アルトコインの「VeChain」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)、クーコイン(Ku Coin)で取り扱っていますが、日本円から直接交換することはできません。
イーサリアムの特徴をそのまま受け継いだ
VeChain(ヴィーチェーン/単位:VEN)は2017年7月に誕生した仮想通貨です。中国の企業が立ち上げましたが、運営・管理しているのはシンガポールの「VeChain財団」という非営利団体で、その点ではTRONに似ています。アルトコインの代表的存在であるイーサリアム(単位:ETH)のブロックチェーンを利用して生まれたトークン(仮想通貨と同等に扱われる金券のようなもの)「VET」と一緒にVeChainも生まれました。そのため取引の契約を自動的に実行・保存できる「スマートコントラクト」などイーサリアムの特徴をそのまま受け継いでいます。名前に「Chain(チェーン)」とあるように、プラットフォームは「サプライチェーン」の管理で利用できるように設計されています。
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、何でしょうか? それは、たとえば自転車なら原材料の鉄やアルミやゴムからハンドルや車輪やタイヤのような部品をつくり、それを1台の自転車に組み立てて、完成品を自転車販売店に運んで消費者に売るまでの一連の過程(プロセス)のことです。部品メーカーと自転車メーカーと自転車販売店の間を配送のトラックが鎖のようにつなぎますから「チェーン」です。
スマホでも、自動車でも、食品でも、ファッションでも、形あるものの生産、販売には必ずサプライチェーンが伴っています。サービス業である外食産業には食材の、医療機関には医療器具や医薬品のサプライチェーンがあります。そのチェーン全体をきちんと品質管理をしないと、欠陥品を大量に生み出したり、納期遅れや品切れが頻発したり、営業がストップしたりして、最悪の場合には会社がつぶれてしまいかねません。
たとえば、走り出すとすぐパンクしてしまう欠陥タイヤをはいた自転車を売り出すと、それを買った消費者から苦情が続出して返品の山ができ、評判に傷がついて他の自転車も売れなくなり、自転車メーカーが倒産することもありえます。「タイヤのメーカーが悪い」と言い訳しても、「タイヤの欠陥をきちんと見抜けなかったのが悪い。品質管理はどうなっていたんだ」と、許してもらえません。そのようにサプライチェーンの管理は、企業が生きるか死ぬかも左右しかねない、非常に重要な問題なのです。
IoTのための仮想通貨
最近、そのサプライチェーンの管理で「IoT」というIT(情報通信)の技術が使われるようになってきました。IoTは「モノのインターネット」と紹介されていますが、サプライチェーンでは部品や製品の1個1個にインターネットのアドレスが割り当てられ、それを記録したQRコードを印刷した紙が張りつけられたり、NFCチップという半導体ユニットが組み込まれたりします。部品の受入部署、製品の出荷、販売店の納品口などサプライチェーンの要所、要所で、QRコードリーダーやNFCリーダーのような読み取り機器を使ってIoTのアドレスが1個1個、チェックされます。
もし、どこかの部品に「欠陥あり」と明らかになったら、その部品が使われた製品はたちまちその全ての居場所が判明しますから、欠陥製品が出回らないように出荷にストップをかけられます。これがIoTを利用したサプライチェーンの品質管理で、完成品や部品の欠陥の発生、大地震による部品工場の生産停止や配送ルートの寸断、配送のトラックが事故に巻き込まれた、見込みを超える売れ行きで販売店で在庫切れが発生したなど、どんな異変が起こっても状況を即座に把握でき、正確に、ムダなく、スピーディーに対応策を講じることができます。
企業活動の死命を制するような「エコシステム」として優れているので、サプライチェーンでのIoTの利用は今後、ますますひろまっていくでしょう。そんなIoTを利用したサプライチェーンに対して、仮想通貨の基本システムである分散型の「ブロックチェーン」が対応できるようにプラットフォームが設計され、そこから生まれた仮想通貨がVeChainなのです。
世界の大手企業と提携して存在感を示す
