ビットコイン先物上場による価格変動

ビットコイン価格の急騰を生んだ「ハードフォーク祭り」と「先物取引」の要因

12月初めに200万円を大きく超えたビットコイン(BTC)ですが、12月17日現在200万円前後で推移しています。14日にはビットコインキャッシュ(BCH)が24万円を超える急騰を見せる場面もあり、仮想通貨価格の乱高下が激しくなっています。200万円の壁には直面していますが、10月からBTC価格は3倍を超える急騰を続けていて、その原因は「複数回のハードフォーク予定」と「先物取引のスタート」にあると見られていました。

ウェブでは11~1月に連続で予定された分岐のことを「ハードフォーク祭り」と呼んでいます。12月10日には、CBOE(シカゴ・オプション取引所)の先物市場にビットコインが上場して、取引参加者数こそ少なかったものの、一時20%以上のBTC価格上昇も見られました。ビットコインは送金処理能力の低下と関係する「ブロックサイズ問題」を今も抱えていて、ビットコインキャッシュが8月1日にハードフォークして以降、機能強化を名目とするブロックチェーンの分岐を繰り返しています。ブロックチェーンの互換性がないハードフォークが実施されると、ビットコイン(BTC)とは異なるビットコインキャッシュ(BCH)のような「オルトコイン」が新たに誕生します。取引所によってはこのオルトコインを、BTCの枚数に応じて無償配布してくれる可能性があり、そうなるとBTCを持っているだけで「ノーリスクの追加的利益」を得られるのです。

現在のビットコインキャッシュは「1BCH=約15~20万円以上」で、8月の段階でBTCを多く持ちBCHを無料でたくさん貰えた人は、「錬金術的な価値増殖」を体験しました。しかしBCH以降、価値の高まったオルトコインが登場していないのも事実で、ハードフォーク祭りで「市場価格のつくオルトコイン」が多く生まれるかは疑問です。

ビットコイン先物上場とETFによる投資家層の拡大

シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の先物も12月18日にスタートしますが、当局規制の強い米国大手取引所の先物取引も、BTC価格を押し上げる要因となりました。CBOEでの初日のBTC先物の推定取引高は約5000万ドルで、その規模はBTCの現物取引(24時間)の約0.5%でしたが、「将来の取引価格」を前もって決定しておく先物取引は、「将来のBTC価格」に与えるインパクトも大きくなります。

既存の「株・債券・外為・商品の市場」でも、現物取引から先物取引が派生して、「短期的な価格変動の大きな要因」になっていきました。ビットコインは「現物の需給」が原油・食品のように実生活に関係していないだけに、より先物取引の「数字だけの上げ下げ」に将来価格が左右される可能性があります。未来の価格を先取りして決めてしまう先物取引は、「BTC価格の暴落・暴騰」の双方を誘発しやすいのです。BTCの大手マイナー(採掘者)が、マイニングの電気料金上昇を織り込んだ形で先物取引に投資する可能性はありますが、ビットコイン先物は商品のコモディティ先物と比べると「相場変動=モノの実需変化に対する保険の意味合い」は弱く投機がメインになります。

今年約20倍も値上がりしたビットコインに「空売り」を仕掛ける勇気は、現時点では資金力のあるヘッジファンド(機関投資家)にもないでしょう。しかし、CMEの先物上場は「伝統と信用のある取引所でビットコイン売買ができること自体」に意味があり、今まで新興の仮想通貨取引所を信用していなかった大手機関投資家の参加が増えてきます。先物の次はBTCの「ETF(上場投資信託)」が証券会社から販売される可能性もあり、株と同じ口座で少額から手軽に買えるBTCのETFが上場されれば、ビットコイン投資の裾野は証券口座の保有者層全体にまで広がります。

ビットコイン先物における「BTC値下がりの期待」の発生とビットコイン大量保有者の動向

ビットコイン先物の暴落リスクとBTCの現実への浸透CBOEのビットコイン先物は、著名起業家ウィンクルボス兄弟が運営するジェミニ取引所のBTCオークションの価格に基づいてドル決済する仕組みになっています。そのウィンクルボス兄弟自身も「ビットコインは総資産の数%程度に留めておくべき」という趣旨の発言をしていて、BTCがハイリスク・ハイリターンな金融商品であるという認識は強いようです。CMEのビットコイン先物は、「複数の取引所」のBTC価格を参照したドル建ての現金決済を行う仕組みになるようです。「各取引所の価格差」をタイミング良く利用して、利益を上げようとするアービトラージ取引(裁定取引)が活発化するという見方もあります。

一方、米国先物業協会(FIA)は「ビットコイン現物に触れない先物取引+取引所ごとに異なるBTC価格」において、ビットコイン自体に対する政府の監視・規制が弱すぎることを不安材料として上げているようです。いずれにしても、大手先物取引所や大手証券会社がビットコインを取り扱うようになれば、必然に「仮想通貨への法規制・市場整備」は今より強まっていくでしょう。

