イーサリアム(ETH)はビットコインに次ぐ人気を誇る仮想通貨として認識されています。その反面、イーサリアムに関連したウォレット等に深刻な脆弱性が見つかり、多額な資金が凍結されるというネガティブなニュースもいちばん提供しています。
トラブルが多発するもイーサリアムが好調な理由?
最近では今年の11月の出来事。イーサリアムにもウォレット・サービスを提供するParity Technologiesというクライアントが、自社のマルチシグ・ウォレット(Muti-sig wallet)に重大な脆弱性があることを発表し話題になったところです。Parity Technologiesによれば、影響を受けるユーザーは7月20日以降にウォレットをインストールしたユーザーで、当該ウォレットで少なくとも616,000イーサ(ETH)が凍結していること。Parityの利用範囲がどのぐらいなのか分かりませんが、ロックされたのはおそらく60万イーサではきかないはず。
そもそも事の発端は、Githubアカウントを持つユーザーがParityのウォレットを調査目的で調べていた際、偶然にウォレットのオーナーになり、イーサを凍結してしまったようです。しかし大もとの原因は何かと言えば、イーサリアムの特徴でもあるスマートコントラクトのプログラムの難しさにあります。Parityのブログラムのバグは今回とは別の脆弱性を7月にも発覚しており、今回のトラブルは修正したプログラムから見つかったからです。
わずか数か月のうちに2度のバグが発覚したわけですが、その原因が直接イーサリアムにあったとは言えません。ただ今や仮想通貨として世界2位の価値を保有するイーサリアムということもあり、与える影響だけでも大きくなります。価格変動も当然激しいでしょう。しかしそうした負の影響が2017年もあったものの、イーサリアムは人気は全く衰えず、バブルと言っても良いぐらい値も伸ばし続けています。イーサリアムの人気の理由はどこにあるのでしょう。
イーサリアムの若き開発者ヴィタリク・ブテリンとは
あらためてイーサリアムとはどんな仮想通貨なのでしょうか?それにはやはり、イーサリアムの開発者の考えを聞くのが早道です。幸いイーサリアムの創設者は、ビットコインのサトシ・ナカモトのような誰か分からない人ではなく、ヴィタリク・ブテリン(Vitalik Buterin)という実在する人物です。それも年齢はなんと今年23歳という若者です。
日本にも3度訪れているヴィタリク・ブテリン氏は、残念ながら写真で見ただけですが、非常に才気溢れる為人が垣間見えます。おそらく会う人がみんな口を揃えていうとおり、天才の一人に数えられる人でしょう。そんな彼が開発したのがイーサリアムですが、23歳の天才によって開発されたと聞くだけでも特別な魅力を抱かせます。おそらくイーサリアムという仮想通貨の魅力はロシア生まれのこの若者の持つカリスマ性のようなものに関係しているのかもしれません。
ヴィタリク・ブテリン氏は来日時のインタビューで「大発明を生み出すためには2つの方法がある」と言い「ひとつは50人くらいの人々が集まり、1億ドルといった大金をかけることで生み出せるもの。そしてもうひとつは、ひとりの人間が自分の部屋に長い間こもって生み出されるもの。ビットコインは後者だよね」とビットコイン、そしてビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトの偉業を評しています。そして「あなたにとって、ブロックチェーンの魅力とは」との問いに「ぼくを惹きつけてやまないのは『分散型』というアイデアだ」と答え、イーサリアム がGoogle、Twitter、Facebookといった企業にコントロールされるネットワークと対にあることを告白しています。
仮想通貨、あるいは暗号通貨を知ったきっかけは人によって様々でしょうが、このきっかけにも大きく2つのパターンに分かれるとしましょう。一つはビットコインなどの仮想通貨を、FXなどで扱う外貨(法定通貨)と「同じ物」として認識している場合です。そしてもう一つが仮想通貨を国が管理している従来の貨幣や紙幣とは違う「別物」として認識している場合です。どちらの理解がより正しいかと言えば後者です。つまり仮想通貨は国や企業にコントロールされるネットワークではなく、あくまで「分散型」というアイデアのなかで扱われるのが正解です。その意味でイーサリアムは、ビットコインの思想を受け継いだまさに直系と言えば良いでしょう。
スマートコントラクト
