コインチェック流出事件から1か月経過

コインチェック株式会社が運営する仮想通貨取引所「Coincheck」から仮想通貨「ネム(NEM)」が5億2300万XEM(※ネムの通貨単位)、当時のレートにして約580億円流出した事故から一か月が経過しました。コインチェック社はこの流出したNEMを日本円で補償するとの方針を発表しましたが、騒動から1か月たった今も、具体的な返金時期すら告知されていない状況です。

さらには、流出を検知した後、NEMだけでなく、日本円の出金や他のアルトコイン(ビットコイン以外の通貨)の取引、出金も制限。日本円の出金はその後再開されましたが、仮想通貨の取引はいまだに行うことが出来ず、多くの顧客の資産が「凍結」されています。2017年、多くの仮想通貨がとてつもない値上がりをし、また、明確に課税対象となったことで、多くの人が仮想通貨の利益を申告し、支払わなければならない中、通貨を売ることすらできない状況が続き(なお、国税側からはコインチェックの事故に伴う徴税の救済措置は行わないとの見解)、被害者団体による訴訟の数も少しずつ増えてきました。今、何が起き、何が問題となっているのか、今何をすべきか、改めて考察していきたいと思います。

時系列で振り返る今回の騒動

まずは、簡単に時系列で振り返ります。

2018年1月26日
仮想通貨ネム(NEM)の不正送金を検知。ネムの取引を停止させる。その後、順次、日本円や仮想通貨の入出金、売買の機能が停止。
同日深夜、記者会見を行うも、内容は調査中、検討中と具体的なことは明言されず

1月28日
不正流出したNEMについて1XEMを約88円のレートで日本円での補償を行うと発表。ただし具体的な時期や方法については言及されず

1月29日
金融庁からコインチェック社に対して業務改善命令。2月13日までの報告を指示。

2月2日
金融庁がコインテック社の報告を待たず、立ち入り検査を実施。

2月13日
一時停止されていた日本円の出金を再開。
同日記者会見を行い、金融庁に報告を行ったことを説明。事業継続の意向や、NEMの補償の用意があることなどを説明するも具体的な目途については明言せず。

2月19日
改めてプレスリリースにて事業継続の意向を表明。
(破産や計画倒産などの推測を受けてのことと想定されます。)

2月26日
被害者団体による仮想通貨の返還などの提訴が行われる。

纏めてみると、コインチェック社、金融庁ともに解決に向けて動いてはいるものの、その進捗が顧客視点から見るとあまりに遅く、しびれを切らせている、といった状況でしょうか。
具体的なアクションについては目途すら告知がない点も大きく印象に響いているかと思います。

そもそもの原因と、騒動をさらに大きくしている要因

騒動のそもそもの発端は、NEMの不正流出。外部から悪意あるハッキングにより、盗まれました。それが、高度なハッキングによってなされた、ということではなくコインチェック側がインターネットから切り離された「コールドウォレット」ではなく、常時接続されており、アクセスも容易な「ホットウォレット」にNEMを保管しており、さらにセキュリティ対策としてのマルチシグもかけていなかったという杜撰な管理体制のもとに、盗難が起きてしまったものになります。

この点について、コインチェック社が猛省すべきであることについては言うまでもない話ですが、NEMについてのみ言えば、補償方針も打ち出されており、あとは時期さえ明確になり、実行されれば、その後は補償内容に納得のいかない被害者が個別に争えばいい問題です。一番ネックとなっているのはNEM以外のアルトコインや日本円の取引が停止されていることです。日本円の出金は現在可能となっていますが、コインチェックが預かっている顧客資産の中で日本円などごく一部でしょうから、多くの顧客資産が依然として凍結されていることが想像できます。NEMについては盗まれて手元にないわけですから、極論ですが「仕方がない」にしても、他の資産が動かせなくなっている合理的な理由がなく、顧客の温度感が上がっている構図です。

金融業の大原則「分別管理」とみなし業者であることの意味

①仮想通貨出金が行えない本当の理由の推測
※本項目では一部、筆者の考察であり、事実であると言い切れない部分が含まれています。

端的に言いますと、コインチェック社は顧客の資産と自己資産を分別管理しておらず、預かり資産を会社の運転資金として利用していることが想像に難くないです。「安全の確認が取れていないため」と説明していますが、コインチェック社自身は何度かの仮想通貨の送金を行っているため、少なくともそれが唯一の理由ではないはずです。

