「ICO」は仮想通貨で資金を調達すること

2017年12月26日、ミュージシャンで俳優のGackt(ガクト)さんが、「SPINDLE(スピンドル)」という仮想通貨の「ICO」を行うと発表して話題になっていますが、「ICO」とはいったい何なのでしょうか?

ICOとは「イニシャル・コイン・オファリング」の略で、直訳すれば「新規仮想通貨公開」です。独自の仮想通貨を新規に立ち上げてそれを発行・販売することで、企業や団体や個人、音楽のコンサートや映画の製作などのプロジェクトの主催者は、新しい仮想通貨を渡すのと引き換えに資金を手に入れることができます。調達する資金は円やドルやユーロの場合もあれば、他の仮想通貨の場合もあります。ICOで新規に発行するのは狭い意味の仮想通貨だけではありません。仮想通貨を支えるブロックチェーンというシステムを利用して発行される「トークン」という名の一種の「金券」も、ICOで発行できます。狭い意味の仮想通貨のICOはブロックチェーンを新しく一つつくるためにその分、発行にコストがかかりますが、トークンのICOはすでに存在しているブロックチェーンに便乗する形で発行されるので、それだけ発行の際のコストを安くすませることができます。

ICOは、「クルドセール」「プリセール」「トークンセール」といった別名で呼ばれることもあります。仮想通貨やトークンを売出すわけですから「セール」です。それを買う側は、仮想通貨やトークンを購入する代金としてお金を支払います。相手にお金をあげるわけでも、貸すわけでもありません。いま、ICOが注目されているのは、間に立つ仲介役がいないので手数料がいらないという手軽さと、アッという間にお金が集まるスピードです。アメリカではブレンダン・アイクというベンチャーの経営者が2017年6月、たった30秒で3500万ドル(約39億3750万円)分の資金を集めた例があります。

ICOは実際にはこのように進められる

I仮想通貨で資金調達するICOという方法COは仮想通貨やトークンを発行して、それと引き換えに資金を集めますが、その具体的な手続は次のように行われます。

●ICOの告知
仮想通貨やトークンをICOすると告知します。「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書(ドキュメントファイル)に、その会社やプロジェクトがいかに魅力的かを書いて、ネット経由で流します。海外からも資金を集めたければ、英語でも書かなければなりません。
●オファーの提示
特に投資してほしいコアターゲットの投資家に「オファー」を提示します。ICOの目的や契約条件がその内容にくわしく盛り込まれています。投資家はそれを見て、投資するかどうかや投資額、投資期間などを決めます。
●ICOの宣伝・PR
知名度をアップさせ、「投資したい」と思わせるように、ネット上でICOのための宣伝・PR活動を行います。
●仮想通貨、トークンの販売を開始
ブロックチェーンのシステムを利用して、実際に仮想通貨、トークンを発行して、希望する投資家に販売します。仮想通貨取引所で売り出すこともあります。

ICOでは資金集めのハードルが低くなる

「お金を集める手段」にはいろいろあります。会社であれば金融機関の審査を受けて資金を借り入れる、新しく株式を発行してそれを投資家に買ってもらうというような方法があります。非営利の団体なら寄付や献金やTシャツなどグッズの販売収入があります。映画だと最近は「製作委員会」がスポンサーからお金を集め、公開後の映画館の入場料収入からそれを返すという方法がけっこう見られます。ネットでお金を集める目的を公開し、「クラウドファンディング」という方法で不特定多数の人々(クラウド=群衆)からお金を集めること(ファンディング)も行われています。たとえば難病の子どもの高額の手術費用が集まって話題になったりしています。

しかしそれらには、信用や実績、キラリと光る何かや確実な収入の見通しなど、よほどの事情が必要です。設立されたばかりの駆け出しの会社で、製品や技術やサービスにこれといった取り柄がなければ、金融機関から融資を受けたり、誰かに株主になってもらったりするのは厳しいです。もしその会社がつぶれたらお金をドブに捨てるのと同じだからです。まだ活動実績がない団体では寄付や献金はなかなか集まりませんし、みんなが「見たい」と思える要素が見当たらない映画には出資は集まりません。もし誰かが「自分の入れ歯をつくるのにお金が必要です」と言ってクラウドファンディングを立ち上げても、同情してお金を出す人はまず、いないでしょう。

それが、仮想通貨やトークンのICOを実施する場合は、資金が集められる可能性が多少は高まります。「入れ歯」はまずダメでしょうが、キラリと光るものがなくても「客筋がいい」など少しは取り柄のある会社、実績はないものの、やろうとしている志は立派な団体、いい俳優を出演させればお客さんを呼べそうな映画などは、ICOを実施すれば必要な資金が集められるかもしれません。従来からあるやり方に比べて資金集めのハードルが、それだけ低くなるわけです。

