460億円もの巨額流出を補償できたコインチェック
仮想通貨交換業者のコインチェックは、CMをうっていたため、仮想通貨投資家であれば広告で知った人も多いでしょう。ただコインチェックの知名度が大きく上がったのは、悪い意味ではありますが2018年1月の仮想通貨NEMの巨額流出です。
仮想通貨交換事業者の登録制は2017年度より開始されましたが、コインチェックは正式な登録交換事業者ではなく登録に半年の猶予期間が設けられたみなし業者であり、セキュリティの甘い状態で仮想通貨の保管を行っていたことが問題視されました。コインチェックの500億を超える流出額に対しては、本当に補償できるかの問題もありましたし、2018年9月に約67億円の仮想通貨流出があったテックビューロは、フィスコから約50億円の支援を受ける予定でした(その後、フィスコへの仮想通貨交換事業の譲渡に変更)。
しかし3月には、補償総額に関しては評価額を下げて約460億円としたものの、補償を終えたとコインチェックは発表しました。補償できたとしてもコインチェックは経営状態が危ないのではという懸念は残ったわけですが、後に買収したマネックスグループの決算発表で驚くべきことがわかりました。
2018年3月期1年間の営業利益が460億円を超える
マネックスグループが、株式投資家に向けた活動の一環として、2018年4月26日に2018年3月期(2017年4月~2018年3月)の決算発表を行いました。コインチェックの買収は2018年4月16日の話なので、2018年3月期はマネックスグループと関係が無いとは言えますが、今後のことがあるためコインチェックの概算レベルでの決算を公表しました。その決算内容は下記の通りです。
売上高 626
販売費及び一般管理費 88
営業利益 537
税引前当期純利益 63
コインチェック 2018年3月期決算の概算(単位:億円)
※マネックスグループによる発表:http://www.monexgroup.jp/jp/investor/ir_library/presentation/main/0110/teaserItems1/01/linkList/07/link/JP_20180426_FinancialResult.pdf(P6)
コインチェックの営業利益が537億円であることに注目してください。この営業利益で補償できたことになります。なお営業利益とは売上高から、仕入値等の売上減価や人件費・広告費等の営業費用を差し引いたものを言います。ここから配当金や借入利息などの営業外利益・費用や、臨時的な利益・損失をプラスマイナスしたものが税引前当期純利益です。
コインチェックの営業利益と税引前当期純利益の差額が473億円程度ですが、NEMの補償損失460億円+αと考えられます。なおここで言う売上高とは、仮想通貨の売却収入から仮想通貨購入費を差し引いた額を指します。
仮想通貨交換業者が儲けられる巨額の利ザヤ
コインチェックの仮想通貨の儲けが1年間で626億円というのは、相当な儲けでもあります。2017年4月~2018年3月という期間は、特に2017年11~12月にビットコインなどが暴騰した地合いのよい期間を含んでいます。
仮想通貨交換業者は、販売所としては仮想通貨を一旦仕入れて保有したものを販売しています。2018年3月期は地合いの良さを生かして、安値で仕入れた仮想通貨を高値で売れたからたまたま巨額の利ザヤを得ることができた、と判断できます。コインチェックの営業利益537億円も前年比で75倍であり、地合いの良さによる驚異的な伸びと解釈できます。
そうなると、翌期の2018年4月からは暴騰しているわけではないので儲けられないのでは?とも考えられます。実際に2018年に入ってからは、NEM流出事件の2・3月の2ヵ月のコインチェックの売上高は20億円、営業利益は5億円であり落ち込んでいることがわかります。
2019年3月期第1四半期で赤字に転落
2018年4月16日にコインチェックはマネックスグループ入りしたので、2019年3月期第1四半期に関しては、マネックスグループの1事業(クリプトアセット事業)のセグメント業績として発表しました。金融費用・売上原価控除後の営業収益9.42億円であるものの、税引前当期純利益は2.59億円の赤字になりました(https://file.swcms.net/file/monexgroup/dam/jcr:dd78334a-9bc8-4e93-9dba-64cfd2adaa57/140120180726486213.pdfのP6)。
まず仮想通貨交換業者に共通する原因から考えます。不祥事や規制、それに伴う仮想通貨交換業者の撤退(詳細は後述)の影響で、決して良くない仮想通貨の地合いが続いたことが1つの原因と言えます。マネックスグループの他に、仮想通貨交換事業をグループ会社が営んでいる上場企業には、GMOインターネットやフィスコがあります。両者ともに決算期末は12月末ですので、2018年10月時点では2018年12月期の中間決算(第二四半期決算)まで発表しました。
