Ethereumから飛び出しEthereumを超える仮想通貨を目指す。3月に大きな出来事が待つ。
アルトコインの「Ethereum Classic」は現在、日本の仮想通貨取引所ではコインチェック(Coincheck)、ビットフライヤー(bitflyer)、DMMビットコイン(DMM Bitcoin)で取り扱っています。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)、クーコイン(Ku Coin)で取り扱っていますが、日本円からは直接交換できません。
「のれん分け」より「けんか別れ」に近い
Ethereum Classic(イーサリアムクラシック/単位:ETC)は2016年7月にアメリカで誕生した仮想通貨です。名前が長いので日本ではよく「イーサクラシック」とか「イークラ」と略して呼ばれています。名前でわかるように、リップル(XRP)と並ぶアルトコインの代表格「Ethereum(イーサリアム/ETH)」から分離・独立する「分岐(ハードフォーク)」によって生まれた仮想通貨です。そのため「スマートコントラクト」のような基本的な機能ではEthereumと兄弟のように似ています。
仮想通貨の分岐については老舗の商店の「のれん分け」にたとえられることがありますが、Ethereum Classicの場合は「けんか別れ」に近いようないきさつがありました。2016年6月、仮想通貨によるベンチャー企業投資ファンド「The DAO」を構築中だったEthereumのブロックチェーンが外部からハッカーの侵入を許し、360万ETH(約52億円)が流出してしまうという事件が起きました。仮想通貨にとってハッカーは恐ろしい敵で、被害がひどかったり対応のしかたが悪ければ、仮想通貨の運営をそこでやめてしまわざるを得ないような事態にも陥ります。そこまでいかなくても信頼性に傷がつきます。
一大事ですからEthereumを運営するイーサリアム財団では対策会議が開かれ、その結論は「ハッカーの侵入がなかったものにするために、システム全体を侵入直前の状態に戻す」というものでした。それはタイムマシンで時間を戻すようなもので、流出したEthereumが「最初からこの世には存在しなかったもの」になるため使用不能になり、二次被害を防げます。パソコンのソフトでも、動作の不具合が起きたらそれが起きた時間よりも前に記録されていた状態に戻してやり直せる機能がついているものがありますが、仮想通貨でもそれをやろうとしたわけです。
ところが、対策会議でそれに「そんなやり方で、いいのか?」と強く反対したグループがいました。彼らは、二度とハッカーの侵入を許さないように、Ethereumをよりセキュリティ性の高いシステムに作り直すべきだと主張しましたが、それにはコストがかかるなどさまざまな問題があったため、最終的に財団から却下されました。意見が対立したまま、決定に納得できなかった彼らはEthereumからの分離・独立、新しい仮想通貨の立ち上げを決意して財団を飛び出し、分岐(ハードフォーク)を行いました。
こうしてEthereum Classicが誕生しました。政党や企業の派閥争いから町内会まで、昔から世界のどこにでもありそうな分裂劇で、仮想通貨というITシステムがつくり出すバーチャルな世界でも、人間くさいドラマがあったわけです。それから1年半以上が経過しました。ハッカーの侵入で危機に直面したEthereumは現在、世界の仮想通貨の時価総額ランキングで2位または3位に位置するアルトコインの代表格になっています。
Ethereum Classicのほうも小さな組織で始まって当初は資金調達もままならなかったのですが、順調に成長して時価総額ランキング10位以内にたびたび入っていますから、当時は「けんか別れ」に近い形でも、残ったほうも、飛び出したほうも、両方とも決して悪くない結果だったことになります。
スマートコントラクトは同じ、安全性は向上
Ethereum ClassicはEthereumと同じように「スマートコントラクト」を最大の特徴にしています。仮想通貨の基本システム「ブロックチェーン」の上で、仮想通貨のやりとりに伴う条件や約束事などが書かれたコントラクト(契約)の締結とその記録を同時に、自動的に、スマートに(賢く、スムーズに)処理できるという機能です。たとえば仮想通貨の単純な貸し借りをするなら「いくら貸すか? それを何月何日までに返済するか? 利息の利率はいくらか? (利率の割り増しなど)約束を守れない場合はどう対処するか?」を契約で取り決めて、それをブロックチェーンの上に記録し、同時に仮想通貨のやりとりを行います。
