アルトコインの「Nano」は現在、コインチェック(Coincheck)など日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。日本語版がある海外の取引所ではクーコイン(KuCoin)で取り扱っていますが、日本円から直接交換できません。なお、バイナンス(Binance)でも近いうちに取り扱いが始まるとみられています。
ビットコインより高速で、送金手数料が無料
Nano(ナノ/単位:XRB)は2017年3月、アメリカで誕生した仮想通貨です。誕生当時の名前は「ライブロックス(Raiblocks/単位名は同じ)」でしたが、2018年1月に名称がNanoに変わりました。名称変更のことを「リブランド(Rebrand)」と言います。ブランドを一新するという意味です。 Nanoは、ビットコイン(BTC)を意識してつくられた仮想通貨です。ビットコインをお手本にしながら、ビットコインで問題にされている点は、それを「反面教師」にしながらシステムに改良を加えるという設計です。
発行の上限はビットコインの2100万単位(枚)に対し無制限としています。送金手数料は有料のビットコインに対し無料としています。取引のスピードは「遅い」と不満が出ているビットコインよりずっと速く、「速い」と定評のあるリップル(XRP)よりも速いくらいです。「拡張性(スケーラビリティ)が足りない」というビットコインの問題点に対しても、Nanoは十分な拡張性をアピールしています。
そうした「スペックのビットコイン超え」を可能にした技術が「DAG(Directed Acyclic Graph)」というものです。これはビットコインならブロックチェーンに相当するような基本システムで、日本語では「有効非巡回グラフ」と呼ばれます。DAGは仮想通貨では他に「IOTA(IOT)」「Byteball(バイトボール/GBYTE)」「Aidos Kuneen(ADK)」などが採用していますが、NanoのDAGにはそうした他の仮想通貨のDAGにはない独自の技術が加えられています。それは「ブロックデータ格子構造(Block-larttice data structure)」と呼ばれるものです。
ブロックデータ格子構造の有効非巡回グラフ
はその「ブロックデータ格子構造をとっている有効非巡回グラフ(DAG)」には、どんな特徴があるのでしょうか? 技術の詳細な話は難しいので深入りしませんが、単純化して言えば、取引の際に「何をもとに優先度をつけるか」で、他の仮想通貨との違いが生まれています。 ビットコインのブロックチェーンでは「仕事量」が優先されます。同じDAG(有効非巡回グラフ)を使っている仮想通貨では、IOTAでは優先がなく同時に処理をしようとします。
Byteball(GBYTE)は「信頼度」の大きさによって選別を行います。しかしNanoはなんと、選挙のような「投票」で決めます。投票と言っても自動的に行われるのですが、最初から「1票の格差」がついていて、Nanoの保有量によって1票の重みが変わります。 それは、「1人1票」の国会議員の選挙よりも、「1株1票」の企業の「株主総会」に似ています。株主総会の投票では株式をたくさん持っている株主ほど有利で、50%を超える過半数を持つ株主は1人で大部分の議案を通すことができ、その企業を事実上支配できます。
Nanoの「ブロックデータ格子構造をとっている有効非巡回グラフ(DAG)」も、Nanoを多く保有するほど投票で優先されて、有利になるしくみになっています。 投票方式では事前に「多数派工作」ができます。企業の株主総会でも議案を通すために株主の委任状を集める「委任状闘争(プロキシ・ファイト)」という多数派工作が行われることがありますが、Nanoのシステムの内部でも、取引に参加する回数が多い同士、お互いに信頼関係がある同士、何らかのつながりがある仲間が一つのグループを形成して、投票で多数派をとって「与党」を形成することができます。
日本の国会のような有権者1人1票の投票で議員が選ばれる議会制民主主義では、少数派の野党の意見も尊重しなければなりませんが、仮想通貨の世界は事情が違います。少数派の野党の中に悪事を働くハッカーがまぎれ込んでいることがあるからです。保有量の多い同士で投票前に多数派工作を行って与党を形成し、少数派の野党のアクセスをブロックすれば、まぎれているハッカーの侵入を防ぎやすくなり仮想通貨の安全性が高まります。
