デジタル通貨を扱う起業家にも利用されているのがICO(Initial Coin Offering)です。ただ、誰にも規制されず、億単位の資金も簡単に調達できるICOは、負の側面も同時に併せ持っています。ここでは仮想通貨とICOについて、もう一度考えてみましょう。
未来の資金調達法として有望視されたICO
ICO(Initial Coin Offering)は未来の資金調達法とも言われ、とくに仮想通貨の世界では非常に期待され成長してきました。ビットコイン以外のアルトコインは、ほとんどがICO(プレセールとも言う)によって事業をスタートさせています。またイーサリアムをプラットフォームとして新たなトークンを発行する場合も、ICOを使うことが当たり前のようになりました。
ただ、投資家の期待に添うICOを展開する例もみられるのですが、中には、期待を裏切る例も見られます。たとえば、1か月以内に投資額の13倍のリターンを期待させながら、結果的に逮捕にいたった例もあります。またICOで約33億円もの資金を投資家から集めていながら、法律で定められたトークン(株式)発行の手続きを踏んでおらず、投資家と結んだ契約内容に事実と異なる部分があると弁護士に訴えられた例もあります。この二つはいずれも米国で起きたICOの例です。
後者の例では、ボクシング元世界王者フロイド・メイウェザーが、SNSなどを通じてプロモーションを行っています。著名人がICOを宣伝することは、投資家が実際のプロダクトを過度により良いものとして捉えてしまうことになり、米証券取引委員会は、こういうケースは問題になると判断しています。
2つばかりICOの事例をあげましたが、冒頭にもふれたとおりICOには未来の資金調達法という側面もありながら、同時に負の面も併せ持っています。しかも仮想通貨の場合は負の傾向が強まっており、同じ投資として考えた場合、仮想通貨自体のリスクよりICOの持つリスクのほうが高まっています。仮想通貨の専門家の間では、ICOに否定的な考えを持つ方も増えています。
そもそもICOって何?
ICOはIPO(Initial Public Offering=新規株式公開)としばしば比較されますが、ICOの理解にはトークンの概念をつかむことが必要です。ICOで使われるトークンは、本当の意味での通貨ではありません。かといって、株式でもありません。ここがICOが初めての方にとって理解を難しくしています。
あらためてICOを簡単に説明すると、トークン(=独自のデジタル通貨)を売却して資金調達することであり、トークンを購入すれば、投資する会社のファンドに誰でも参加できます。
またこの文脈でのICOは、いわゆる既存の仮想通貨(たとえばイーサリアムやビットコイン等)の代替となるデジタル通貨をつくる会社との印象を持つでしょう。ところが、ある種のデジタル通貨を作ろうといている会社だけが、ICOによって資金調達をしているわけではありません。ICOの守備範囲は、実はかなり広いのです。通貨だけではなく、具体的な商品を販売している会社にも、ICOによってスタートアップを乗り越えた会社もあります。
また現在のところ、ICOは政府の監督枠外で行われています。政府監督下に置かれたIPO(新規株式公開)と決定的に違うのはこの点です。IPOには証券会社が幹事として株を売り出し、監査が設けられています。しかしICOは証券会社の管理もありませんし、もちろん監査も設けられていません。更に銀行や株主に計画書を提出する必要もありません。そのため、これまで幾つかの理由・事情で資金調達が難しかった会社も、ICOと言う仕組みを使えば資金調達できてしまいます。しかし手軽に資金調達できるICOは、詐欺の温床にも十分なり得る危険性があります。とくに業界が未成熟なデジタル通貨の分野はそうした傾向が強まります。
世界各国で注意喚起が叫ばれるICOのリスク
ICOは政府の監督枠外に置かれていること、仕組みに甘さがあることなどから、現在ではデジタル通貨を創造するまともな会社・業者から、次第に避けられます。
こうした傾向が如実に表れたのは2017年の後半でしょう。ただ、負の側面が出た反面、同時にICOによる資金調達も好調に伸びました。たしかにICOには良い面・悪い面の両方がありました。とくにイーサリアムはICOとの相性が良いことで知られていますし、実際にイーサリアムはICOの好調に支えられ、今年にかけて価格を大きく伸ばしています。そのためイーサリアムに関連するICOは、スキャム(詐欺)ではないと判断する人が多くいます。
ただしICOの被害が拡大しはじめると、日本でも金融庁が昨年10月に利用者や事業者に、ICOのリスクについて注意を促すようになりました。利用者には「価格下落の可能性」「詐欺の可能性」を呼びかけ、事業者に対しては、ICOの種類によっては資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となることを知らせています。
米国や中国でも国単位でICO規制が実施されていますが、EUなど欧州諸国でもICOのリスクを共有し、各々の国で監督省庁の注意喚起を行っています。ICOのリスクについては、その認識が急速に広がっている状況です。
ICOとイーサリアムは全く別物
こうした動きにより、ICO詐欺に対する注意はスピード感を持って広がりを見せていますが、ICOと言えばイーサリアムというぐらい好相性であることから、トークンにERC20(イーサリアムのトークンのひとつ)が使われていると、初心者の多くは概して騙される傾向にあります。
ただICOを100%詐欺だと決めつけることはできませんし、ユニークなプロダクトICOも確かに存在します。しかし、イーサリアムの開発陣が、全てのICOをチェックしているわけではありませんし、ICOスキャムの張本人とヴィタリック・ブテリン氏(イーサリアムの生みの親)が一緒に写真に写っていたとしても、ヴィタリック氏とICOスキャムと何ら関わりがないのも事実です。
私たちができることは、イーサリアムとICOスキャムとは無関係だと知ることです。確かにERC20はICOを展開しやすく、大変便利なツールには違いありません。ただ、現状を見るとそれほど有用と思えるICOの企画は存在しません。これだけICOスキャムがニュースで取り上げていますので、少し冷静になり、起きている事象を見つめ直してみましょう。
なぜICOはスキャム(詐欺)がつきものなのか?
なぜICOにはスキャムがつきものなのでしょう。それはICO自体が、スキャムを呼びやすい構造だからといえるでしょう。
ICOはビットコイン同様に、非中央集権化した構造を持ち、両方ともこれといった監督者が存在していません。それでもビットコインは、あらかじめ書かれたコードにある意味で縛られていますが、ICOはビットコインのような縛りもありません。つまりビットコインはコードを改竄しない限り、あらかじめ作ったルールに縛られるのですが、ICOにはそのようなルールすら存在しません。従って詐欺に繋がりやすいと見て間違いはありません。
また目標達成の期限を提示していなければ、それについても一切問われることもありません。いわばICOは意図的に騙さずとも、投資家を騙せてしまいます。こういう仕組みをもつICOは、投資家にとってはきわめてリスクが高い投資商品といえます。
国もICOに規制をかけていて、日本でもICOの仕組みによっては資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となりますが、騙せる相手がいる限り、ICO詐欺はなくなりません。資金調達法として夢のようなシステムですが、これもおそかれはやかれ法律による縛りが追加されるのではないでしょうか。