近ごろ、クラウドファンディングに代わる新たな資金調達の手段として、仮想通貨を用いたICOが注目されつつあります。株式を用いるIPOに比べて圧倒的に敷居が低く、その気になれば個人で多額の資金を集められる可能性も秘めていますが、仮想通貨のICOを取り巻く環境の整備は追いついておらず、とりわけ投資家にとっては不安な面も多いのが現状です。しかし、仮想通貨のICOをより安心かつ便利にすべく行われている取り組みも数多くあります。ここでは、そんな取り組みの中から最新のものを2つご紹介します。

ホワイトペーパーを翻訳してくれるサービスの登場

ICOは安心かつ世界的な資金調達手段となり得るか仮想通貨のICOで資金を集めたい人のほとんどは、「資金を調達してどんなプロジェクトを進めたいのか」という展望を記したホワイトペーパーを用意しています。これにより投資家は、その仮想通貨プロジェクトにお金を出す意義があるのかどうかや、対価として支払われるトークンに大きな価値が生まれそうかなどを判断できます。しかし、ホワイトペーパーはふつう作った人の母国語で書かれるため、異なる国の人が書いたものは、読むことすらままならない可能性も高いのが問題です。

Googleなどが提供する自動翻訳サービスを用いてもいいのですが、翻訳の過程で言語特有のニュアンスがうまく吸収されないなどして、原文と翻訳文に意味の相違が出てしまうことも多々あります。これらの問題点もあり、他国のホワイトペーパーを読んで仮想通貨へ投資するのは難しいことですし、自分のホワイトペーパーを他国の人に読んでもらって投資を受けるのも困難でした。

そこに一定の改善をもたらすであろうサービスとして、株式会社オウケイウェイヴおよびブリックスが「ICO翻訳」なるものを、2017年12月18日から開始させています。このICO翻訳は、仮想通貨のホワイトペーパーを日本語から英語・韓国語・中国語に翻訳してくれるというサービスです。

ICO翻訳によって事業資金はより集めやすく

ICO翻訳を利用してホワイトペーパーを用意すれば、日本だけでなく英語・韓国語・中国語を母国語とする国や地域にも読んでもらいやすくなり、仮想通貨への投資も受けやすくなるでしょう。とにかく使用者が多い英語を使う国々、国が規制するほど仮想通貨取引が盛んな韓国、いまだ大きな仮想通貨市場規模を誇る中国に向けて発信できるので、かなりの効果が期待できます。ホワイトペーパーだけでなく、プロジェクトの内容を紹介するページの翻訳も同時に行ってくれるのも魅力です。

また、翻訳に対する報酬支払いの一部を、なんと仮想通貨のICOで発行するトークンによって賄えるサービスがあるのも有難い点でしょう。現金として支払う額を減らせますから、まとまった資金を用意しづらい中小企業でも申し込みやすくなっています。

このシステムは、日本の事業者が世界に向けて投資を呼びかけやすくなるだけで、他国のホワイトペーパーを読んで投資したい投資家にはまだ無関係ですが、将来的にグローバルな投資が行えるようになるための第一歩だと言えます。

資金持ち逃げに代表される投資家のリスクを抑えるDescrow

ICO分野でこれから注目すべき2つの取り組み現時点でのICOシステムだと、投資したプロジェクトが滞ってしまった場合の補償は無いばかりか、最初から資金を持ち逃げするつもりで、でっち上げられた詐欺プロジェクトもまかり通ってしまいます。ホワイトペーパーを精読すれば回避できることもあるでしょうが限界もあり、資金持ち逃げは投資家の大きなリスクでした。そのような事態が起こることを防ぎ、より安心かつ安全なICOへの投資環境を目指して開発される予定なのが、分散型プラットフォームの「Descrow」です。

まず資金調達を募る側は、Descrowへプロジェクトを登録する際にいくつかの段階へ分け、それぞれに「プロジェクトをどこまで進めるか」と「達成期限」を設定します。Descrowで投資をする投資家は、投資したいプロジェクトに対する資金を一括で用意しますが、全てが投資先に渡るわけではありません。現在進行している段階に必要な資金だけが渡され、残りは一旦Descrowが管理するのです。このシステムをエスクロー(第三者預託)入金と言います。

そして1つの段階を終えるたびに、プロジェクトを立ち上げた側は報告書を提出し、それを見た投資家は続けて投資したいかどうかを投票します。投票結果によって、このプロジェクトが信頼できるものなのかどうか判断できるので、さらなる投資を続けても大丈夫か見極められます。もし信頼できないと感じた場合は、プロジェクトから撤退すればDescrowが管理している分の資金は戻ってくるので、被害を最小限にとどめることが可能なのです。

今の環境だとプロジェクトに対する資金は一括で支払われるため、例えば100ビットコインを提供した投資先が持ち逃げすれば、それは当然100ビットコインの損失となってしまいます。しかし、Descrowでエスクロー入金をするシステムなら少しずつ投資する形になるので、プロジェクトが頓挫しても100ビットコイン全てが損失になることはありません。

Descrowが投資環境を変える

Descrowを通せば、投資家はより安全に様々なプロジェクトへ投資できるようになるため、今まで投資をためらっていた人も、徐々に参加するようになると考えられます。よって資金を調達したいと考える人が、さらに多くの人から支援を受けられるようになるのです。

また、プロジェクトを進めている側が決定した事項に対して、賛成か反対かを投票する機能もあるとのこと。これにより、影響力は大きくないかもしれませんが、投資家はただ投資するだけでなく、プロジェクトを良い方向へ進める手助けをできるようになります。

ちなみにDescrowは、まだ始まっていないプラットフォームサービスです。ICOでの資金調達をするという段階にあり、期間は2017年の11月29日から12月27日となっています。プロジェクトの情報は常にSNSから発信されており、開発メンバーへの質問も受け付けられているので、興味のある方・Descrowの実現を願う方はチェックしてみてはいかがでしょうか。

将来有望なICOをDescrowは守れるか

1つだけこのDescrowに残念な点を挙げるとすれば、開発されるのが遅かったことです。既に新規のICOを全面的に禁止している中国にはじまり、アメリカや韓国など複数の国が少なからず規制を設けています。

クラウドファウンディングや株式に代わり、様々な企業や団体に加えて個人までもが簡単に活用できる、画期的な資金調達の手段として注目されていただけに、このままICOが規制されていくのは非常にもったいないことだと感じます。そして、各国がICOの規制に向かっている理由の1つとして、Descrowが排除を目指している詐欺行為があるのです。さらに、DescrowがICO仲介役としての責務を果たしてくれれば、他の規制理由である「認可されない不正な資金調達」や「資金洗浄」などといった行為も防がれます。

ぜひともDescrowには、ICOの正しい利用を推進していってもらい、世界各国で見直されて規制が緩和され、本当に有用なプロジェクトへより多くのお金が流れていく・・・。そんな理想に少しでも近付けるよう、手助けをするサービスになってくれればと思うものです。