アルトコインの「Monero」は現在、日本の仮想通貨取引所ではコインチェック(Coincheck)が取り扱っていて、日本円から直接交換ができます。日本語版がある海外の取引所では香港のバイナンス(Binance)で取り扱っていますが、そこでは日本円から直接交換することはできません。

特徴は拡張性、取引スピードの速さ、匿名性

仮想通貨Monero徹底解説Monero(モネロ/単位:XMR)は仮想通貨「バイトコイン(Bytecoin)」を母体に2014年4月に誕生しました。モネロとは19世紀に国際共通語を目指して考案された言語、エスペラント語で「コイン」を意味します。Moneroの大きな特徴は、まず容量(ブロックサイズ)の上限がないことです。ビットコインでは容量は1MBに制限されていますが、Moneroには制限がなく、取引量の増加に応じていくらでも拡張ができます。さらに取引のスピードもビットコインに比べて約5倍と高速です。そして「匿名性」の高い仮想通貨であることが最大の特徴です。

匿名性とは、良く言えば仮想通貨の利用者のプライバシーが固く守られることで、悪く言えば、仮想通貨がどんな悪事に利用されても、ベールに包まれて外からわからないことです。匿名性の高さを売り物にしている仮想通貨は、時価総額上位クラスでは他にダッシュ(DASH/単位・DASH)ぐらいしかなく、数少ない存在です。

利用した履歴を消せる最大の特徴「匿名性」

Moneroの最大の特徴は「匿名性」の高さ、つまり取引や決済の秘密が守られることです。外部の第三者には、誰が送金したのか、送り主のアドレスは特定できないようになっています。いくら送金したのかという取引の履歴もわかりません。この匿名性は「クリプトナイト(CryptNight)」というアルゴリズム(コンピュータが問題を解く手順)をもとにしています。

紙幣やコインに字を書いたり印をつけたりすると、「汚れている」と受け取りを拒否されることがあります。見ただけでは円でも米ドルでもユーロでも、「法定通貨」の紙幣やコインを過去に誰が持ち、何にいくら使ったか、全くわかりません。それを「法定通貨には匿名性がある」と言います。円の紙幣には通し番号がついていて、銀行強盗で盗まれた新札やニセ札はそこから「足」がつき犯人が逮捕されることがありますが、新札でない紙幣やコインはそんな手がかりもありません。

一方、ビットコインをはじめ仮想通貨の多くは、誰から誰に送金されたか、それはいくらかという記録(履歴)が第三者にも公開されています。個人の残高もわかります。もしハッカーが侵入して仮想通貨を盗み出し、それで買い物をしたり、米ドルや円に交換したりすると、仮想通貨についた記録から「足」がついて犯人は誰なのかが割り出され、逮捕される可能性があります。だからハッカーは盗んだ仮想通貨をうっかり使えません。「○○から盗み取るのに成功したぞ」と、自分の技術に満足感を味わうだけです。

ところが、仮想通貨の中には、送金の事実は確かめられても、誰から誰に送金されたのか、それはいくらだったのかという記録を〃消せる〃ものがあります。取引の履歴が確認できないのは法定通貨と同じで、「匿名性がある仮想通貨」と言えます。その匿名性を持つ仮想通貨の代表が、Moneroなのです。

「リング署名」「ステルスアドレス」という2つの技術

】法定通貨と同じで「匿名性」のある仮想通貨の代表「Monero」Moneroは、「リング署名」「ステルスアドレス」という2つの技術によってレベルの高い匿名性を獲得しました。

「リング署名」は1人ではなく複数の人やグループが同時に署名をするので、Moneroを誰が送ったのかわからなくなります。郵便物にたとえれば、差出人欄に名前が何人も書いてあるようなもので、正真正銘の取引の相手は誰か、本人同士でないとわかりません。

「ステルスアドレス」は、仮想通貨を受け取る側が2つのアドレス(ID)を持ちます。一つはMoneroの正式アドレスで、仮想通貨が最後に収まる口座、たとえれば自宅の住所です。もう一つは受け取り専用のアドレスで、たとえれば「私書箱」です。もし、家族にも知られたくない趣味を持っていて、その物品を郵便で受け取りたければ、郵便局や私設私書箱の会社に行って自分しかその存在を知らない私書箱を開設すれば、バレません。

