すでに昨年末頃からいわれていることですが、ビットコインなどのマイニングの拠点が中国からロシアや北欧に移るという噂が、いよいよ現実味を帯びてきました。
昨年の始めには、ビットコインのマイニング事業のうち、8割近くが中国にありましたが、たった1年で中国国内の取引所はほぼ全て閉鎖され、マイニング業者も代替地を模索しはじめているとされています。この状況は誰が予想したことでしょう。
中国のマイニング事業がロシアに移設か?
中国に本拠を置くBitmainが、新年のニュースでスイスに子会社を設立したとの知らせが入ってきています。また、ロシアからは「RACIB」というブロックチェーン事業者のための協会が、中国やヨーロッパの40以上もの企業からマイニング事業の開業申請を受取ったというニュースもあります。
40 Companies From China and EU Have Applied to Mine Bitcoin in Russia – Bitcoin News。
「RACIB」のYury Pripachkin氏によれば、ビットコインマイニングだけを目的としたロシアでのマイニング施設の申請はすでに100ヵ所以上にも上るということです。またPripachkin氏は、ロシアはマイナーが効率よく作業できるエネルギー資源があり、投資家のための優遇税制を整備できると息巻いています。
中国はマイニング事業を正式に禁止したわけではありません。かといって、現在の中国の状況では永続的に安心してマイニング事業を継続していけるものでもありません。従って中国の事業者は、Bitmainのように国外に子会社を設立したり、事業そのものを移設したりするよりほかないようです。
こうした動きは、事業者に対して、中国政府がどちらとも取れるようなあいまいな対応が引き起こしていると言えます。ただどうしても疑問に残るのは、中国がビットコインのマイニングや仮想通貨との関わりを一切捨ててしまっても、本当に構わないのか?ということ。それとも裏をかくような画策でも、準備しているのでしょうか。
厳しい外貨規制がビットコインの利用者を増やした?
ところで中国には、通常の経済大国に見られない海外送金に関する複雑な規制があります。実は、これが中国の仮想通貨に対する規制を一層強化する原因になっていますので紹介しておきます。
中国では自分の資産を海外に送金する場合、年間550万円までに制限されています。これは海外から国内の口座に着金する分も同様です。さらに、1件3万ドル(約330万円)以上の海外送金は、まず国家税務局で合法性の審査を受け、源泉徴収後、税務局で納税証明書を発行。それを送金する銀行の窓口に提示することになっています。日本では考えられないことですが、中国にはこのような厳しい外貨規制があります。それゆえ、富裕層を中心にビットコインへの関心を次第に高めてきました。
やがてビットコインに事業としても関わる事になった中国は、マイニングに関しても、世界トップのシェアを持つまでに成長していきます。しかし中国当局は、早くからビットコインを中国にとって危険なものと考えるようになり、幾つかの規制を早くから打ち出してきました。そして昨年9月には、中国人民銀行(PBoC)が出した声明で、BTCCを含む幾つかの大手取引所が操業を一時停止します。
中国が出した声明はどちらとも受け取れる内容で、結局どのような思惑で中国が規制を打ち出したのかもよく分かりません。ただこの声明によってデジタル通貨に関するICOを取り止め、主だった業者は取引所を閉鎖します。
中国にも自国の仮想通貨を誕生させる計画がある?
中国の事業者は当局の政策に表向きは比較的従順に従いましたが、事業者自体もビットコインなどの仮想通貨が、これからも重要なビジネスになることは分かっています。しかし、それがもはやこの地では行えないと悟ると、早々に他の国に拠点を移そうと考えます。それがロシアやスイスになりそうなことは、以前から業者らも理解していたかもしれません。
ここで気になるのは、中国は本当に仮想通貨から完全に手を引いてしまうのか?ということです。たとえば、ロシアはブロックチェーンの技術を用いた独自のデジタル通貨「CryptoRuble(クリプトルーブル)」を計画しています。単なる噂に過ぎないとも言えますが、中国にも自国のデジタル通貨を誕生させる計画が持ち上がっています。ただロシアのデジタル通貨の話題は信憑性がありますが、中国については何とも言えません。
ひとつ言えるのは、中国独自の通貨が計画として確かなら、これまで築いてきたマイニング技術やデジタル通貨に関するノウハウを無駄にせず、国内に留めておけます。ただの噂話なら、中国は大事な資産(ノウハウ等)を国外に流出させてしまいます。
なお二つの国で発行される独自通貨は、中国もロシアも主にマネーロンダリングを阻止する目的で計画らしいということ。また自国の独自通貨は双方とも国営となり、中央集権的に発行されるということです。ただ中国に関しては、技術を失う損失のほうが遥かに大きいはず。従って独自通貨の開発を前向きに検討してみても、面白いのではないでしょうか。
問題は中国に変わってロシアが事業をコントロールすること
また中国が従来のマイニング事業を維持できなくなった場合でも、ビットコインにとってはプラスに作用することも考えられます。
これまで、ビットコインのほぼ全てのマイニングを中国は一国で賄ってきました。中国のマイニング業者の上位3、4社を足せば、マイニング総量の51%に達するとも言われ、一時は中国による51%Attackを懸念する声に揺れた時期もありました。
しかし中国当局の意向で、これまでのマイニングパワーが他国に分散されることになれば、中国による51%Attackの心配はもちろんなくなります。中央集権的なトランザクションの承認も減るでしょう。ひとつの国にマイニングが集中してしまうことは、ビットコインにとっても得策ではないはず。
ただ心配なのは、中国に替わってロシアがマイニング事業をコントロールすることです。ロシアは北朝鮮とも繋がりがありますから、下手すればロシアは米国を意識してデジタル・エコノミーに取り組むかもしれません。
プ
ーチンがデジタル・エコノミーを強化するのは確実
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年6月、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで、イーサリアムの考案者であり、ロシア出身であるヴィタリック・ブテリン氏と会談したことが報じられています。
プーチンがいま最も力を入れているのが、西側諸国が実施しているロシアへの経済制裁の中、長期的な経済成長を促す手段の構築です。そしてヴィタリック・ ブテリン氏と会ったということは、彼のブロックチェーン技術に関する関心の高さを同時に示していると言えます。プーチンの関心の度合いは、中国や日米の政権トップよりも上であることは確かでしょう。
かつてプーチンは幾つかの理由で仮想通貨に対して消極的でしたが、いまではデジタル・エコノミーについて「病的なほど執心している」とロシアのイーゴリ・シュワロフ第一副首相が述べるほどです。
ロシアのデジタル通貨「CryptoRuble(クリプトルーブル)」やマイニング施設は、具体的に何を目指しているのか。ロシアの動きに暫くは目が離せません。