EOSアルトコインの「EOS」は現在、コインチェック(Coincheck)など日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)、アメリカのクーコイン(Ku Coin)で取り扱っていますが、日本円から直接交換できません。

今年6月まで約1年かけて発行していく計画

EOS(イオス/単位:EOS)はアメリカ生まれで、2017年6月に誕生しました。EOSと言ってもキヤノンの一眼レフカメラとは関係ありません。まず新規発行のICO(イニシャル・コイン・オファリング)が行われ、最初は2億単位の「トークン」の形で発行されています。翌月の7月からは2018年6月まで、350日間にわたって毎日200万単位ずつ発行され、最終的には発行上限の10億単位のうち運営側が保有する1億単位を残して、合計9億単位が出回るという計画になっています。そのように徐々に、少しずつ発行していく仮想通貨は珍しい存在です。

トークンとは、他の仮想通貨が利用した既存のブロックチェーンを使って発行される「金券」のようなものですが、投資家の間では事実上、仮想通貨の一種として取り扱われています。そのトークンを新しく発行して資金を集めることをICOと言います。株式の発行・上場(IPO)に似た資金調達手段としていま注目されています。極端な話をしますが、創業資金をほとんど持っていない人でも、仮想通貨のICOを行って大金を得て、それで事業を始めたり、他の企業を買収したりできる可能性があるという〃錬金術〃です。中国ではそれを悪用して、仮想通貨の管理も何も全て放り出して集めた資金を持ち逃げする「ICO詐欺」が続発し、当局が仮想通貨への規制に乗り出す口実を与えました。

EOSはもちろん、そんな悪党ではありません。誕生翌月の7月、EOSが仮想通貨取引所に初めて上場されると、たちまちその3日後には時価総額ランキングでトップ10に入り、第9位まで躍進して世界を驚かせました。交換レートは約3倍になり、上場前にICOという〃先行販売〃でEOSを手に入れた投資家は、それ以上にもうかりました。

EOS最大の売り物は取引のスピードの速さ

EOSの基本構造(プラットフォーム)は、「ブロックチェーンベースの分散型データベースシステム」というものです。分散型データベースとは、データを複数のコンピュータに分散させて管理するしくみで、一つのコンピュータで集中的に管理するシステムと比べるとシステム障害の発生に強く、コストも安くすみます。それに仮想通貨の基本システム「ブロックチェーン」を載せています。

イーサリアムやNEOと同じようなスマートコントラクト機能を持っていて、取引のスピードが速く、しかも手数料がかからないノンコストであることが売り物です。交換レートが一気に3倍以上になったのは、それが評価されたからだと言えるでしょう。

ブロックチェーン上で取引上の契約(コントラクト)が記録され、それをプログラムによって自動的に実行してくれる「スマートコントラクト」は、契約の認証も自動的に行われるので、第三者が介在して不正が行われるような余地がなく、セキュリティの点で優れています。

ビットコインで問題になっている取引の処理スピード(トランザクション)の遅さも、EOSでは「非同期通信」「並行処理」を採用して解決済みです。1秒間に処理対応できる件数は、ビットコインが7~8件程度と言われているのに対してEOSはなんと数百万件で、現在発行されている仮想通貨の中でも最上位のグループに入るようなケタ違いの高速です。そのスピードがEOS最大の売り物だと言われています。

それでいて、ビットコインやイーサリアムを利用する際にはその保有者が手数料を負担するのに対し、EOSは原則として手数料は無料です。ビットコインやイーサリアムは、そのコインを持っていなければ手数料が支払えず、そのシステム(アプリケーション)が利用できないのに対し、手数料無料のEOSはEOSのコインを持っていなくてもEOSのシステムが利用できます。ビジネスで利用して頻繁に取引すればするほど、このノンコストのメリットは大きく効いてきますから、企業と企業の間の大口取引に向いています。

利用用途は全くないという奇妙な仮想通貨

いきなり時価総額9位にランクインして世界を驚かせたEOSEOSにはスマートコントラクト機能、取引のスピードが速い、手数料がかからないノンコストという、ビットコインや他のアルトコインと比べても決して見劣りしないような優れた特徴を持っているのですが、公式には「利用用途なし」をうたっているという、ちょっと奇妙な仮想通貨です。

アルトコインはたいてい、それぞれビットコインよりも優れている「取り柄」があり、それなりの利用用途を想定しています。たとえば、イーサリアムなら「スマートコンテクト機能」で取引に伴う契約の締結をスムーズに行えますから、契約がつきものの金融や不動産の取引に向いています。リップルは企業の海外送金をローコストで行える「ブリッジ通貨」としての機能が売り物です。それ以外の仮想通貨も、たとえば映像や音楽のコンテンツの知的財産権管理に強い、ゲームのアイテムの購入に特化して利用される、パブリシティ(広告)の機能があるなど、それぞれに利用用途があります。

ところが、EOSはそんな利用用途は「ない」と言っています。投資家に向けて仮想通貨のプロフィール、特長、発行の目的などを公開する「ホワイトペーパー」というドキュメント(英語の文書)にも「利用用途は全くない」と明記されています。さらに将来も利用用途を想定する予定は全くないとアナウンスしています。まるで禅問答のようですが、本当の話です。ICOで誕生したものの、自ら通貨としての実用性はありませんと言っている「無用のもの」でありながら、その価値が誕生直後に一気に3倍以上になるのですから、仮想通貨は面白い世界です。

「ICOのためにある仮想通貨」の存在意義

EOSは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円からの直接の交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてEOSに交換することになります。

2017年6月、ほぼ1EOS=1米ドルでスタートした直後、一気に3倍以上になったEOSは、ピーク時には1EOS=5米ドル前後まで上昇しました。円に対する交換レートに換算すれば約600円です。しかし「利用用途なし」が敬遠されたのか、徐々に下がって夏場には100円を割りました。2017年10月頃まで100円前後をウロウロしていましたが、そこから2ヵ月あまりで約10倍になり12月28日には1,000円、2018年1月18日には1,150円まで上昇しています。時価総額ランキングでは再びトップ10入りをうかがっています。

「利用用途なし」を公言しているEOSは、言ってみれば「ICOのためにある仮想通貨」で、ICOの大きな成功事例をつくり、その後のICOのブームに道をつけました。ICOのためだけに発行される仮想通貨も、後を追うように次々と登場しています。

新しい仮想通貨を発行して投資家に買ってもらうICOについては、「志あるベンチャーやプロジェクトがスピーディーに必要な資金を調達でき、事業に着手できるような新しい手段ができた」「株式を発行して上場させるには証券取引所の審査を受けるが、仮想通貨のICOにはそれがない。投資家を手玉にとるような、こんないかがわしい〃錬金術〃を野放しにしていいのか」など、賛否両論があります。EOSのような「ただ、ICOのために存在する仮想通貨」は、反対派にとっては〃悪の権化〃のようなかもしれません。

それを横目に、EOSは〃奇跡〃を起こした最初のICOの後は、投資家には「保有して値上がり益を狙うためにある投資専用の仮想通貨」と割り切って売買されて、仮想通貨の世界に存在し続けることになりそうです。