ハッカーはたいていの場合、それまで取引実績がなく初お目見えで、そうでなくても保有量は小さく、与党勢力にはなじみがなく多数派工作はできそうにない「一匹狼」です。ですからNanoのようなしくみがあれば、入り込んで悪さをする余地は非常に小さくなります。もちろん、与党の中にハッカーの手引きをする悪者がいる可能性も完全に否定はできませんから、100%安全とは言えません。
送金手数料無料、高速、拡張性大の理由
ビットコインの送金手数料は有料で、2017年12月には高騰して不満を呼びましたが、Nanoの送金手数料は無料です。DAGを採用したNanoは処理される情報の量が小さくなるので、ネットワークに接続するコストがゼロですみ、送金手数料をゼロにしてもやっていけるからです。
一方、ビットコインはシステムの性質上、送金手数料を無料にすることができません。Nanoのように送金手数料が無料であれば円換算で数百円、数千円程度のような少額の決済(マイクロペイメント)でも手数料のコストを気にする必要がありません。その分、使い勝手がいいと言えます。
Nanoの取引のスピードがビットコインよりも速いのは、DAGとブロックチェーンのシステムの違いによります。ブロックチェーンには、取引の際、約10分ごとに「ブロック」が生成されて、その一つひとつに記録していくという作業があり、しかも記録容量には1MBという上限が設定されています。そのため上限を超えると記録されず、次に空のブロックができるまで順番待ちになり、クルマの渋滞のようにたまっていきます。
たとえて言えば、街のラーメン屋さんが「おいしい」と評判になりお昼休みにお客さんが押し寄せても、カウンターが10席しかないと、さばききれず歩道に大行列ができて、食べるまで20分も30分も待たされるのに似ています。一方、NanoのDAGには記録するためのブロックも記録の作業もありません。そのおかげで取引に伴う手続が少なくてすみ、取引スピードが速くなります。
それはショッピングセンターのフードコートにあるラーメン屋さんの屋台のようなものです。屋台では、ラーメンをつくってお金と引き換えにお客さんにどんどん渡していきます。お客さんは屋台ではなくフードコートのテーブルで食べるので、長い行列はできません。時間はかからず、ラーメンをすぐに食べることができます。ビットコインはブロックごとに記録を行い、記録容量の上限は1MBという制約があります。
そのために拡張性(スケーラビリティ)に問題があるのがの〃急所〃といわれていますが、NanoのDAGには記録容量の制約がなく、ブロックも記録の作業も存在しません。そのためNanoはシステムの拡張が比較的容易にでき、無制限となっている発行量の増大にも柔軟に対応できます。このようにビットコインより身軽で、コストが安く、拡張しやすいのがNanoです。
Nanoの将来性はDAGの将来性とイコール
Nanoは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円から直接交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてNanoに交換することになります。それでも円に対する交換レートは、2017年11月には1XRB=30円前後だったのが、2018年1月には1XRB=3,400円前後まで急上昇しました。1ヵ月余りで約113倍です。その後はピークの半値ぐらいに落ち着いています。
急上昇の背景には、日本語版もある香港の仮想通貨取引所バイナンス(Binance)で2017年12月31日から2018年1月5日まで実施されていた「仮想通貨次期上場候補」のユーザー人気投票で、本命視されたXPなどを抑えてNanoが第1位を取ったという出来事がありました。バイナンスは人気投票第1位の仮想通貨は必ず上場させていて、その取引量は世界一なので、「バイナンス近日上場、知名度アップ、需要激増」を見込んで交換レートが急騰した、というわけです。
しかし、起きるのは良いことばかりではありません。2018年2月、イタリアの仮想通貨取引所ビットグレイル(BitGrail)にハッカーが侵入し、全発行量の13%にあたる1,700万XRB、約184億円分のNanoが流出してしまう事件が起きました。日本のコインチェック(Coincheck)でもハッカーの侵入により約580億円分の仮想通貨NEM(XEM)が流出しましたが、同じような事件は世界じゅうで起きています。
Nanoの将来性とは、すなわち基本システムDAGの将来性です。現在のところ仮想通貨の基本システムはビットコインを生んだブロックチェーンが主流ですが、「DAGも優れている」「DAGを採用した仮想通貨の中でもNanoのシステムは特に優れている」と広く知れ渡ったら、Nanoの将来は前途洋々でしょう。