トークンとは?

仮想通貨取引所で売買ができるものは、ビットコインに加えてイーサリアムやリップルなど「アルトコイン」と呼ばれる仮想通貨と、「トークン」という名前のものが載っていることがあります。その「トークン」とは、いったい何なのでしょうか?

トークンと聞いて、ニューヨークの地下鉄を思い出す人もいるでしょう。現在は「メトロカード」を読み取り機の溝に通して改札を通りますが、2003年までは駅構内の自動販売機でコイン型の「トークン」(全線均一運賃)を買って、それを改札機の投入口に入れて、棒を押して通っていました。改札機の構造がシンプルになるので、交通局にとっては安上がりでした。

仮想通貨の世界で言うトークンの語源は、それです。日本語では「代用貨幣」と言いますが、ドルや円などの代わりに使える「通貨のようなもの」という意味です。スロットマシンのメダルも、それに似ています。しかし、地下鉄のトークンは地下鉄に乗るためだけ、スロットマシンのメダルはスロットマシンで遊ぶためだけに使われますが、仮想通貨の世界のトークンは、「通貨のようなもの」として扱われ、取引所で他の仮想通貨や円やドルと交換できます。その中でも、ビットコインなどは「通貨」そのものですが、トークンは「通貨のようなもの」で、通貨とは違うとみなされています。

通貨ではなく、通貨のようなものが「金券」

仮想通貨のトークンとは私たちが日常で使っていて、あえてトークンに近いものを挙げるとすれば「金券」でしょう。デパートの「お買い物券」も、買い物をすればもらえる、次回の買い物の時にこれを出せば100円分割り引きますという「クーポン券」もトークンに似ています。また、鉄道やバスの回数券もそうです。商品や景品の「引換券」もそれに入ります。そんな金券は法律上は「有価証券」という扱いで、もし、カラーコピーで偽造して支払いに使おうとして係員に見破られたら、にせ札(通貨の偽造)と同じように「有価証券偽造罪」「偽造有価証券行使等罪」で、警察に逮捕されます。

仮想通貨のトークンは「金券」に近い存在ですが、もちろん紙の「券」ではありません。トークンは、電子ネットワークの中に存在する形のないものなのです。トークンの特徴は仮想通貨とほとんど同じなので、「仮想金券」とでも呼べばいいでしょうか。

トークンは仮想通貨と同じように売買される

デパートのお買い物券や鉄道の回数券のような紙の「金券」は、金券ショップに行くと売っています。現金と交換する買い取りにも応じています。仮想通貨の世界の「仮想金券」とも言えるトークンは、それを取り扱っている取引所では、仮想通貨と同じように売買ができます。たとえば日本の三大仮想通貨取引所の一つ、「ザイフ(Zaif)」では、売買ができるトークンとして次のようなものが挙げられています。
・Zaifトークン
・ペペキャッシュ(pepecash)
・ビットクリスタルズ(bitcristals)
・カウンターパーティー(XCP)
・ストレージコインX(SJCX)
・フィスココイン(FSCC)
・カイカコイン(CICC)
・ネクスコイン(NCXC)
Zaifはトークンを多く取り扱っていることで知られています。そして、特にZaifを運営するテックビューロが発行する「Zaifトークン」は、2017年7月にZaifに限って売買がスタートしましたが、翌月にかけて2.5倍以上に急騰し話題になりました。しかし、あくまでも仮想通貨ではなく、トークンとして扱われています。

トークンの発行は仮想通貨のしくみを利用

トークンは仮想通貨の世界の「仮想金券」で取引所で売買が可能ビットコインやアルトコインもトークンも、同じ「ブロックチェーン」という電子ネットワークの技術から生まれた兄弟のようなものです。しかし決定的な違いもあって、トークンは言ってみれば、「ビットコインやアルトコインなどの兄のようには、なれなかった弟」とでも言えそうな、ちょっとかわいそうな存在です。決定的な違いとは何かというと、たとえて言えば「兄は新品の洋服を買ってもらえたのに、弟は兄が着古したお古の洋服しか着せてもらえない」という点にあります。

仮想通貨の兄は、発行する時に利用するブロックチェーンが、一からつくられた新品です。洋服(プラットフォームと言います)が新品を着ているから「基軸通貨」と呼ばれ、仮想通貨の世界に華々しくデビューします。しかし弟のトークンは、既存の兄のブロックチェーンをそのまま流用してつくられ、発行されます。そのプラットフォーム(洋服)は、お古です。場合によっては、兄ではなく親戚や赤の他人のブロックチェーンを流用してつくられることもあります。発行者にとってはコストが安くすみますが、弟のトークンはそうやって、「兄のコピー」や「誰かさんのコピー」として、本物の仮想通貨ではない存在になります。

