アルトコインの「TRON」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)で取り扱っていますが、日本円からTRONを直接交換することはできません

TRONはエンターテイメント・コンテンツ配信に特化

TRON(トロン/単位:TRX)は2017年8月、シンガポールの非営利団体トロン財団が誕生させた仮想通貨です。正式名はTRONIX(トロニックス)ですが、プロジェクト名のTRONのほうが知れ渡っています。TRONにはビットコインキャッシュ(BCH)に大きな影響力を持つといわれている中国のジハン・ウー(Jihan Wu)氏が出資し、運営するトロン財団の代表ジャスティン・サン(Justin Sun)氏は中国の音楽ストリーミングサービス「Peiwo」の代表者なので、中国色が濃くなっています。その最大の特徴は、エンターテイメント・コンテンツの配信と購入に特化していることです。

TRONは動画のコンテンツに直接お金を払えるしくみ

 

仮想通貨TRON徹底解説TRONは仮想通貨ですが、それと同時に動画や音楽やゲームなどエンタメ・コンテンツを保管・配信するストレージ・プラットフォームでもあります。それはどういうことかというと、仮想通貨の基本システムである分散型のブロックチェーンを利用して、動画や音楽やゲームのコンテンツを保存し、それを配信できるようになっているからです。たとえばあなたが、自分のアイデアで面白い動画を撮影・制作したとします。それをどこに投稿しますか? 「ユーチューブ」ですか? 「ニコニコ動画」ですか?

ユーチューブに投稿すると全世界に公開されて、ひょっとすると何万回も視聴されて、あなたはピコ太郎さんのような有名な「ユーチューバー」になり多くの収入を得られるかもしれません。しかしその収入は視聴した人から直接もらうのではなく、動画が再生される前に入る広告動画の広告主がお金を出して、それを「配信権」を持っているユーチューブの管理者が〃ピンハネ〃して、残りが投稿者に渡るというしくみになっています。ニコニコ動画も同様です。視聴する人は、映画館で本編の前にCMを見るように、広告動画をしかたなく見ています。

そうではなく、広告動画も、ピンハネする「管理者」も介在せず、動画の投稿者に直接お金(仮想通貨)を支払って視聴できるのがTRONのしくみです。投稿者は無料でブロックチェーン上に動画を保存し、それを公開することができます。コンテンツデータの所有権も配信権も基本的には投稿者が持ちます。ネット上で「これが見たい」という動画を選んで、TRONで直接代金を支払うと、自動的に保存されている動画を視聴することができます。そこに広告は全く入りません。

これは「ビデオ・オン・デマンド(VOD)」といって、たとえばCS有料放送の「スカパー!」にある、映画や音楽ライブなど1作品ごとに料金を払って見る「ペイ・パー・ビュー(PPV)」と、ほぼ同じシステムです。PPVは後払いですが、TRONでは動画1作品を見るごとに仮想通貨で先払いすることになります。ユーチューブやニコニコ動画は投稿者が動画の配信権を譲り渡す「中央管理型」のシステムで、配信に必要な費用として広告の報酬が〃ピンハネ〃されますが、TRONは「分散型」のシステムです。

投稿者一人ひとりが管理者で、所有権も配信権も持っていて、報酬も全額そのまま得られます。その報酬の支払いで使われるのがTRONです。運営するトロン財団は営利企業のユーチューブやドワンゴ(「ニコニコ動画」を運営)と違って営利を目的としない非営利団体です。その目的は「世界で一人でも多くの人がエンタメ・コンテンツを楽しめるようになること」です。だから公共性のあるサービスとしてシステムを無料で提供しています。

メジャーデビューしなくても音楽だけで食べていける?