お金を集める側のメリット

株式や融資に代わる新しい資金調達の手段として注目のICOICOは資金集めのハードルが低くなる方法ですが、お金を集める側にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか。まず、利子や配当を支払う必要がない点があげられます。会社が金融機関から資金を借り入れると利子が、新しく株式を発行してそれを投資家に買ってもらうと配当を支払う必要がありますが、仮想通貨やトークンには、それらはありません。会社が融資を受けると金融機関から「経営指導」を受けることがよくあり、また、株を買ってもらったら、株主が経営に口出しすることもよくあります。株を持つとは、会社を部分的に「所有」することだからです。

しかしICOでは、そんなことは起きません。手前勝手な都合ですが、資金を必要とする事業の内容や成功の見通しを金融機関や投資家にくわしく説明して、納得してもらうための労力は、ゼロとは言いませんが少なくてすみます。たとえば1億円を4ヵ所から集めるには1ヵ所あたり平均2,500万円必要ですが、ICOで5,000ヵ所から集めるなら1カ所あたり平均2万円です。それぐらいの小口の金額であれば面談などしなくても、「ホワイトペーパー」と呼ばれる説明書1枚でお金を出してくれる人は、いるでしょう。

「5,000ヵ所」なんて現実離れしていると思うかもしれませんが、今はネットを利用して全世界に向けて募集をかけると、国境を超えてそれぐらいの数は集まってしまうような時代です。「ユーチューブ」にペットの面白い動画を投稿したら、アッという間に全世界から5,000件ぐらいの「いいね!」が集まることを、思い出してみてください。そのユーチューブは、個人が自宅でスマホで撮った動画を投稿したら全世界で視聴されて、広告代でサラリーマンの平均年収分を超えるお金を稼いだという「伝説」が伝えられていますが、ICOも、会社や団体だけでなく個人でも問題なく利用できます。

ICOを告知して募集をかけるのもネット、仮想通貨を受け渡すのもネット、代金の支払い通知を受けるのもネットで、インターネットの上だけで全てが完了します。あとはウォレットに仮想通貨が、銀行口座に現金がたまっていくのを待つだけです。資金集めのタイミングも、まったくの自由です。極端な話をすれば、居酒屋を始めたい人がまずICOで買収資金を得た後で、店の「のれん(経営権)」を売りたがっている店主を探して直談判し、店員ともども「居抜き」の形で店を買収することも不可能ではありません。金融機関からの借り入れなら、「どこかの居酒屋を買い取るつもりです」と言っても、おそらく門前払いにされるか、運よく融資を受けられたとしてもリスク分込みの高い借入利率を提示されることでしょう。

そうやって買収した居酒屋がそれまで以上に繁盛すれば、ICOで発行した仮想通貨やトークンの価値が高まり、交換レートは高くなっていきます。資金を出して仮想通貨やトークンを持った人は高く売ることができ、利益が得られます。ICOの時点ではどんな店を買収できるかもわからないので「ハイリスク」ですが、良い店を買収してその業績を伸ばすことができれば、資金を出した人も「ハイリターン」が得られるというわけです。また、仮想通貨やトークンは現金代わりに支払いにも使えるので、その居酒屋で使うと、たとえば「全品半額」になるような優遇を受けられる可能性もあります。

お金を出す側のメリット

さて、資金を出す側にとってのICOの最大のメリットは何かというと、うまくいけば資金を回収するまでのスピードが非常に早くなるということです。投資家が投資資金を回収することを「出口」、英語で「エグジット」と言いますが、たとえば駆け出しのベンチャー企業の株式を引き受けて(買って)、その株式の証券取引所への新規上場(IPO)が決まり、株式を売れるようになるまで、早くても数年はかかります。長ければ10年以上、資金を寝かさなければなりません。その間、会社は上場のお世話をする証券会社に手数料を支払ったり、きちんとした決算書を作成して公認会計士の監査を受けたりとコストがかかります。

ところが、ICOで手に入れた新しい仮想通貨やトークンは、それを得た直後に売ってしまうことができます。一瞬のうちに投資が出口(エグジット)から出てしまうわけで、ただちにその資金を次の投資に回せるのは大きなメリットです。実際には損をしないように、値動きを見ながら売るタイミングを探ることになりますが、それが数年後や10年後になることは、まずないでしょう。

ICOと、株式の発行とその新規上場(IPO)は似ていますが、両者にはさまざまな点で違いがあります。株式の場合は配当の支払いや株主総会の通知を出すために株主名簿に投資家の名前が載り、株式の大量売却があったら会社はそれを公表する義務が課せられていますが、ICOの場合は名前を出さずに「無記名」で資金を出すことができます。 ICOは手続が簡単でスピーディーですが、株式のIPO(新規上場)と違って最近になって登場したものなので、第三者によるチェック機能など投資家を保護するための法律や制度が未整備です。お金を出したのに資金が回収できない危険性も高いといわれています。海外では「ICO詐欺」事件も実際に起きています。魅力もあるが、危険もまた伴うのが、ICOなのです。