仮想通貨Steem徹底解説

アルトコインの「Steem」は現在、コインチェック(Coincheck)など日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)で取り扱っていますが、日本円から直接交換できません。

コンテンツを投稿すると仮想通貨がもらえる

Steem(スチーム/単位:STEEM)は2016年4月にアメリカで誕生しました。開発者はアメリカ人のダニエル・ラリマー氏です。名称のつづりは「Steam(蒸気)」ではありません。teemは大きな辞書にしか載っていませんが英語で「価値」という意味です。しかしSteemのエンブレム(トレードマーク)は温泉のような湯気が立っています。

Steemは、SNSへのコンテンツの投稿に対する報酬の支払いを行うために考え出された仮想通貨プラットフォームです。そのSNSは「Steemit.com(スチーミット・ドットコム)」という名前で、文章をベースに、報道レポート、写真、動画、音楽などさまざまなコンテンツの投稿を受け付けています。残念ながらサイトは英語版しかなく、日本語版はまだありません。投稿の条件は仮想通貨Steemを保有すること、それだけです。これが参加料代わりで、投稿すると報酬が受け取れます。

「Steemit.com」の運営者=Steemの発行者は、投稿への報酬を支払うにあたって、出資を受ける、銀行から融資を受けるなどして法定通貨の米ドル資金を事前に用意しておく必要はありません。自前で仮想通貨Steemを発行してそれを渡せばいいので、早い話が「元手いらず」のしくみです。「投稿してくれたら、仮想通貨ではありますがお金を支払います」と宣伝してコンテンツの投稿を集めることができます。Steemを「お金」とみなすかどうかは投稿者の判断に任されますが、仮想通貨取引所で法定通貨との交換がきちんと機能していたら、抵抗感はそれだけ薄れます。

優れた創作にも、優れた批評にも報酬を出す

ネット上で会員から投稿を受け付けて公開するSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)といえば、さまざまな形式のコンテンツが投稿できる総合型の「Facebook(フェイスブック)」や「LINE」、短文を投稿する「Twitter(ツイッター)」、動画を投稿する「YouTube(ユーチューブ)」、写真を投稿する「Instagram(インスタグラム)」などがよく知られています。文章や写真や動画を投稿できるブログはそれこそ無数にあります。

しかし、コンテンツを投稿しても、原則としてSNSを運営する会社やブログの管理人から報酬は受け取れません。「YouTube」は動画投稿で生計を立てる「ユーチューバー」がいると言われていますが、その収入は投稿動画に差し込まれる企業広告でまかなわれています。ピコ太郎さんのように「YouTube」で芸を披露して全世界でウケると、広告収入は得られても、大道芸人やストリートミュージシャンのような「投げ銭」がもらえるシステムはできていません。

それらと違って、SNSへのコンテンツの投稿にきちんと報酬を支払うしくみを、仮想通貨を活用してつくり出せないか、という着想から誕生したのがSteemです。コミュニティサイト「Steemit.com」で、ブログに書き込むような要領で投稿します。投稿されたコンテンツは、仮想通貨の基本システムのブロックチェーンに記録されて、誰でも自由に見たり聴いたりできるようになっています。ブロックチェーンで公開するとシステム障害に強いというメリットがあります。

創作者(オーサー/クリエイター)の投稿はもちろん報酬の支払い対象ですが、そのコンテンツに対する一般の人のコメント欄で書く批評(キューレーター)も、投稿に比べると額が少ない「ミニマムペイメント(少額支払い)」ではありますが、報酬の支払い対象です。創作も批評も全く同格の文化活動であるという欧米の「批評文化」の基盤が、そこには垣間見えます。ただし、創作でもコメントでも必ず報酬がもらえるわけではありません。

「Steemit.com」で見た第三者から評価を受け、ツイッターやフェイスブックだったら「いいね」にあたるような「票」が入り、それに応じて報酬が支払われるしくみになっています。ですから単なる日々の記録や、誰かの猿まねのようなレベルの低いコンテンツ、読むに値しないコメントは、評価はされず票も入らず、報酬も受け取れません。その一方で優れたコンテンツやコメントは高い評価を受けて多くの票を集め、「投げ銭」のような報酬の見返りをよりたくさん得ることができます。

そこには広告収入のような不透明さも不安定さもありません。ストレートで正確で透明性のある報酬システムにより「Steemit.com」に良質の創作、良質の批評が集まり、SNSとしての評判が高まって価値が上がることを目指しています。現在は最短で投稿、コメントから約24時間後までに「票」を集計して最初の報酬金額が確定し、支払われています。