スマートコントラクトを利用すれば、決済の時間短縮、不正の防止、費用の節約が図れるというメリットがあります。ビジネスは契約で成り立っていますから、スマートコントラクト機能がついた仮想通貨はビジネスで利用しやすくなります。一方、Ethereum Classicが持っていてEthereumにはない特徴は、ハッカーの侵入をきっかけに分離・独立する原因になった「セキュリティ性」の高さです。Ethereum Classicではハッカーの侵入、仮想通貨の流出を許さないようにEthereumのブロックチェーンに手を加えてその拡張性を制限し、安全性、安定性を高めています。それは拡張性を重視していたイーサリアム財団の方針とは正反対でした。
3月にハードフォークとエアドロップを予定
Ethereum Classicは、分離・独立のいきさつがけんか別れに近くても、評判の良いスマートコントラクトの機能などEthereumの「看板」を受け継いでいる点と独自開発のセキュリティ性が好意的に受け入れられて、世界の主な仮想通貨取引所ならたいていどこでも取り扱っています。日本でもコインチェック、ビットフライヤー、DMMビットコインと3社が取り扱っています。Ethereum Classicの円との交換レートは、2016年7月に分岐して誕生した後の半年ほどは100円前後でしたが、2017年に入ると上昇が始まり、3月には300円を突破しました。6月には2,600円を超えています。その後は1,000円を少し超える程度で横ばいだったのですが、11月から再び上昇が始まり、12月の末には5,000円に接近しました。対円レートは1年で約50倍になっています。
Ethereum Classicに待ち受ける大きな出来事とは
それは初めての分岐(ハードフォーク)を行うことと、それによって誕生する新しい仮想通貨を「エアドロップ(Airdrop)」という方法で、Ethereum Classicの保有者に無償でプレゼントするということです。エアドロップと言ってもアップルの「iPhone」に搭載されている同じ名前の機能とは関係ありません。ハードフォークとエアドロップの3月実施は本決まりではありませんが、1月にそれが発表されると期待を集めて、Ethereum Classicの交換レートははね上がりました。
Ethereum Classicは自らハードフォークによって誕生しながらも、ルールを変更するハードフォークにはこれまで批判的な姿勢を示してきましたが、それを改めて、新しい仮想通貨「Callisto(カリスト/単位:CLO)」をハードフォークで誕生させます。Callistoはギリシャ神話に由来する木星の第4衛星の名前です。Lisk(LSK)が採用している「サイドチェーン」の技術をとりいれ、Callistoそれ自体がEthereum Classicのサイドチェーンになるとともに、その逆にもなることができます。
ハッカーが侵入したら、最後の最後にはトカゲがしっぽを切って逃げるように、サイドチェーンを切り離して本体のブロックチェーンを逃がして守るという手段をとることもできます。さらに独自の暗号化システムなども開発して、セキュリティ性をさらに高めているということです。2年前にEthereumから飛び出したEthereum Classicは、分岐(ハードフォーク)もうまく利用しながら、仮想通貨としてEthereumを超える高みを目指しています。
Callisto誕生と同時に「エアドロップ」でEthereum Classic保有者全員に、1ETCにつき1CLOの割合で新仮想通貨が割り当てられると言われています。そのようにタダで仮想通貨がもらえる「エアドロップ」はこれまで、ビットコイン保有者に「Stellar(ステラ/XLM)」が割り当てられたり、NEOの保有者に「GAS」が割り当てられたり、Ethereum保有者に「OmiseGO(OMS)」が割り当てられたりした例があります。
実際にはエアドロップの直後にビットコインもNEOもEthereumも一時的に値を崩しています。ビットコインは2017年、分岐(ハードフォーク)が起きるたびに一時的に値を崩しましたが、Ethereum Classicの今度の分岐はエアドロップを伴っているので、値崩れの幅が大きくなるかもしれません。それでも3月のハードフォークとエアドロップは、長い目で見れば良いニュースです。