アルトコインの「Zcash」は現在、日本の仮想通貨取引所ではコインチェック(Coincheck)で取り扱っています。日本語版がある海外の取引所では、香港のバイナンス(Binance)で取り扱っていますが、日本円から直接交換できません。

セキュリティ技術でJPモルガンと業務提携

仮想通貨Zcash徹底解説Zcash(ジーキャッシュ/単位:ZEC)は2016年10月にアメリカで生まれた仮想通貨です。「ゼットキャッシュ」ではなく「ジー(ズィー)キャッシュ」と読みます。「Z」は、Zcashを運営するZcash 財団の代表(CEO)を務める開発者のゾーコ・ウィルコックス(Zooko Wilcox)氏の名前の頭文字で、彼は1994年に立ち上がった電子マネー「デジキャッシュ」のシステムも手がけたベテランの技術者です。

Zcashの発行量は2100万枚(単位)でビットコイン(BTC)と同じですが、ブロックサイズは2倍で拡張性があり、取引のスピードも約4倍と速くなっています。しかし何と言ってもビットコインにはない最大の特徴は「匿名性」です。同じく匿名性を売り物にしている仮想通貨には、他にMonero(モネロ/XMR)やDASH(ダッシュ/DASH)があります。 匿名性は大きなメリットである半面、警察当局からにらまれるような問題もはらんでいます。

匿名性のメリットは仮想通貨の利用者のプライバシー、取引や決済の秘密が固く守られることで、外部の第三者には送金したのは誰なのか、送り主のアドレスが特定できません。送金額も、取引の履歴もわかりません。一方、匿名性に伴う問題とは、仮想通貨がどんな悪事に利用されても、匿名性のベールに包まれて外からわからないことです。匿名性の高さ、ビットコイン(BTC)をもしのぐ高度なセキュリティ性が評価されて、アメリカの大手金融グループのJPモルガンは2017年5月、仮想通貨の国際会議「コンセンサス2017」の場でZcashとの業務提携を発表しました。

アルトコインの代表的な通貨、イーサリアム(Etherium)を開発したヴィタリック・ブテリン氏も「いま注目の通貨」としてZcashを挙げており、技術アドバイザーとして参加しています。

「ゼロ知識証明」のメリットと利用者の問題

Zcashと同じく「匿名性」を売り物にしている仮想通貨にMonero(モネロ)やDASH(DASH)がありますが、たとえばMoneroでは、仮想通貨の基本中の基本システムであるブロックチェーンの「アルゴリズム(コンピュータで計算する方法)」に手を加えて、第三者には正しい名前とそうでない名前が同時に複数表示されるようにし、「雑踏にまぎれる」ような形で匿名性を確保しています・それを「リング署名」と言います。しかしそれは、何かを手がかりに多数の中から正しい名前が突き止められてしまう恐れがあります。

犯罪が起きた時、警察が「顔認証」のようなハイテクなどを使わなくても、捜査官が手分けして手間ひまかけて駅や店舗の防犯カメラの画像を全部チェックして、容疑者の特徴と合致する人物を特定してしまうような〃執念と根性〃には、勝てません。また、Moneroには正式アドレスと、1度の取引だけで使い捨ての「ワンタイムアドレス(ステルスアドレス)」という2つのアドレスがあり、閲覧用と送金用の2つの秘密鍵を使い分ける方法を採用しています。

そんなMoneroの匿名性は、言ってみれば「情報は出すものの、特定されないようにごまかす」「防護壁を二重にする」という方法です。DASHは「プライバートセンド」というまた別の技術で匿名性を確保しています。しかし、Zcashが匿名性を確保する技術はそれらとは基本的な「設計思想」から違っています。情報は最初からいっさい公開せず、ブロックチェーンにも流さないので、絶対に知られない「完全非公開」です。

他とはワンランク違う高度な匿名性を支える技術は「ゼロ知識証明」といわれるものです。JPモルガンはそれを「世界最先端の技術」と絶賛し、自社の金融システムで個人情報の保護に応用する予定になっています。ゼロ知識証明とは、早い話が「お墨付き」です。

たとえばAさんとBさんが仮想通貨で取引をした時、Aさんの名前もBさんの名前も、日付も、金額も、契約上のいろいろな情報も仮想通貨のブロックチェーンには一切流されません。Zcashには「完全性」「健全性」「ゼロ知識性」の3つの条件に合致したから「正しい取引をして、安全です」という「お墨付き」だけがついています。それでは第三者は、どう工作しようとも何もわかりません。取引に関する知識がゼロの状態で安全を証明するので、ゼロ知識証明と呼んでいます。