Steemの交換価値を守っている複雑なしくみ

Steem徹底解説さて、創作や批評への報酬は、いくつかの段階を経て最終的に仮想通貨Steemで受け取れます。いくつかの段階というのは、途中でSteemとは別の2つの仮想通貨が介在しているからで、Steemは3つの通貨が一体的に連動することで成り立っています。Steemと別の仮想通貨とは、一つは「Steem Power(スチームパワー/SP)」で、もう一つは「Steem Dollar(スチームダラー/SMD)」というものです。それらの通貨はSteemのシステム内の交換所でお互いに交換ができます。SNSの「Steemit.com」に創作者がコンテンツを投稿し、それが第三者が評価した「票」を獲得すると、報酬が支払われます。コメントでも同様です。その報酬の支払い手段は、「Steem Power(SP)」が50%、「Steem Dollar(SMD)」が50%という割合になっています。Steemでもらえるわけではありません。

「Steem Power(SP)」は、その保有量に応じてコンテンツやコメントに投票するための「票」が割り当てられますが、投票するにはSteemからSteem Power(SP)に交換(「パワーアップ」と言います)しておく必要があります。この通貨は保有すると利子がつく特徴があり、長く保有すればするほど利子分が上乗せされて「お得」になります。「Steem Dollar(SMD)」は米ドルとの交換レートが常に1対1で固定されるように運用され、これにも利子がつきます。利率は現在、年率約10%です。そうすることで、報酬を米ドルではなく仮想通貨で支払われても、値動きは米ドルと連動するので、ドルで受け取るなら時期によって有利、不利が起きないようにしています。

「Steem Power(SP)」も「Steem Dollar(SMD)」も、そのままでは米ドルなど法定通貨に交換できません。Steemのシステム内の交換所でSteemに交換してから法定通貨に交換するようになっています。そのように3つの仮想通貨が連動することでSteemの交換レートは安定し、Steemの交換レートの変動によって「Steemit.com」から得る実質的な報酬額が不安定になるのを抑えています。

また、「Steem Power(SP)」からSteemへの交換(「パワーダウン」と言います)には「週1回まで。所有量の104分の1まで」という回数と量の制限が設けられていて、それも、需要と供給のバランスが崩れてSteemの交換レートが不安定にならないように歯止めをかけています。Steemがなぜそんな複雑なしくみをとり入れて交換レートの安定化を図っているかというと、Steemの発行量が1年で前年の100%増、つまり2倍になるように設計されているからです。

現在の発行量は3億STEEM足らずで、それが1年後には6億STEAM近くに達する計算です。「Steemit.com」へのコンテンツの投稿やコメントに対して仮想通貨で報酬をどんどん支払って、さらに利子までつけるのですから、当然そうなります。もしそうしないと、報酬や利子の支払いに使う仮想通貨がいずれは枯渇してしまい、「Steemit.com」の報酬支払いがストップしてしまいます。 しかし経済の基本法則では、通貨量が1年で2倍になると、その通貨の価値は半分になってしまいます。

どこかの国の法定通貨だったら年間インフレ率100%で、今のアメリカや日本の年間インフレ率目標2%の50倍という「ハイパーインフレ」が起きる状態で、国民生活は地獄の苦しみです。もしも、仮想通貨で受け取った報酬の実質的な価値が1年で半分、1日あたり約0.19%ずつ減っていくようなら、誰も「Steemit.com」にコンテンツを投稿したりコメントを書いたりしなくなるでしょう。そうならないように、Steemは、SteemとSteem Power(SP)とSteem Dollar(SMD)をしっかり連動させて、Steemの交換レートができるだけ安定するように努めているわけです。

交換レートの安定を目指すので長期保有向き

Steemは現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円からの直接の交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、香港のバイナンス(Binance)など海外の取引所に持ち込んで、改めてSteemに交換することになります。円との交換レートは、報酬の支払いが始まった2016年夏に約200円まで急上昇して仮想通貨の時価総額ランキングで第3位に入ったことがあります。

2017年11月は1STEEM=100円台でしたが、12月に入ると400円前後まで上昇しました。それが2018年1月初旬には一気に900円台まで高騰。時価総額ランキングではトップ10圏内に入りました。その後は乱高下を繰り返した後、1STEEM=500~700円付近で落ち着きをみせています。長期保有してもらいたいので対米ドルの交換レートが安定するよう設計されている仮想通貨ですから、それは発行者にとって好ましい傾向です。

今後も、2016年の夏や2018年の年明けのように一気に高騰するようなことは、あまり期待できません。それでも時価総額ランキングでたびたび20位以内に入る人気通貨ですから、大きく値崩れすることもまた考えにくいと言えます。そして何よりも、SNSの「Steemit.com」がどれだけ良質のコンテンツを揃えられるか、利用者がどれだけ増えるかで、Steemの将来は大きく左右されることになります。