ビットコインと「金」の相違点
ビットコインと、貴金属として投資の対象にもなる「金」は、お互いに似ている部分もあり、似ていない部分もあります。両者で似ていない点は、金は金塊(金地金)や金貨、アクセサリーとしての“形”があり、手で触ることができますが、ビットコインは目には見えず、手で触ることもできません。なぜならば、ビットコインは電子ネットワークの世界の中の「バーチャル(仮想)」な存在で、形など持っていないからです。新聞や雑誌やテレビでビットコインが説明される時、よく上下にヒゲつきの「B」と刻まれた丸くて金色のコインのようなものの写真が出ますが、それをビットコインの“コイン”だと思っていませんか? 実はそれはビットコインの「イメージ」として利用されている写真で、ビットコインの“実物”ではありません。
たとえば、テレビや携帯電話で使われる「電波」は目には見えませんが、マンガやイラストではアンテナ(電波塔)からギザギザの線や円形の波が放射状に出るように描かれていることがあります。それは電波が空中を伝わっている様子をわかりやすく絵であらわす「イメージ」で、電波の“形”ではありません。電波もビットコインも、形はなく、目には見えず、手で触れないものです。
金とビットコインでは、その歴史の長さも違います。ビットコインが誕生したのは2008年で、まだたった10年ですが、人類が「金」を利用し始めてから5,000年以上たっています。英国のロンドンに近代的な金の取引所が誕生したのは1666年で、その時点からでも350年以上の歴史があります。金は高熱で溶けても金地金に作り直せます。海水の中でもさびず、変色しないので、「金には普遍的な価値がある」として、特別価値がある財物として珍重されてきました。実際、何百年も前の沈没船から黄金色の金塊や金貨が発見されていますので、長い期間がたっても価値がかわらないのは実証されています。しかし重い金属なので、金を大量に盗んで運ぶのは簡単ではありません。トラックやブルドーザーなどが必要になることから、多量の金を盗むことは現実的ではないと考えられます。一方、ビットコインは、もしネットワークのセキュリティを破られたら、一瞬のうちに大量に盗み取られてしまいます。シリアで起きたように、内戦を逃れて難民になり国境を超えても、金貨や金のアクセサリーを持っていれば世界のどこでも、貴金属店の買取カウンターで売って現金を手に入れられます。スマホやネット回線が必要なビットコインでは、そんなことはできません。
共通点1.「自由」
さて、ビットコインと「金」が似ているのはどんな点なのでしょうか?まず「自由」だということです。どんな自由かというと「政治からの自由」です。民主主義の国の政治のしくみは、国民の選挙で選ばれた多数派が政権をとり、選挙で公約した政策を実行します。アメリカも、ヨーロッパも、日本もそうです。その通貨のドルもユーロも円も、バックには政治があり、政策があります。しかし、ビットコインと金は、発行元も管理者も国籍もなく、政治の影響を受けにくいという特徴があります。
たとえば円は、日本銀行の金融政策でその発行量がコントロールされています。組織は独立していますが日銀のバックには日本政府があり、日銀はいつも日本政府の政策と協調していて、かけ離れた金融政策をとることはありません。一方、ビットコインには規制するお役所がなく、その発行量は政府の政策でコントロールされているわけでもありません。金も、その採掘量や流通量は政府の政策による規制を受けません。その意味ではビットコインも金も、政治からの自由があると言えます。
2017年10月、中国政府は国内でのビットコイン取引を禁止しましたが、ビットコインは中国で相変わらず使われ続けています。なぜなら、国境をやすやすと超えるビットコインは中国政府のコントロールを受けにくく、いくらでも監視から逃れる方法があるからです。中国の取引所で人民元をビットコインに交換できなければ、中国領ですが政治制度が異なる香港や、外国の取引所で交換すればいいのです。世界の歴史で何度も繰り返されたように、ある国が滅亡すると、その政府が発行していたお札は紙くずになり、銅やニッケルなどでできたコインはリサイクル用の金属としての値打ちしか持ちませんが、金地金や金貨はそれ自体に貴金属としての価値があるので、原則として国家滅亡の影響を受けません。
ビットコインも、政府が発行するわけでも、政府の信用をバックに発行されているわけでもないので、原則として一国の政治や経済の影響を受けません。そのため金もビットコインも、政府の財政が破たんした時や、経済も破たんして銀行がどんどんつぶれた時、政策の失敗でインフレが起きた時には「資産の避難先」の役割を果たします。激しい内戦が起きたり外国からの軍事侵攻を受けたりした時も同様で、その気配があると金が買われる「有事の金買い」という現象が、今も起きています。
共通点2.「有限」