羽田や成田や関空のような国際空港には入国審査の係官がいて、到着した外国人のパスポートをチェックしていますが、「ゼロ知識証明」とは、そこで係員がパスポートを預かって「この人は安全。入国を許可した」という入国審査官名の「お墨付き」だけを渡して入国させるようなものです。入国した外国人からそのお墨付きを見せられても、どこから来た誰なのか全くわかりませんが、入国審査官名のお墨付きがあるから「この外国人は正しい手続で入国した安全な人物」とみなされます。

そうすれば入国した外国人の「匿名性」は完全に保たれます。実際の入国審査でこんなことは絶対にありえませんが、仮想通貨の世界で匿名性を確保しながら取引の安全性を確保するには、確実な方法だと言えます。もちろん、たとえばハッカーが侵入してZcashとともに「ゼロ知識証明」のお墨付きも盗まれたら、本人に「なりすまし」て悪用される恐れがあります。しかも法定通貨の現金のお札やコインと同じように、本人が正当な保有者であると証明するのが困難です。

匿名性を隠れミノにZcashが「足がつかない仮想通貨」としていろいろな悪事に使われる恐れもあります。それがZcashの匿名性について指摘されている問題点です。悪事の例としては財産を隠して脱税する、贈収賄、密輸、闇サイトでの麻薬や武器の取引、違法なギャンブル、犯罪組織やテロ組織や経済制裁対象国への不法な送金、いかがわしい資金の洗浄(マネーロンダリング)などです。

すでに、「やばい品物(ブツ)が買える闇サイト」としてその筋の人たちの間では有名な「アルファベイ(AlphaBay)」では、支払いの手段としてMoneroなどとともにZcashを指定しています。欧州連合(EU)の組織である欧州刑事警察機構(Europol)では、サイバー犯罪に悪用される恐れがある仮想通貨としてEtherium、MoneroとともにZcashの名前を挙げて警告しています。

もっとも、悪いのは侵入して盗んで本人になりすますハッカーや、仮想通貨を悪事の道具に使う悪党のような利用者側の問題です。Zcashという仮想通貨それ自体が悪なのではありませんが、世界じゅうで「不正を助長する危険な仮想通貨」だと当局からにらまれ、ダークでスキャンダラスなイメージがついてしまっています。

技術への評価と当局の規制で乱高下しやすい

ゼロ知識証明の技術による最強の匿名性、セキュリティ性で、金融界からも注目される そのイメージとうらはらに、高度な匿名性と安全性を両立させているZcashの「ゼロ知識証明」の技術は非常に評判が良く、2017年12月にビットコイン(BTC)から分岐(ハードフォーク)して誕生した「Super Bitcoin(スーパービットコイン/SBTC)」にもとり入れられました。今後もこの技術を採用する仮想通貨が出てきそうで、セキュリティの強靱さで「最強の仮想通貨」とも呼ばれることがあるZcashの名声をさらに高めることでしょう。

ゼロ知識証明の技術は仮想通貨の枠を超えて、個人情報の保護がきわめて重要な金融のシステムや、ネット通販などの大手企業の顧客管理のシステムなどで、セキュリティ・ツールとしても利用される可能性があります。Zcash財団にとっては安定した収入源です。Zcashの円に対する交換レートは、「ゼロ知識証明」の技術力がもてはやされた2016年10月の誕生直後には瞬間風速で1ZEC=2億4,500万円まで驚異的にはね上がりましたが、その後、3,000円台までしぼむという経緯をたどりました。

2017年5月にJPモルガンとの業務提携を発表した直後には4万5,000円まで上昇。2017年秋の段階では2~3万円台でしたが、12月下旬には8万円台まで上がりました。2017年の1年間で約16倍になっています。その後、2018年2月には3万円台まで下がっています。

Zcashの匿名性は、交換レートに対してはプラスにもマイナスにも作用します。主要国で「匿名性がある仮想通貨などまかりならん」と当局から規制でもかけられたら、MoneroやDASHと一緒に下落しそうですが、独自の「ゼロ知識証明」の技術が改めて評価されたり、それが他の仮想通貨や金融やネットセキュリティの大手企業のシステムに採用されたりすると、イメージが良くなって上昇する可能性があります。それだけ乱高下しやすい仮想通貨と言えます。匿名性のある仮想通貨が数ある中で、Zcashの技術が「他とは設計思想から違う」「技術は仮想通貨の枠を超えて本命視されている」ことは、ぜひ覚えておいてください。