2017年11月、岡山県にある西粟倉村という1つの小さな自治体が、財源を確保するためにICOを行うことを発表しました。新たな仮想通貨として「西粟倉コイン」なるものを公開し、投資家たちから他の仮想通貨でこれを購入してもらうことにより、資金を調達するということです。世界的にも珍しいという自治体のICO活用ですが、それが西粟倉で行われるのはなぜなのか等、この件に関わる情報を調査しました。

自治体である西粟倉村がICOを活用しようとしている理由

村の財源を仮想通貨で賄う試み新たな仮想通貨を発行して投資家に購入してもらい、事業資金などを調達するICOという手法は、今までだと主に企業が行ってきました。株式などに比べて容易に売買できることから、近年では実践するところも増えているのですが、たった1,500人しかいない西粟倉村が行うのはなぜなのでしょうか。それには、この村が推進している「百年の森林構想」と、地域に根ざしたベンチャー企業の設立を支援していることが関係していました。

まず百年の森林構想は、これまで50年かけて育ってきた木々を、これからの50年間でより良い森林とするためのプロジェクトです。そして西粟倉村では、地方創生を目指して定住・移住と起業を支援しています。この2つを組み合わせ、大量の間伐材を村内のベンチャー企業が活用し、その商品やサービスで村内の生活を賄う。という経済的な循環を目指しているのが、西粟倉村なのです。

これらに代表される西粟倉村の活動が評価され、国からは地方創生推進交付金として今年も8,000万円が交付されているのですが、2020年度で終了する予定となっています。西粟倉村は2021年度から新たな財源を確保する必要があり、その対策としてICOの活用を選んだのです。

西粟倉コインを発行して流通させるとどうなるのか

西粟倉村が発行しようとしている西粟倉コインですが、これは実際に発行されると、まず投資家がビットコインなどといった別の仮想通貨で西粟倉コインを購入し、手に入れた西粟倉コインを世界に向けて売買します。もちろん、売買せずに手元へ置いておくことも可能です。この時点で既に西粟倉村はビットコインなどを得ているため、そのまま日本円へ換金して村の財源に充てることができます。

一方で世界中に流通させた西粟倉コインですが、村内やネット上のECサイトで使えるようになる見込みです。これは想像にすぎませんが、例えば西粟倉村のカフェで飲食する場合、宿舎等の施設を利用する場合など、村内ならどこでも西粟倉コインが使えるようになるかもしれません。ネット上では、村式という会社がECサイト上で西粟倉村の商品を取り扱い、購入には西粟倉コインが使えるという流れになります。

つまり、西粟倉コインは西粟倉村のみで通用する通貨として機能すると言えます。これまでの常識で考えれば自治体が通貨を発行するなんて不可能ですが、仮想通貨を用いることで実現されるわけです。しかも、株式と違って発行や売買の敷居が低いため、様々な人が利用してくれて十分な財源になるという期待も高くなっています。

ICOでどれだけの資金が調達できるのか

地方自治体のICOに見る仮想通貨の新たな活用法では、ICOを使えばどれくらいの資金が集まるのでしょうか。過去の事例を調べてみると、意外なほど短い時間で驚くほどの大金が調達されていました。

例えば、ブラウザ開発を行う会社であるBraveは、ICOでオリジナルの仮想通貨を公開してからわずか30秒で、3,500万ドルもの資金を調達していたのです。日本の企業では、ALISというベンチャー企業が4分で1億円を集めていますし、テックビューロ株式会社は1ヶ月ほどの合計で109億円を調達しました。

もちろんこれは成功した一部を取り上げての話ですが、ICOでの財源確保にかかる期待の高さが、お解りいただけるのではないでしょうか。西粟倉村がここまでとは行かなくとも、これまで国から交付されてきた年間8,000万円という金額は、案外あっさり達成するのではと思ってしまいます。あとは、発行した西粟倉コインに対する価値となる明確な商品やサービスが、どこまで良いものを提供できるかで大きく変わってくるでしょう。

実は国家もやっていたICOでの財源確保

ICOを活用して財源を確保しようと試みているのは、何も西粟倉村に限った話ではありません。なんと一介の自治体どころか国家であるエストニアが、仮想通貨を発行する試みを検討しているのです。正確には国が発行するというより、あくまで政府の経済戦略として推進するだけとの話もありますが、それでもスケールが大きくて興味の尽きない話題だと思います。

実はエストニア、居住していなくても国民になれる「電子居住者」というシステムがあり、さらにその電子居住者たちが利用できる銀行も存在し、なんと法人の設立までできてしまいます。ここまで電子化が進んだ国なので、「資金調達は仮想通貨で」となるのも頷けますし、ICOとの相性が良い国でもあるわけです。

このように、自治体だけでなく国もオリジナルの仮想通貨を発行するようになれば、世界中の誰もが支援したい国へ投資できるようになります。異なる点もありますが、ふるさと納税を全世界に向けて行えるといったイメージでしょうか。ICOなら仲介者も挟まずダイレクトに投資できるため、投資家からすれば効率的になり、取引そのものも非常に速く済むと考えられます。

現時点では、こういった仮想通貨のやり取りに関する法律を整備できていない国が多く、ICOに関連する詐欺事件が後を絶たないこともあって、公的機関が活発的に利用するにはまだまだ遠そうです。しかし、仮想通貨だからこそできる新たな資金調達の仕組みとして、ICOは今後いろいろなところに広まってほしいものですね。

ICOは個人のためのクラウドファンディングにも活用できる

ここまで企業や自治体の話ばかりしてきたので、あなたには関係ないことだと思われたかもしれません。しかし、ICOを使って資金調達をするのは団体だけ、というわけではないのです。仮想通貨を発行するのは個人でも簡単にできることで、それを使って資金調達をするために、あなたがやりたいことをウェブサイトやSNS上で拡散し、協力を募るだけだからです。

株式のように証券取引所へ上場する必要もなければ、クラウドファンディングの仲介も必要ありません。仮想通貨の取引所すら関係なく、あなたと投資家との間で直に資金調達の取引ができるのです。資金調達してまで実現したいプロジェクトの展望がしっかり示せなければ、実際に投資してもらうのは難しいと思いますが、そのチャンスは誰にでもあります。あなたも何らかの形で資金調達が必要になったときのため、知っておいて損はないと思いますよ。

今までは世界中で共通して使える通貨として、または株式などと同様の投資市場としてばかり注目されてきた仮想通貨でしたが、その新たな活用法となっているICOは、個人から国家まで幅広く用いることができるために注目されているのです。

しかし、法整備もまともにできていない現状だと、オリジナル仮想通貨は売買する人にとってかなり不安です。例えば、オリジナルの仮想通貨を発行してプロジェクトの支援を求めていた人が、結局プロジェクトを完遂できなかったとしたらどうなると思いますか?成果物が無いのですから、その仮想通貨を成果物と交換することはできません。それどころか、仮想通貨そのものが無価値になる危険性すらあるのです。このようなリスクを考えずに投資できるよう、してもらえるよう、仮想通貨に関する法整備がいち早く行われることを願っております。