「先物取引」とは「将来の価格を予想してその価格で取引をすることを約束する取引・数ヵ月後~数年後にその約束した価格での決済が行われる取引」ですが、高値で売ってから安値で買い戻すという「空売り」ができるようになる特徴もあります。今までのBTC相場は「値上がり期待の一辺倒」で、ただBTCを買って保有し続けていれば良いという楽観的な考え方に覆われていました。しかし大手機関投資家が「ショートポジション(空売りの態勢)」を持つようになれば、「BTCの値下がりを期待する機関・資金」の思惑も考える必要が出てきます。ビットコインの最大保有者は開発者サトシ・ナカモトとされますが、BTC市場では「ホエールズ(クジラ)」と呼ばれるBTC大量保有者(約1000人でBTC全体の約40%を寡占)の連携による市場操作(一斉の売りで暴落)の恐れも指摘されています。

ビットコインの「ハードフォーク祭り」で逆に仮想通貨分裂に注目が集まりにくくなった

ビットコイン価格の押し上げ要因になった「ハードフォーク祭り」ですが、11月24日に「ビットコインダイアモンド(BTD)」がフォークしてコインチェックなどでBTD付与が決定されたものの、それ以降のフォークには「延期・詐欺疑惑・無価値化(名前だけで需要なし)・情報の不透明さ」などの問題も多く見られます。

「ビットコインプラチナム・スーパービットコイン(12月17日)・ライトニングビットコイン(12月20日)・ビットコインゴッド(12月25日)・ビットコインウラン(12月31日)・ビットコインシルバー(12月中)・ビットコインキャッシュプラス(2018年1月2日)」と、ビットコインは次々に分裂する予定ですが、あまりに頻繁なフォークは「注目・信用・新通貨の価値」を落とすだけの可能性もあります。実際、韓国・中央日報の報道では、ビットコインプラチナムのハードフォーク予定が、韓国の少年による空売り目的の詐欺事件であったと報じられ、「ハードフォークに対する注目の高さと利益への期待(分裂で無料の新通貨を貰おうとするBTC投資家の思惑)」を悪用しようとする人も出てきています。

確かに、ビットコインのハードフォークは「SegWit2Xの無期限延期」を受けて、送金能力に劣るビットコインに取って代わろうとする「新通貨の機能競争」といったまともな側面もあります。しかし、いくら優れた機能・仕様を持つオルトコインでも、短期間にこれほど大量の新通貨が分裂すると、投資家は資金・心理の両面で「実際の投資意欲」はどうしても落ちてしまうのです。

ビットコインダイアモンドもブロック容量を8MBに拡張して送金能力を高め、リプレイアタック対策も備えているという意味で優れたオルトコインですが、それ以降の新通貨も機能面だけ見ればBTCよりも優れています。しかしBTCから分岐する新仮想通貨が、二匹目のドジョウならぬ「二匹目のビットコインキャッシュ」になれるかといったらそう簡単ではないでしょう。

ビットコインで給料を支払うGMOとビットコインのリアルへの浸透と価値の安定化

CMEにおけるビットコイン先物上場は、機関投資家の仮想通貨市場への参入を促進することで、ビットコインの現実社会(リアル)への浸透を深めていくことになります。大手取引所がBTC先物を扱うことによって、「カウンターパーティーリスク(取引所の不正・破綻のリスク)」が軽減され、「資産保管の安全性」が高まるので、新興の仮想通貨取引所を信用していなかった機関投資家も資金を投入しやすくなるのです。

BTCを伝統・信用のある大手取引所が取り扱うことで、BTCの売買が活発になる「流動性の上昇」が起こります。市場の過熱を抑制して取引を中断する「サーキットブレイカー」で、「BTC価格の急変動」が今までより抑えられやすくもなるでしょう。投機家はギャンブルのような価格の急変動を好みますが、「安定的な値動き・緩やかな価格上昇」の方が、リアルでは受け容れられやすいのです。

GMOコインやマイニングなど仮想通貨事業に意欲的なGMOインターネットグループは、「従業員にも積極的に仮想通貨に触れてほしい(仮想通貨の基本的な知識を経験的に得てほしい)」という目的から、「ビットコインによる一部給料の支払い制度」を来年3月から開始するようですが、先進的で面白い制度ですね。GMOのような大手IT企業が、ビットコインで給料を支払う事によって「ビットコイン(仮想通貨)に対する社会一般のいかがわしいイメージ」が薄れる効果も期待できます。GMOではビットコイン給与金額の10%を「奨励金」として支給するので希望者は多くなりそうです。ビットコインの「リアルな仕事・生活・買い物への浸透度」が深まれば深まるほど、「仮想通貨の将来の価値・人々の信用」は安定的に高まりやすくなります。