音声だけの音楽コンテンツも、TRONを利用すればリスナーに、1曲ごとに直接販売ができます。「インディーズ」と呼ばれる駆け出しのミュージシャンの「路上ライブ」を見たことがあるでしょうか? 聴いた人は前に置いてあるギターケースや帽子にお金を入れますが、入れずにタダで聴く人もいます。しかしTRONを利用すれば、誰でも全世界に向けて自分たちが演奏した曲を配信でき、しかもお金の取りはぐれがありません。

もし人気が出て何万回も聴かれれば、大手の会社から「メジャーデビュー」してCDを発売して宣伝してもらわなくても、音楽で食べていけるようになるかもしれません。TRONを運営するトロン財団の代表ジャスティン・サン氏は中国の音楽配信サービス会社「Peiwo」の代表者でもあります。ネット上で動画や音楽やゲームなどのコンテンツを配信し、それをつくった個人に直接お金を支払い、クリエイターが十分な報酬を得られて創作活動を続けられるしくみ「エコシステム」をつくろうと、TRONを立ち上げました。

サン氏の音楽配信サービス「Peiwo」は中国だけで約1,000万人の会員がいて、TRONを全面導入する予定になっています。

TRONはクリエイターを応援する「パーソナルICO」

動画、音楽、ゲームなどエンタメ・コンテンツの配信と購入のために生まれた「TRON」今は売れっ子の映像作家やミュージシャンもかつてはそうだったように、駆け出しの若いクリエイターにはお金がありません。アルバイトしながら創作活動のためのお金や時間をひねり出しています。そのため、優れた才能を持ちながら生活のためにクリエイターの道を断念してしまう人もいます。そうならないように、「エンタメ・コンテンツのための仮想通貨」であるTRONには、無名の映像作家やミュージシャンやゲーム作家などクリエイター個人を金銭面で支援する「パーソナルICO」のしくみがあります。

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)は、新しい仮想通貨を発行して資金調達を行うことを言います。クリエイター個人がTRONのシステムを利用して「トークン」(仮想通貨と同等に扱われる金券のようなもの)のICOが行えるようにしています。映像作家やミュージシャンやゲーム作家を応援したいファンは、クリエイターが「パーソナルICO」で発行したトークンを購入することで創作資金をカンパし、「パトロン(後援者)」になって創作支援ができるわけです。

TRONを保有していると、TRONのシステムを通じてそのクリエイターの新作動画や新曲や新作ゲームやライブイベントが無料や割引で入手できるファンクラブのような特典がつきます。もし支援するクリエイターが賞を取ったり、コンテンツがヒットして有名になったりすると、その人のTRONも価値が出て値上がりしますから、TRON保有者はそれを売れば儲けることができます。「無名だった頃から自分が育てた」という満足感も、金銭的な実益も得られます。

エンタメは世界的に成長分野なのでTRONの期待は大

TRONは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円からの直接の交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなどに交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてTRONに交換することになります。

TRONが2017年9月に香港の取引所バイナンス(Binance)で初めて売り出された時は、開始の30秒後に〃完売〃するほど注目されました。円に対する交換レートは2017年12月下旬、トロン財団代表のジャスティン・サン氏が日本を訪問し、中国の大手仮想通貨取引所「OKEx」に新しく上場した時に大きく上昇し、9月頃に比べると3ヵ月で30倍以上になりました。2018年1月にはさらに上昇し、世界の時価総額ランキングで第6位まで上がりました。ただし、TRONは1日で2倍、3倍になったかと思えばあっさり急落するなど、TRONは値動きが非常に激しくなっています。

2017年後半にゲーム・コンテンツに特化したCardano(単位:ADA)が躍進しましたが、TRONはエンターテインメント・コンテンツ全般を対象としている仮想通貨です。世界のクリエイター一人ひとりを、創作物に対する十分な報酬の見返りを保証して支援するプラットフォームを目指していますから、動画、アニメ、音楽、ゲームなどのクリエイターや、それを目指している人にとっては大きな希望です。

TRONは2018年1月に韓国、台湾の大手取引所に上場し、香港にある世界最大規模の取引所「Bitfinex」への上場も果たしました。ジャスティン・サン氏は毎日10億ドルの取引があり4,000万人のユーザーがいるが、1億人に伸ばせるのは時間の問題だと述べています。エンタメ・コンテンツは全世界的に成長分野なのがその自信の裏付けです。日本にも政府が後押しする「クール・ジャパン」という言葉があるように、今後ますます発展の可能性がありますから、TRONは将来有望であると言っていいでしょう。