VeChain財団はシンガポールにありますが、オフィスをフランスや香港など全世界に展開しています。明確な事業戦略のもと、サプライチェーンを持つ全世界の企業に対して「営業」をかけています。プライスウォーターハウスクーパーズ、ルノーなど有名な企業とも提携関係を結び、IoTとVeChainを利用したさまざまなプロジェクトを手がけています。それに使われるNFCチップも独自に開発しています。
VeChainの基本システムはブロックチェーンですが、それには「分散型なので不正や改ざんを行いにくい」という特徴があります。それを活かして「サプライチェーンをさかのぼる追跡」や「ニセ物、模倣品対策」に活躍しています。サプライチェーンがある産業は幅広いので、パートナー企業の業種は実にさまざまです。フランスの自動車メーカー、ルノーでは、生産した自動車1台1台に固有のアドレスが割り当てられ、使っている部品、所有者、走行距離、検査や故障や修理の履歴など、そのクルマに関するあらゆる情報がIoTとVeChainのシステムで管理されています。
フランスはワインの産地でもありますが、高級ブランドはラベルを偽造するニセ物の横行に悩んでいます。「5本に1本はニセ物だ」という困った話もあります。そこで高級ワインメーカーではIoTとVeChainのシステムを導入して、ラベルに仕込んだNFCチップでサプライチェーンを追跡し、「本物であることの証明」ができるようにしました。皮革製品の有名ブランド「ルイ・ヴィトン」の中国法人でも、VeChainとNFCチップによるIoTを利用してニセ物対策、模倣品対策、非正規ルート販売対策のプロジェクトが実施されています。
農業とスーパーは、農産物のサプライチェーンの起点と終点ですが、中国では有機野菜の流通で農業生産者とスーパーにIoTとVeChainのシステムが導入されています。たとえばスーパーの店頭で、普通のキャベツより値段が高い低農薬のキャベツを手に取った消費者は、機器にかければそのキャベツの生産者は誰で、使われた農薬は何と何で、いつ収穫されたかなどの「トレーサビリティ」の情報をその場で得ることができます。
それによって消費者は「本当は低農薬ではなく、だまされているのではないか」という不安を抱くことなく、低農薬野菜を安心して買うことができます。IoTとVeChainのシステムはその他、食品のコールドチェーン(冷蔵輸送)を担う物流企業のサプライチェーンでも利用されています。
サプライチェーンの市場規模は日本だけでも32兆円
VeChainは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円からの直接の交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてVeChainに交換することになります。
VeChainは2017年11月に香港の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)に上場した後、円に対する交換レートは2018年1月にかけて順調な上昇を続けました。1月には800円を超え、世界の仮想通貨の時価総額ランキングで20位以内に入りました。なお、2月26日にブランドやサービス内容を一新する「リ・ブランディング(Re-Branding)」を控えていますので、それに合わせて名称や単位が変更されるかもしれません。
VeChainについては、有名ブランドの正規品にNFCチップを組み込んで、中国や東南アジアで営業を妨害している「ニセ物」「模倣品」の横行を退治できる面ばかり強調されている傾向がありますが、それは期待される役割の一部で、全部ではありません。本物とニセ物や模倣品を判別できるのは、ブロックチェーンが本来持っている「不正や改ざんがされにくい」という特徴を活かせるからですが、それも含めて、現在の経済、社会に欠かせないインフラであるサプライチェーンをよりよく管理できる仮想通貨であると、理解すべきでしょう。
全世界のサプライチェーン全体の市場規模は「ブランド品のニセ物や模倣品の退治」の市場規模とは比べものにならないぐらい巨大なスケールがあります。日本に限っても、経済産業省はブロックチェーンがオープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現に貢献できると期待し、その市場規模を32兆円と見込んでいます。ブロックチェーンを基盤とするVeChainがIoT(モノのインターネット)と結びつくと、サプライチェーンの信頼性を高めるのに大きな威力を発揮できるでしょう。その意味でも、VeChainは将来楽しみな仮想通貨です。