価値が保たれる新たなタイプの仮想通貨

香港発の仮想通貨である「Tether」が、最近ちょっとではありますが知名度を上げてきており、ニュースサイトで取り上げられることも多くなってきました。他の仮想通貨では考えられないようなある特徴があり、物珍しいものになっていることがその一因でしょう。しかし、いざニュースの内容を見てみると、悪い内容や危険性を訴える内容が大半を占めます。今、このTetherには何が起こっているのか、Tetherとは何者なのか、基本的なところから見ていきましょう。

Tetherは金銭的なリスクの少ない画期的な仮想通貨

Tetherが持つ最も大きな特徴として、「金銭的なリスクが少ない」ことを挙げられます。普通はビットコインのような乱高下が当たり前の仮想通貨において、この特徴は非常に珍しいものだと言えるでしょう。金銭的なリスクが少ない=価格の上下が激しくないのです。

では、なぜTetherは値動きが安定していて金銭的なリスクが少ないのか。それは、Tetherがドルペッグ制を利用したペッグ通貨だからなのです。

ドルペッグ制を用いたペッグ通貨とは、その価値が常にアメリカドルとリンクしています。つまり、Tetherも含めたこのような通貨の場合、たとえ何が起ころうとも価値はアメリカドルとほぼ同じように推移するのです。Tetherを所有していれば常に同額近いアメリカドルと交換できるので、価値は安定していると言えます。アメリカドル自体の価値が崩壊するなんてことは、他国どの利用通貨に比べても有り得ないレベルですからね。

価値が安定しているということで、投資家の人々からは最も安定している利益確定先として注目されています。直接の投機対象としては、ビットコインのように独自の価値を持つ仮想通貨ほど向いてはいないものの、価値が安定しているからこその使い方ができるということです。例えば、もしあなたにとって「銀行が潰れてしまったらどうせ資産はなくなるか目減りするし、そんなところにお金を預けておくより仮想通貨のほうが安心できる」というのであれば、今ある銀行の資産を全てTetherにしてしまう選択肢は十分に現実的だと思います。

Tetherを取り巻く数多くの無視できないリスク

一方で、Tetherの価値を保証しているのはドルを発行するアメリカでなく、あくまで運営のTether Limitedだということを忘れてはなりません。先ほど銀行が潰れるリスクについて触れましたが、同じようにTether Limitedが潰れてしまえば持っているTetherはキレイに無くなってしまいます。

また、会社がユーザーの資金を持ち逃げしてしまう可能性や、外部からのハッキングなどの被害も当然考えられますね。管理の方法が中央集権型なので、銀行へお金を預けるのと同じく唯一の機関を信用することになるのです。

価値が安定していると話しましたが、それはあくまでアメリカドルと比較したときのみの話です。Tetherは日本円やユーロとの換金にも対応していますが、これらと比較して見ると値段はそれほど安定していないので、アメリカドルで生活していない人にとっては、「価値の安定」というメリットも微妙なレベルだと言えます。

さらに、このTether Limitedと提携している銀行が破綻してしまった場合や、Tetherを取引する取引所であるビットフィネックスが潰れるなどした場合でも、やはりTetherは無価値になってしまうという懸念点があります。とにかくTetherを利用する際に信用する必要のある機関が多すぎて、その上どこが崩れてもダメという点が大きなリスクです。

また、ビットコインの急落からTetherに退避する投資家が多くなると、一時的とはいえドルと結構な差が開いてしまうことがあったり、送金に関するネットワーク不具合が起こったりと、様々な問題を抱えている現実を見ると、そのリスクは無視できないでしょう。とりわけ、最近では大きな話題となった事件に注目が集まっています。

アメリカの商品先物取引委員会がTether社に召喚命令

香港発の仮想通貨Tetherが持つ可能性と危険性を探るそれは、アメリカの商品先物取引委員会から召喚命令を受けていた、という事件です。召喚命令とは簡単に言うと「裁判所にお呼ばれする」ことで、今回はTetherに加えてビットフィネックスのCEOでもある、ジャン・ルドヴィカスヴァンデーヴェルド氏が召喚命令を受けました。その理由は明らかにされていませんが、彼が「ビットコインの価格操作をしているのではないか」という疑惑は、1つ関係しているのかもしれません。

他にも疑惑があります。まず、システム上Tether Limitedは発行したTetherと同じ数だけアメリカドルを保有していなければならず、当然そのためには投資家から支払われたアメリカドルをそのまま保管しておく必要があります。しかし、実際はそれらのアメリカドルを使用して、ビットコインに投資していたのではないか、と言われているのです。これらの疑惑があったため、召喚命令を行うに至ったのではないかと見られています。

挙句の果てにTether Limitedは最近、フリードマン社との契約を解消しています。ここはいわゆる監査法人で、会社が何か不正行為をしていないかどうか監視する役目を持つ企業です。そのフリードマン社をこのタイミングで切るのも、やはり怪しいと言わざるを得ません。

ちなみに、ビットコインへの投資を行っていたのではないか、という疑惑はある匿名レポートで広がり始めたものです。そこには「ビットコインが暴騰したタイミングは、Tetherを発行した直後になっていることが多い。」という興味深い事柄が記されており、これが一連の疑惑をただの噂レベルではなくしています。

Tetherを買ってもらった金でビットコインをまとめ買いし、価値を引き上げて得をしている。考えられない話ではないですね。

これらの疑惑から引き起こされる問題とは

こうした疑惑が本当にただの「疑惑」レベルで済めば大きな問題とはならないのですが、万が一にも全て事実だったとすれば、それは最悪の場合に仮想通貨市場の崩壊を招きかねません。まず初めに考えられるのは、ただでさえ最近下がり続けているビットコインの価格が暴落することでしょう。

疑惑が事実ならTether利用者は当然ながら返金を求めるはずです。しかし、疑惑通りならTether Limitedが返金に必要なアメリカドルを保有していないこともまた事実なので、それまで会社が投資していたビットコインを殆と或いは全て売り払い、アメリカドルを用意することになります。

当然、その際にビットコインの価値は急落するでしょう。それも、今までにあった暴騰を一度に取り戻すかのような凄まじい勢いで。

Tether Limited社が返金に応じず逃げる可能性も考えられますが、その場合は仮想通貨に対する不信感が尋常ではないものになります。数年前にはマウントゴックス、ただでさえ最近もコインチェックが問題を起こしているところへ、追い打ちをかけるような事態です。

どちらにせよ、最悪の場合には「ビットコインが無価値に近づく」「世界規模で非常に厳しい規制がかかる」など、仮想通貨の市場および投資家たちが崩壊するほどにまで発展すると考えられます。

中央集権型のシステムを利用しているという危機感

Tetherのようなペッグ通貨に限って言えば、その仕組みや特性自体は非常に画期的で未来があります。仮想通貨での支払いが世界に広まり、銀行か政府辺りが日本円ペッグの仮想通貨でも出してくれれば、私なら利用したいと思います。

面倒な両替など無しに、世界中で円決済ができるようなものですからね。しかし、実際に今こういったペッグ通貨を発行しているのは、たった1つの企業や取引所です。それらの企業から仮想通貨を買う、ひいては資産を保管してもらうことについて、投資家はあまりに危機感が足りていない気がしてなりません。

取引所が、あたかも銀行と同レベルの信用がある機関かのように考えている人もいますが、そうではないのです。取引所は、いつ何時でも投資家の金を持ち逃げしたり、簡単に約束を破ったりがまかり通ってしまうのです。今回のTetherにおいても、もちろん例外ではありませんよ