ビットコインと「金」が似ている第二の点は、その発行量、流通量が「有限」だということです。金は、古代以来約5,000年間に人類が採掘・精製し、地上に存在するものは約16万6600トンと推定され、オリンピックの水泳競技規格のプール約3杯分しかありません。その中には、貴重な文化遺産や美術工芸品として博物館に収蔵されているもの、仏教寺院で仏像や壁に貼られているものなどもあるので、実際に取引される金の流通量はさらに少なくなります。それだけ希少価値があります。また、人類にとって今後、採掘が可能と思われる金の量は約5万1000トンと推定され、これはプール1杯分足らずです。推定埋蔵量はもっと多いのですが、その大部分は採掘のコストを度外視しないと掘り出せないので、鉱山経営のビジネスが成り立ちません。
一方、ビットコインに限らずほとんどの仮想通貨は発行量の上限が決まっています。たとえばビットコインの発行量の上限は2,100万枚、正確には2,099万9999.9769BTCと決められています。「有限」という点では、金とビットコインは似ています。金は有限なので、その価値が保たれていますが、ビットコインも供給量に限りがありますので、同じように価値が高いという理論です。どちらも供給量が有限のため、供給が増えすぎてその値打ちが低下する「インフレ」のような現象は起きません。
共通点3.「マイニング」
ビットコインと「金」の第三の類似点は、「マイニング(採掘)」が行われているということです。金は、今も世界中の金鉱山で採掘が行われて、掘り出されています。産出量が多い国は中国、オーストラリア、ロシア、アメリカ、カナダの順です。日本も、かつてマルコ・ポーロが「黄金の国ジパング」と言ったように世界有数の産出国でした。現在も鹿児島県の菱刈鉱山などで採掘されています。金は銀とともに産出が特定の国だけに偏っていなかったので、古代から国際的な取引の決済に使われてきました。
ビットコインでも、「マイニング」という名の“採掘”が行われます。もちろん鉱山があるわけではなく、電子ネットワーク上の「ブロックチェーン」と呼ばれるシステムの中で設定が行われ、ビットコインが〃掘り出され〃ています。それを金鉱山での金の採掘になぞらえてマイニング(採掘)と呼んでいるわけです。ビットコインも、2,100万枚という発行量の上限に達するまで、今後もマイニングによって発行量が増えていきます。
マイニングにはコストがかかります。金なら採掘機械の費用や作業員の人件費がかかり、ビットコインなどのマイニングの場合はコンピューターを動かす電気代や作業を行う技術者の人件費がかかります。生み出される金やビットコインの値打ちがマイニングに必要なコストに見合わなければ、マイニングは行われません。ビットコインも、発行量の上限2,100万枚に近づくと、鉱脈を掘り尽くしかけた金鉱山のようにマイニングは難しくなり、コストも上がると言われています。
金のメリット、ビットコインのメリット
金には、どんなメリットがあるのでしょうか?金はかつて、銀とともに全世界で国際的な取引の決済に使われましたが、現在の国際貿易では、決済の手段は米ドルやユーロのような「基軸通貨」にとって代わられました。その分、将来起こりうるさまざまなリスクに対して資産を守るための手段に利用される傾向が強くなっています。銀行預金や株式やアパートと違って、金地金や金貨をいくら持っていても利息も配当も家賃も得られません。しかし、金それ自体には貴金属としての価値があるので、保管しておけばインフレにもデフレにも強く、大災害や戦争や国家財政の破たんや国の滅亡のような経済や政治の緊急事態に備えられるというメリットがあります。そんなことから金は「安全資産」と呼ばれています。もし不幸にして難民になっても、携帯しやすく変色もしない金貨や金のアクセサリーを持って逃げれば、国境を超えても当座のお金には困りません。金は「換金性が高い資産」だからです。
それでは、ビットコインにはどんなメリットがあるのでしょうか?ビットコインには、緊急事態に備える資産保全の手段としてのメリットは金ほどではないのですが、決済の手段としてなら大きなメリットがあります。なぜなら、国境を超えた送金でも瞬時に、ドル建てやユーロ建てに比べて格安の手数料で行えるからです。それを「流通性が高い」と言います。なぜなら、ビットコインはもともと、電子決済のためにつくられたものだからです。国境を越えて、どこでも電子決済できる通貨として生まれたビットコインは、現在でもアメリカやヨーロッパ、アルゼンチン、ロシアなど、世界中で決済ができるようになっています。決済に対応しているお店はまだ少数ですが、これがどんどん増えてくれば、「世界中どこでも決済できる通貨」として、ビットコインの価値はますます上がっていくことが期待されています。
ドルやユーロは1セント、円は1円よりも単位が小さいコインは存在せず、円の下の「銭」は計算上だけの単位ですが、ビットコインは、最小限で0.00000001BTCまで細かくできるのが決済に適しています。その最小単位を「satoshi(サトシ)」と言います。ポケモンではなくビットコインの発明者の名前です。交換レートがドルやユーロや円に対してどんなに高騰しようとも、単位がここまで細かければ、決済で不都合なことは起きないはずです。なお、現状では金に比べて価格変動率が大きいことも、ビットコインを投資の対象と考えている人にとっては、メリットでしょう。