フィスコ 2017年
1~12月 2018年
1~6月
売上高 9.0 2.8
セグメント利益 7.5 2.7
GMOインターネット 2017年
10~12月 2018年
1~3月 2018年
4~6月
収益 8.6 1.9 14.2
営業利益 5.0 △ 7.6 5.5
フィスコ・GMOインターネットの仮想通貨交換事業の業績(単位:億円)
フィスコ2017年12月期第4四半期決算短信:http://www.fisco.co.jp/uploads/20180214_fisco_tanshin.pdf(P6)
フィスコ2018年12月期第2四半期決算短信:http://www.fisco.co.jp/uploads/20180814_fisco_2Q.pdf.pdf(P4)
GMOインターネット2018年12月期第2四半期決算説明会資料:https://ir.gmo.jp/pdf/presen/gmo20180809_01.pdf(P40)
フィスコは2017年12月期本決算と2018年12月期中間決算における仮想通貨事業のセグメント業績(部門業績)を抜粋しましたが、2018年1~6月の売上高・営業利益は2017年12月期の半分以下です。仮想通貨の保有評価損益・売買益が2017年より良くないと判断できます。
一方でGMOインターネットは、2017年の第4四半期(10~12月)から2018年4~6月の3四半期分における、仮想通貨交換事業の収益・営業利益を抜粋しました。波があり2018年1~3月の営業利益は赤字を出しましたが、その後自助努力でポジションコントロールに成功し2018年4~6月の収益は大きく伸びています。
次に業績悪化につながるコインチェック独特の事情としては、仮想通貨交換事業を自粛している上に、登録や不祥事再発防止に向けた体制整備が求められている点が挙げられます。仮想通貨流出事件後はコインチェックを通じて投資家が仮想通貨を購入することができず、所有した仮想通貨の売却しかできなくなりました。コインチェックは収益源が限定され、なおかつ仮想通貨交換業の登録に向けた準備費用がかかりました。
強まる規制に撤退が相次ぐ仮想通貨交換業者
仮想通貨市況は2017年のような急騰が無く(また2018年末に向けて急騰が起こることも考えられますが)、仮想通貨交換業者をめぐっては流出事件などセキュリティ面の問題を起こす事例が散見されるため、規制が強まっています。仮想通貨NEM流出事件以降、金融庁はみなし業者全てと仮想通貨登録業者の一部に立入検査を行いました。
金融庁の改善要求を受け入れることが出来ずに、撤退していくみなし業者も相次ぎました。仮想通貨の分別管理、流出を防ぐようなセキュリティ強化、万が一不祥事が起きた際の報告体制、マネーロンダリング対策、投資家の本人確認など要求されています。上場企業やそのグループ企業であれば対応できる要請であっても、そうでない仮想通貨関連業者は難しいものが多々あります。
コインチェックはNEM流出事件で補償できたとはいえ、その後の立て直し・体制整備で厳しい業績になったことを数字が示しています。このような苦境に対処するために、コインチェックも他業者のような撤退もありえたのですが、マネックスグループ側の事情もあり傘下入りしました。
仮想通貨交換業登録も難しくなっている?
当初マネックスグループは6月目標で、コインチェックの仮想通貨交換業登録を目指していましたが、遅れており9月時点でも登録業者とはなっていません。匿名性の高い仮想通貨は取り扱いをやめるなど自主的に改善を進めており、コインチェック側の目立った問題点は表に出てきておりません。
コインチェックの立ち入り検査に時間がとられた金融庁側の審査に時間がかかっているのが原因であり、金融庁側も検査に注力していることを認めています。さらにコインチェックの場合、マイナーな仮想通貨を取り扱っていることも原因と考えられます。
コインチェックは2017年で最後の登録が止まっており、2017年4月の登録制導入以前から営業していたみなし業者も自主撤退だけでなく、登録拒否される例も出ています。もっとも9月12日には金融庁の総合政策局長が会見で、新規登録審査に軸足を移す方針を語っており、進んでいく可能性はあります(残念ながらその少し後に、テックビューロの仮想通貨流出事件が起きてしまいましたが)。
コインチェックは営業さえしていればGMOのように企業の自助努力で利益を得ることも可能ですが、コインチェックの場合は登録を受けて営業再開するとしているので、登録完了しない限りは厳しい状況が続いていきます。コインチェックの業績は仮想通貨業界の将来を占うものとして注目されているので、登録されてからが正念場です。