NEM流出事件後も衰えない仮想通貨への興味・購入意欲

コインチェック事件後にもイタリアの仮想通貨取引所Bitgrailがハッキング被害に

2018年1月26日、日本最大の取引所コインチェックで「約5億2300万XEM(時価580億円相当)」のNEMが不正に流出する事件が起こり、仮想通貨投資家をパニックに陥れました。コインチェックはNEM流出で被害を受けた約26万人の顧客に対して約462億円の「日本円」で補償を行うとしています。しかし日本円による被害補償の具体的日時は決まっておらず、被害者たちはアルトコイン換金ができない不安な日々を過ごしています。コインチェックのユーザーは3月1日現在も「ビットコイン以外のアルトコイン売買」ができない状態が続いていますが、本当にコインチェックが通常営業を再開できるのか不透明な状況と言わざるを得ません。

コインチェック事件後の2月8日には、イタリアの取引所BitgrailでアルトコインNano(単位はXRB)が1,700万XRB盗難される事件が起こっています。Nano(XRB)は仮想通貨の時価総額で24位、1,700万XRBは日本円にして約200億円の被害規模になりますが、資金力のないBitgrailのCEOは早々に「100%の返金は不可能」と伝えています。BitgrailはNano開発チームと交渉して、「不正な送金情報を取り消してほしい」と要求しましたが、断られています。

2016年7月に起こった「The DAO事件」では、DAOプロジェクト(ICOの自律分散型ファンド)のSplit機能のバグを悪用した犯人によって、イーサリアム(通貨名イーサ)が約360万ETH(約65億円相当)盗まれました。この時はイーサリアムのブロックチェーンをハードフォークさせる対抗策がコミュニティで決議され、「約360万ETHが不正送金される前の時点」までブロックチェーンを遡らせて、新しいイーサを古いイーサリアム・クラシック(ETC)と分岐させたのです。犯人の不正送金の事実自体が無かったことにされたのですが、この対抗策は「ブロックチェーン+非中央集権的なシステムの基本理念」に反しているとして議論を呼びました。

過去に何度も発生している取引所がハッキングされる事件

約360万ETHが盗まれたThe DAO事件では、運営コミュニティが過半数の賛同を得て、「ETHの不正送金記録」を無かったものにするハードフォークを断行しました。この前例があったために、コインチェック事件ではNEM財団にハードフォークの要請が行われ、Bitgrail事件でも運営コミュニティに送金記録の取り消しが求められたのです。しかし「ブロックチェーン上の不正送金記録をチャラにする盗難対抗策」は、自律分散型の仮想通貨と改ざん不能なブロックチェーンの基本理念に反する「特例中の特例の対抗策」なので、今後も基本的に採用されることはないでしょう。

取引所のハッキング被害は一般に考えられている以上に頻繁に発生しています。約500億円相当の顧客資産のビットコインと現金が消失した有名な2014年の「Mt.GOX事件」以外にも、2016年8月には香港で「Bitfinex事件」が起こっています。当時、世界第二位の取引所だった香港のBitfinex(ビットフィネックス)で、約12万BTC(時価約80億円相当)がハッキングによって盗まれたのです。昨年12月には、韓国の取引所YouBitも約18億円相当のハッキング被害に遭って顧客の損害を補填できずに倒産しています。

Mt.GOX事件は外部からのハッキングではなく同社社員の内部犯だったとされていますが、Bitfinex事件では現在も外部の犯人は捕まっていません。外部犯でも内部犯でも大手の取引所でも、仮想通貨が盗難されたり消失したりするリスクは常にあるということです。つまり、仮想通貨投資をするに当たっては、「サードパーティーリスク(取引所リスク)がゼロにならないこと」と「自分の仮想通貨資産の安全な管理方法」について正しく理解しておく必要があるのです。

Zaifでも22億BTCのビットコインが「0円」で購入されるあり得ないバグが発生

コインチェックの信用失墜・顧客資産流出(現金引き出し)という“敵失”によって、顧客争奪のチャンスを得ているのがテックビューロ社運営のZaifです。Zaifは「板注文の利便性+取引手数料の安さ(BTCはマイナス手数料)+追証リスクのない独自のレバレッジ取引(利確時に手数料徴収)」で、国内ではかなり人気のある取引所です。最近は、剛力彩芽さんを起用したZaifのクールでキュートな雰囲気のテレビCMも話題になっていましたが、このZaifでも信じられないシステム異常(バグ)が発生しました。