その受け取り専用アドレスは、1度の取引だけで使い捨てにされる「ワンタイムアドレス」です。取引履歴はそれで管理され、用が済んだら消されます。たとえば郵便物の1回1回の受け取りごとに専用の私書箱が開設されて、一度使われて郵便物を受け取ったら、それでもう廃止されるようなものです。廃止されて記録から消されると、どこに送られたのかわからなくなります。

匿名性を高める「ステルスアドレス」ではMoneroを利用する際、ふつうは1個だけの「秘密鍵」が、「閲覧用」と「送金用」の計2個あります。その2つを使い分けるおかげで秘密が守られやすいのですが、その分、Moneroは送金や決済の手続が複雑になり、使いにくくなっています。

「匿名性の高さ」は〃悪い人〃には魅力的

匿名性が高く、取引の秘密が守られることによる最大のメリットは、誰が何にいくら使ったかを他人に知られないことです。たとえば、他人に絶対知られたくない趣味を持っている人は、Moneroを使えば、安心して買い物代金の支払いができます。

その一方で、リスクもあります。もしハッカーに盗み取られても、記録がないので、あなたがMoneroをいくら持っていたか証明する手段がありません。また、法定通貨と同じで「足」がつかないので、そのMoneroが盗み取られたものなのか、それとも正当な手段で手に入れたものなのか判定できず、犯人を捕まえても取り返すのは難しくなります。

しかも、匿名性があるMoneroは「悪用」される可能性も大きくなります。たとえば財産を隠して税務当局の目をごまかし脱税する、某国の政治家や役人にワイロを渡す、闇サイトで密輸、違法なギャンブル、ドラッグや武器の取引に使う、犯罪組織やテロ組織や経済制裁対象国に資金を流す、いかがわしい資金の過去を〃消す〃資金洗浄(マネーロンダリング)に使う、といったことです。Moneroは実際、「アルファベイ」という麻薬や銃の闇サイトで取引の決済に使われていました。

匿名性が高く、取引の秘密が固く守られるMoneroは、そのような〃悪い人〃たちにとっては魅力的な仮想通貨で、その〃悪い人〃たちを捕まえたい、こらしめたい当局にとっては、要注意の〃危険な〃仮想通貨です。そのため、トラブルに巻き込まれたり、税務署や警察など当局ににらまれるのを避けるために「Moneroでの支払いはお断り」にされる可能性は高くなります。しくみがややこしいだけでなく、ダークさが敬遠されるので、よけいに使いにくい仮想通貨と言えます。

「スキャンダラスな仮想通貨」は覚悟が必要

Moneroは匿名性という最大の特徴を抜きにしても、容量(ブロックサイズ)の上限が決まっていない点、取引のスピードが速い点や、新規発行のマイニング(採掘)の際に専用コンピュータのASICを必要とせず一般のパソコンでも行いやすいという点で、ビットコインよりも優れています。特に容量に上限がないのは拡張性(スケーラビリティ)が無限であることを意味し、それで将来性のある仮想通貨だと評価されることがあります。

ビットコインにあるような新規発行量の「半減期」もありません。匿名性の高さはイメージの悪化も招いていますが、個人のプライバシーが保護されるのはメリットでもあり、そこは文字通り、コインの裏表です。Moneroは現在、日本の仮想通貨取引所ではコインチェック(Coincheck)が取り扱っていて、円から直接交換することができます。そのためけっこう名前を知られています。2017年12月末には一時、時価総額ランキングで11位まで上昇しました。

円に対する交換レートは、2017年3月の約1,500円が6月には約2倍になり、11月下旬からにわかに高騰して12月21日には56,000円を突破しました。9ヵ月で約37倍、半年で約19倍になっています。とはいえ、6月や8月には短い間に交換レートが激しく上下する乱高下も演じています。

Moneroが怖いのは、地球上どこかで起きる犯罪や脱税や違法取引やテロ計画に「Moneroが使われた」というニュースが流れることです。紛争地域で無差別発砲テロにトヨタ製トラックが使われてもトヨタにはテロの責任はないように、Monero自体には何の罪もありませんが、これまで何度もそうした〃スキャンダル〃をきっかけに交換レートが急落、急騰しました。「匿名性がある仮想通貨を流通させないように、当局に取り締まられるのではないか」という懸念がついて回るからです。

「コインチェックはMoneroを扱っているので、金融庁は『仮想通貨交換事業者』にさせなかった」など、悪い噂は今も絶えることがありません。そんな「スキャンダラスな仮想通貨」への投資を考えるなら、「何が起きるかわからない」という、それなりの覚悟が必要でしょう。