仮想通貨は今年も多くのアルトコインが生まれました。その中でも特に後半戦において、多くの話題を振りまいたのがビットコインキャッシュ(BCH)です。
2017年わずかの期間に相当値を上げたビットコインキャッシュ
まずはじめは今年の8月1日にUASF(User-Activated Soft Fork)が計画され、予てから懸案だったビットコインの分裂問題がいよいよ佳境を向えると話題になったことは知っている人も多いでしょう。ところが、これがUASFではなくハードフォークしビットコインと分裂。業界ではこの話題で持ち切りとなったのは記憶に新しいところです。
しかも本家ビットコインと同じレートとまではいきませんが、ビットコインキャッシュ自体もわずか3、4か月のうちに相当値を上げています(2017.12.前半時点で、1BCH=168,144円ほど)。真の実力を見るのにその判断は来年に持ち越されそうですが、ビットコインキャッシュがここまで行くと予測する方は少なかったでしょう。
そして極め付きは、ビットコインキャッシュのハードフォークが年末に掛けて浮上していること。ビットコインからハードフォークしたばかりのビットコインキャッシュに、さらなるハードフォークがあること自体、BCHの信頼性に問題があると受け取れます。ただ、良い悪いは別にして、誕生から現在も話題を提供し続けているのがBCHの実力です。
ビットコインが抱える「ブロックサイズ問題」
今回の分裂は要因は、ビットコインが長く抱える「ブロックサイズ問題」(あるいは「スケーラビリティ問題」)にあります。ビットコインはブロックチェーンと呼ばれる分散台帳のシステムで稼働しています。ブロックには取引記録が掲載され、それが1枚1枚連なったものがブロックチェーンであり、10分ごとに新しいブロックが形成されています。このブロックにはサイズがあり、ビットコインの場合は現在1MBに決められていますが、ビットコインキャッシュは最大で8MBまで広げられています。「ブロックサイズ問題」とは、ビットコインが定めた1MBという容量では少なすぎるので、サイズを増量し容量アップを目指そうという考えからきており、それがビットコインキャッシュのハードフォークを生んだと言っても良いでしょう。
ブロックの容量が小さいと、仮想通貨として海外送金に時間や手数料が余計に掛かります。また今後ビットコインが決済通貨として使用される頻度が高まると、いろんな場面で処理速度の問題が浮上するでしょう。ただ1MBという容量は、ビットコインが過去に外部から攻撃されないように選ばれたサイズです。そのため1MBという容量には、攻撃を防御する安全性の担保のため、多少の不便さは止むを得ないとする解釈もあります。またブロックサイズを単純に大きくすると、膨大な量のブロックを保存する大容量な端末が必要です。そのことで、誰もがすぐ参加できるビットコインの世界観が崩れ、いちばん避けたい中央集権化に陥る危険性が生じます。
この論争は今年や昨年に起こったことではなく、少なくとも2013年ごろから懸案になっていました。そして、わかりやすく言うと「ブロックサイズ問題」の右派はビットコインの運営・開発を担っている「ビットコイン・コア派」が君臨し、左派は主にマイナーを中心に形成している「アンリミテッド派」に分かれています。その対立の中で誕生したのがビットコインキャッシュというフォークコインです。今回の分裂を主導したのが中国の新興マイニングプール「ViaBTC」。つまり「アンリミテッド派」とは、中国のマイニングプール大手が中心と考えてほぼ間違いありません。
Segwitの導入
ビットコインが内包していた「ブロックサイズ問題」ですが、「ビットコイン・コア派」は何も改善案を提言しなかったのではありません。そのひとつにSegwitの導入があります。技術的解説はさておき、Segwitとは一体何を意味するかというと、要はビットコインの持つブロックの圧縮です。たとえば従来なら載せていた署名を省くなどで取引サイズを圧縮すれば、ブロックをサイズアップしたことと同じ意味を持ちます。このようにブロックサイズの問題を解決できると期待され、ビットコイン・コア派を中心とする人たちによってSegwitという技術は作られています。
Segwitは2017年8月24日にビットコインに実装されましたが、利用する取引所やウォレットがSegwitに対応していなければその機能は使えません。つまりSegwitという機能はそれに対応したソフトウェアが必要だということ。またSegwitに対応することで、ビットコインアドレスを変えなければいけません。Segwitがビットコインに実装されたとしても、Segwitという機能がすぐ使えるわけではないことを覚えておく必要があります。
さらに言うと、Segwitは期待された効果は発揮するでしょうが、これを実装したから幾ら手数料が安くなるとか、またどのくらい送金時間が短縮されるかなど、具体的な効果はまだ見えていません。そのため問題の改善につながる要素があるというのが現時点では正確な評価です。ただユーザー数が多いビットコインにSegwit機能が備わることで、モナーコインやライトコインより需要は高まることは確実です。手数料や付帯サービスも更新されるでしょう。「ブロックサイズ問題」から生まれたBCHは、新たにブロックサイズ問題を解決するSegwitという機能をビットコインに実装させたのです。
ASICBoostという特許技術
Segwitにはもう一つの重要な役目があります。それはASICBoostという特許技術を用いたマイニングを防止する技術がSegwitには備わっていることです。ASICBoostは中国を拠点に活動するマイニングプールが使う技術と言われ、コア派の開発者のメンバーのひとり、グレゴリー・マクスウェル氏がSegwitではASICBoostが使えないことを明らかにしています。ASICBoostは、たとえば一部のマイナーを年間で110億ドルも儲けさせるほど効果があります。そうしたメリットはSegwitの採用によって失われることから、中国のマイニングプールは当然Segwitの採用を好しとしません。
ただグレゴリー・マクスウェル氏にも言い分があります。それはASICBoostのような特許技術は、ビットコイン全体にとって潜在的なリスクを持ち合わせていること。ASICBoostの使用を野放しにすると、いつかはビットコインが描く世界観を損ないかねないという恐れもありました。それがSegwitという機能をビットコインに実装させたのです。
ただ、現状ではASICBoostについては最適化が必要であるとの見方が濃厚のようで、いきなり否定することはなさそうです。その一方でアルゴリズムへの明らかなハッキングに値するとの見方もあるのも事実のようで、その間の中で、どのような判断が今後待たれるかが気になります。
ビットコインキャッシュはマイニングが鍵
このようにみていくと、ビットコインキャッシュという仮想通貨はSegwitの実装に反対した人々によって作られ、マイニングする人に都合の良いビットコインという見方もできます。その一方で、ビットコインキャッシュが好調すぎる滑り出しを続けているのも事実。その勢いは、ASICBoostがビットコインのセキュリティホールとの見方があることも忘れてしまいそうです。何れにしても、中国を中心とするマイニングプールとコア派が繰り広げる「静かなる戦い」という図式には変わりありません。BTCとBCHは、ビットコインが本来掲げる世界観とマイニングという観点で、今後も注目していくべき戦いではないでしょうか。