2月16日午後5時40分~58分にかけて、Zaifの「簡単売買」においてビットコイン(BTC)が「0円」で売られるバグが発生し、麺屋銀次と名乗る投資家が0円で「22億BTC(時価2246兆円相当)」を購入できたと公表したのです。ビットコインは発行上限枚数が「約2,100万BTC」と規定されていて、原理的に22億BTCを購入することは不可能ですが、Zaifのアカウント画面上には保有資産が22億BTC(約2,246兆円相当)と一時的に記載されたわけです。アメリカのGDP(約18兆ドル)を超える個人資産などあり得ないわけですが、実際に22億BTCの「指値注文」ができたのは恐ろしいことです。Zaifが「自己保有資産・ビットコインの発行上限枚数」を超えるBTCを0円で購入できるようにしていたシステムエラーですが、悪意ある人物が購入し「成行注文」で売れるだけ売ろうとしていたら仮想通貨市場は(事後的に数値修正されるにしても)大暴落したでしょう。

「コインチェック事件」が起きても衰えない仮想通貨に対する興味・購入意向

Zaifでも22億BTCを「0円販売」するバグが発生コインチェック事件が発生して大手取引所の信用が失われたことによって、「仮想通貨に対する興味・購入意欲」は完全に衰えるものと予測する意見も多くありました。事件後、ビットコイン(BTC)価格は暴落して、一時は去年の高値の3分の1を割り込む「70万円以下」にまで価格を落としましたが、2月24日現在は100~110万円前後まで価格を戻しています。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が2月15日に実施した「仮想通貨に関するアンケート調査(20~69歳の1,501名対象)」では、「仮想通貨に興味がとてもある・少し興味がある」が32.5%、「今まで購入していないが、今後購入したい」が25.2%にも上っています。

このアンケートでは約4人に1人が仮想通貨の購入に前向きな意向があると答えていて、コインチェック事件後も「仮想通貨に対する興味・購入意欲」が、思われていたほどには落ち込んでいないことが明らかになりました。コインチェック事件後に、日本の金融庁はほぼ全ての仮想通貨交換事業者に「立ち入り検査」を実施して、「安全管理体制・仮想通貨保管体制のセキュリティー強化」を呼びかけています。今後、「登録事業者の認可要件」がより厳格化(規制強化)される可能性が出てきており、コインチェックがみなし業者から登録業者になれるかの見通しも不透明です。

しかし、「仮想通貨取引所に対する規制強化の方向性」はむしろ「投資家保護・不適切な取引所の排除」につながるとして、投資家にポジティブに受け止められている向きもあります。約6割以上の人が取引所の規制強化に賛成とのニュースもありましたが、この中には「仮想通貨自体に否定的な人」も含まれますが、「仮想通貨には肯定的で取引所のセキュリティーを上げてほしい投資家」も含まれているでしょう。

“取引所・暴落・盗難のリスク”があっても仮想通貨に対する 興味・購買意欲が衰えない理由は何か?

仮想通貨投資は「取引所・価格変動(暴落)・盗難のリスク」や「仮想通貨資産の安全な長期保管の難しさ(=ウォレット端末・復元パスフレーズを紛失すれば資産を喪失する)」から、一般に「ハイリスク・ハイリターンの投機」に近い要素を多く持っています。何度も取引所関連の仮想通貨流出事故が起こっているにも関わらず、「ハイリスクな仮想通貨投資」に対する人々の興味・購入意欲が衰えない理由は何なのでしょうか。その理由のヒントは、「20~30代の若年層が特に強い関心・購買意欲を持っていること」にもあります。CCCの実施した「仮想通貨に関するアンケート調査」でも、20代男性の43.5%が仮想通貨に興味があると回答したのに対して、50〜60代は45.6%がまったく興味がないと答えています。

20~30代の若年層の多くは、まとまった金融資産を持っておらず、高学歴で大企業・官庁にでも勤めていなければ「将来の賃金上昇+安定雇用の実感」を持つことがなかなかできません。超高齢化社会における「社会保障の負担増・給付減+公的年金の給付開始年齢引き上げ」が直撃する世代でもあり、「将来の年金制度・国家財政(法定通貨)に対する不信感」も強くなっています。そういった若者世代の時代背景と雇用・社会保障(公的年金)に対する将来不安が、ブロックチェーンの新技術とボラティリティーに支えられた「仮想通貨への投資・投機(一財産を作れるかもしれない可能性)」をより魅力的に見せている部分があります。

ハイリスクな仮想通貨を買いたい人が今も多い理由は、やはり“億り人・元本を数十倍以上にした成功体験談”の影響も大きいでしょう。確かに、株式市場も日経平均が高値を更新して活況を呈していますが、株式投資で資金が2倍以上になることは滅多になく、それなりの元手も必要です。2017年だけで価格が20倍以上にもなったビットコイン(BTC)が「仮想通貨ドリーム」のイメージを強めましたが、仮想通貨投資にあたっては「元本保障がない価格変動の市場リスク・ハッキングされる取引所リスク・仮想通貨保管の難しさ」について理解しておかなければなりません。