貨同士の交換を実現することが可能になります。

このアトミックスワップを実現するための仕組みとして、それぞれの仮想通貨を、直接相手のアドレスに送金するのではなく一度「マルチシグアドレス」と呼ばれるアドレスに一度送金します。アトミックスワップはこの時点で、それぞれの通貨は元の持ち主の手元から一度離れるのですが、まだ相手はそれを受け取ることは出来ません。マルチシグアドレスに送金されている状態においては、それぞれの仮想通貨はいわば「暗証番号」がかかっている状態です。(正確な用語を使うと「HTLC」という仕組みでロックされています)

そして、アトミックスワップはこのロックの解除に必要なお互いの「暗証番号」(正確な用語を使うと「秘密鍵」)を交換し、その暗証番号及び、自分自身の本人確認(署名)を行うことで、同時にマルチシグアドレスのロックを解除し、それぞれの通貨をウォレットの中に手にすることができるという仕組みです。どちらかが、何らかの理由で操作を失敗した場合、もしくは悪意をもって秘密鍵の交換に応じなかった場合、仮想通貨の交換そのものが不成立となるため、どちらか一方が通貨を「持ち逃げ」される、というリスクを回避することができます。現状、仮想通貨は「非中央集権」をうたいながらも、結局のところ、第三者として交換を支配する取引所が力をもってしまっているのが現状ですが、そういった状況を一新し、ブロックチェーンの信頼性を用いて世界中の素性のわからない相手とも安心してアトミックスワップでの取引ができるようになります。

仮想通貨のアトミックスワップに対する課題

仮想通貨アトミックスワップ画期的な開発であるアトミックスワップですが、まだまだ実用化されはじめたばかりの段階で、アトミックスワップにはいろいろと課題を抱えています。アトミックスワップを「早速つかってみたい!」と思った方は下記の点にご留意ください。

① 時間がかかる
非常に便利なアトミックスワップですが、いくつかのステップを要するため現状は、場合によっては1時間以上アトミックスワップ取引に時間がかかるケースもあります。アトミックスワップの安全性自体は確保されているので、アトミックスワップはその間不安に駆られることはありませんが、せっかく既存の法定通貨の課題を解決する仮想通貨の交換なのですから、即時でのアトミックスワップの取引成立が期待されます。

② 手数料がかかる
取引所に手数料を支払う必要がなくなる、と言っても即ち無料でアトミックスワップ取引ができるようになる、というわけではなく、結局のところブロックチェーンを使った取引を行うため、その承認に対してアトミックスワップの手数料を支払う必要があります。とりわけ、スケーラビリティ問題を抱えるビットコインにおいては、取引に時間のかかるアトミックスワップの手数料は安くはないのが現状です。

③ 取り扱える通貨がまだ少ない
理屈の上では、あらゆる通貨同士を交換することができるアトミックスワップですが、現状交換対応可能な通貨は決して多くはありません。それも、メジャーな通貨で言うとビットコイン、ライトコイン、モナーコインなど、ビットコインをベースに作られたコインばかりです。その他、アトミックスワップに対応しているコインとしてはViacoin、Vertcoin、Decredなどの通貨を挙げることができます。それも優良なコインではあるものの、現状それほど交換の需要が高いものとは言い難いです。

仮想通貨市場にもたらすアトミックスワップの利便性

まだまだ実装されたばかりの機能で、交換できる種類も少なく、時間もかかる、そしてその時間に伴い手数料も高額と、実用化まで少し時間がかかる印象のあるアトミックスワップですが、概念、仕組みとしては素晴らしく、将来に大きな影響を与えるものとなりえるでしょう。今後、処理速度の向上や、それに伴い取引の手数料が下がれば十分活用に値するものになってくると考えられますし、イーサリアムなどの主要アルトコインとの交換が実現することにより、その需要は格段に広まることが期待されます。現状、種類が多すぎて交換手段としては機能せず、短期売買か「ガチホ」かの2択だった仮想通貨同士を交換することが可能となることで、各自が好きな仮想通貨を現実世界で活用できる幅が広がっていきます。

種類の異なる仮想通貨同士を交換することができるようになると、仮想通貨が現実世界で使われはじめ、その取引量も大幅に拡大することが期待されます。現状、投資、もしくは投機の対象となっている仮想通貨が現実に使用に足るものになり、その市場での価値がより実態を反映しながら価格がついていくことにもなっていくでしょう。仮想通貨全体が次のフェーズに進むにあたり、切り札となる技術かもしれません。