スマートコントラクト(SC)がイーサリアムの中でも重要な位置を占めるのは、冒頭 Parity Technologiesの事件の項目でも伝えています。スマートコントラクトとは何か? SCの正しい説明ではないかもしれませんが、概要を簡単に伝えますと、比較的複雑な契約行為を、中間業者を排しイーサリアムを通じて行うことです。例えば現在のBTCでは単純なお金の移動(決済行為)しか行われていません。スマートコントラクトでは、契約に関する設定や実行を自動的に行ってしまいます。一例を挙げると、複雑な不動産の賃貸借もあらかじめ契約内容を設定しておき、貸主や借主がその契約を履行することで、これに付随し発生する仲介手数料も不要です。
また音楽制作の現場でも、ミュージシャンや作曲家がエンドユーザーと直接繋がり、本来届けるべき音楽コンテンツをより理想的な形で届けられます。この取り組みは「ujo MUSIC」ですでに行われています。今までなら楽曲のリリースから収入を得るまで、膨大な時間が掛かりました。ところがスマートコントラクトを使い、レコード会社などの中間業者を排することでよりシンプルな流通を実現します。
もちろん全ての事案でスマートコントラクトが適合するとは思いません。特に現在の不動産流通の世界では通用しないものもあるでしょう。また少なからずこの流通形態の変化に反対する向きもあることが想像されます。ただスマートコントラクトは条件と内容を前もって定義し、その条件に適合した事案が発生すると自動執行する仕組みだと考えれば、より流用しやすい仕組みですし、簡素な流通機構は私たちが待ち望む世界です。スマートコントラクトはまだ実験的段階ですが、イーサリアムの方向性が支持され仮想通貨の利用が広がれば、スマートコントラクトに関連したサービスは少しずつ実現するはずです。
なお説明が前後しますが、本来イーサリアムは様々なアプリケーションを動かすプラットフォームとして存在しています。スマートコントラクトもイーサリアムで動く一つのアプリケーションです。この辺りもビットコインとは違う新しさでもあり、曰くの脆弱性につながる危うさも秘めています。
イーサリアムの次の拡張機能「ライデンネットワーク」とは
ライデンネットワークとはブロックチェーンを介さずとも、データを早く・安くやり取りできるプログラムです。イーサリアムはその機能を拡張するため、ライデンネットワークの構築をしています。
通常のチェーンを使った取引ではブロックを作成するのに時間が掛かり、データが集中するとデータが読み込まれないなどの不具合が生じます。こうしたことが生じないため、ライデンネットワークはユーザーに望まれるプログラムだとも言えます。またライデンネットワークはマイクロペイメントやトークンのやり取りもスムーズかつスピーディに行えます。もちろん、ライデンネットワークは信頼性も担保されています。
ただ、実際にライデンネットワークをイーサリアムに実装するにはもう少し時間が掛かります。しかしイーサリアムは11月30日に、ライデンネットワークのプロトタイプとも言うべきマイクロライデンを実装したようです。それによると、例えばマイクロライデンを使った取引では、送金者と受取者間でのみの送金となり、余計な費用が一切掛からないと言われています。
イーサリアムにとってスマートコントラクトと共にライデンネットワークが、将来的に強力な機能となることは確実でしょう。
ハードフォークがなぜ行われたか(THE DAOのハッキング事件)
この記事で紹介した特徴がイーサリアムの人気を示す特徴のすべてではありません。ただこの記事の最後にどうしても付け加えなければならないイーサリアムがまつわる事件があります。それは昨年発生したTHE DAOのハッキング事件です。
THE DAOとはイーサリアムのブロックチェーンを使って誕生した投資会社で、やはりスマートコントラクトのプログラムの脆弱性を突いて何者かにハッキングが行われました。ハッキングが行われたのは2016年6月、被害額は360万ETHにものぼり。当時のレートで40億円にも達する被害だと言われています。
イーサリアムの不正送金事件はスマートコントラクトのルールにより免れましたが、開発チームはハードフォークによって不正送金が行われる前の状態に戻すことで解決を図ります。この決定が開発チームの多数決で決まったことを一部の非中央集権的な仮想通貨を目指すコミュニティが不服に感じイーサリアムクラシックを発足させます。
こうしてイーサリアムはイーサリアムクラシックと分家しますが、こちらについては「【早くも半減期を迎えるイーサリアムクラシック】気になるの2018年のイーサリアムクラシックの動向は?」で詳しく書きましたので、そちらを読んでいただくと良いでしょう。ともかく数々の脆弱性を突いた攻撃が、関連サービスにおいて繰り返されるイーサリアム。今後もイーサリアムから目が離せません。