その違いをまとめると、ビットコインのような「仮想通貨(基軸通貨)」は、新規のブロックチェーンでつくられ、発行され、利用されますが、「トークン」は、既存のブロックチェーンでつくられ、発行され、利用されるものです。また、仮想通貨は設計上、発行量が決まっていますが、トークンには発行量に制限がないという違いがあります。たとえばビットコインは最初から発行量の上限が2100万枚と決まっていて、変更できませんが、トークンは発行者が発行量の上限を自由に決めたり、変更したりできます。

そのため、トークンは「株式のようなものだ」と言われることもあります。たとえば、円は日本銀行がその発行量が急に増えないように厳しく管理していますが、株式は、それを発行する会社が資金を手に入れたいと思えば、何万株でも発行することできます。そんなことをすれば、その株の1株あたりの値打ちはドッと下がってしまいますが、やろうと思えば、好きなようにできます。

このようにトークンは、仮想通貨よりも発行者にとっての「自由度」がずっと大きいわけですが、それと「トークンの自由さ」と引き換えに「信用」という点では見劣りします。もしもあるトークンを好き勝手にどんどん発行されたら、トークンの値打ち、つまり他通貨との交換レートがどんどん悪化して、そのトークンを持っている人は大損してしまう恐れがあるからです。その恐れをカバーできるだけの何かを持っているトークンが、価値を持って交換レートが上がります。ビットコインやアルトコインよりは価値が低いと思われているトークンでも、しっかりとした技術力と、存在する価値さえ持っていれば、そのトークンの価値は上がっていくのです。

トークンの交換レートはこうやって決まる

トークンが「株式のようなものだ」と言われる理由は、発行者はそのトークン発行量を自由に決められる、ということだけではありません。 トークンを発行して、それが買われたら、発行者はトークンと引き換えに日本円の資金を得ます。その資金を元手に、たとえば開発の設備を増強したり、優秀な人材を雇ったり、他の会社を買収するといった「事業投資」を行い、利益をあげて業績をあげることができます。トークンは株式と同様に、資金を調達する手段なのです。

ただし、トークンを持ってもふつう、株式と違って配当はもらえません(配当を出せるような設計はできます)。株主総会ならぬ「トークン持主総会」などありませんから、経営者に対して意見を言う場もありません。もしトークンを買い占めても、発行者の会社を買収することはできません。トークンの持ち主は、その会社の持ち主(オーナー)ではないからです。トークンの「市場価値」つまり値打ちや、他通貨とトークンとの交換レートは、発行者の事業の成功、不成功によって左右されるという特徴を持っています。それは、株式の株価が発行した会社の業績が良ければ上昇し、悪ければ下落するのに、よく似ています。もっとも実際は、業績が発表されるより前に、投資家は業績が良くなりそうだと判断すればその会社の株を買い、悪くなりそうだと判断すればその会社の株を売ってしまいます。トークンも、発行者の業績が良くなりそうだと判断されれば、他の通貨を売ってそのトークンを買う動きが出て、交換レートが良くなります。逆に発行者の業績が悪くなりそうだと判断されれば、そのトークンを売って他の通貨を買う動きが出て、交換レートは悪くなります。よって、そのトークンを取り巻く状況をしっかりと情報収集することが、投資をする上ではとても大切になります。

株でもよくあるように、トークンの場合でも、事業を始めてから日が浅く、業績をあげていなくても、「アイデアが良い」「他社との競争に勝てる要素がある」「大手企業がバックについた」といった理由で評価される場合があります。そして、そのトークンの将来性が見込まれ、投資家に買われることがあります。まるで人気投票のようなもので、発行者を応援するためにトークンを買うと言う人もいます。もちろんそれは損得ではなく、そのトークンのプロジェクトを応援する気持ちがあるからですが、もちろん、後でトークンの交換レートが良くなれば、それを売って儲けたいという思惑があります。

この点は、ビットコインやアルトコインとは大きく違います。仮想通貨と他の通貨との交換レートの大部分は、需要と供給のバランスによって決まります。ビットコインなどは発行量(供給)の上限が決まっているのに需要がうなぎのぼりなのでそのバランスが崩れ、1年のうちに交換レートが10倍になりました。一方、トークンは人気が出て需要が急増すれば、発行者はそれに対応しようとトークンの発行量(供給)を増やすので、トークンとの交換レートが10倍になるようなことはまずありません。それでも、将来性があると判断されたトークンは、短い期間のうちに2倍、3倍になることは、あります。

日本の金融庁も、規制が厳しい株式を発行しなくても資金を調達できる、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とかクラウドセールと呼ばれるトークンの新規発行を気にするようになりました。下手をすると株式の役割がそっくりトークンに置き換わってしまい、経済の秩序がひっくり返ってしまうのではないかという恐れを抱いているかもしれません。また、トークンは簡単発行されるため、詐欺グループがトークンを発行し、調達した資金を持ち逃げするような事件も発生しており、トークン自体のイメージが悪くなっているという面もあります。そのため将来、トークンの発行が規制される可能性もあるということを頭に入れておきましょう。