手数料などの売り上げ、利益だけでなく、預かり資産として集まってきたお金を、事業資金として他方面「投資」して事業を拡大。顧客からは申請があったものについてのみ都度支払い。という構図です。それでも多くの仮想通貨投資家の多くはトレードよりも、長期保有、いわゆる「ガチホ」組であるため、長期目線で事業が拡大し、仮想通貨の価値も上がっていけば、事業資金として「勝手に借りていた」顧客資産をしっかりと払い戻すことが出来る、というシナリオであったことが想定されます。

しかし、こんな騒動が起き、しかも原因が管理体制の甘さにあった、となっては、多くの投資家は仮想通貨を売却してしまうか、別の取引所や、自身のウォレットに資産を移すことを考えます。「これだけの騒ぎを起こしたのだから体制を強化するから安全だろう」という判断でコインチェック利用を継続する考え方もあるにはあるでしょうが、一度外しておくとい
そうなると、コインチェック社の手元に本当にある資産というのは、本来あるべき資産を下回っており、出金の要望に応えることが出来なくなるばかりでなく、運転資金も立ち行かなくなり、倒産してしまう、ということが現実に起こりえます。過去起きた、銀行の取り付け騒動などと似たような構造ですが、根本的に異なるのは、顧客の預金をビジネスモデルとして当然に運用している銀行に対し、仮想通貨取引所は顧客の預かり資産と自社の資産、会社の運転資金は分別しておく「べき」とされています。

②コインチェックの行ったことは違法行為か

前項で「べき」というあいまいな書き方をした理由を本項で解説します。現在、仮想通貨取引業は、金融庁による認可制となっていますが、仕組みが整備される前から仮想通貨取引業を行っていた事業者については認可のないまま、一定期間は運営が認められる「みなし業者」という扱いを受けています。コインチェック社は金融庁に登録の申請を出しつつ、その許可を得ていないみなし業者の立場です。そして、金融庁が認可を出すガイドラインの中に、「顧客資産と自己資産の分別管理」が定められています。

逆から言うと、認可を受けてない業者については分別管理をしていない可能性がある、と同時に分別管理をしていなかったとしてそれ自体が何かの法に抵触するわけではない、ということも意味します。この点、(筆者も含め)証券などの従来の金融資産の取引に慣れている人ほど、分別管理など当然のように思ってしまっているかもしれませんが、実際は法律が整備途中にある仮想通貨ではこのようなことが起こりえます。

コインチェックが、仮に筆者の推測通り分別管理していなかったとしても、それは「倫理上するべきでないこと」をしているだけで違法性はない、と言えます。

投資家の資金は返ってこないのか

コインチェック騒動をあらためて振り返り、今被害者が出来ること本項も、手元にNEM以外の預かり資産が100%あるわけではない、という推測に基づいて展開しますが、結論から言うと大部分が最終的には戻ってくるのではないか、と言えます。
理由としては、コインチェック社が多少顧客資産を運転資金に使い込んでいたとしても、大部分は残っているのではないか、と考えられるからです。

今回、流出したNEMが580億。これに対し、コインチェックが日本円で、自己資金で補償すると言っている金額が430億です。また、出金を再開した当日、出金要請のあった日本円が400億。これはコインチェックの信用の下落を表すものであると同時に、コインチェック内にある顧客の預かり資産が、想像を絶するものであることの推測材料にもなります。数千億、もしくは、兆の単位に差し掛かっているかもしれません。それを、社員数数十名、固定費のかからないIT企業が有名タレントのCMなどに使い込んでいたところで、全額に近い金額を使っていることは中々想定されません。最悪のケース、倒産したとしてもある程度の資産は投資家のもとに戻されるのではないかというのが数字から考察する結論です。

今、何が出来るか

結論としては、現状できることはなにもなく、待っているのが一番であると考えます。集団訴訟などの動きに乗っかるのが悪手とは言えませんが、コインチェックが未だに時期を示さないなど不透明な部分はありつつも、返金や、資産凍結の解除、事業再開の意向を示している間は、法的手段で取り返すよりも経過を見守る方が余計や時間も費用も掛からずに解決できる可能性が高いと言えます。裁判を起こそうが、判決で支払い命令が出ようが「ないものは払うことが出来ない」のです。全く持ち合わせていない、ということも考えにくいので、コインチェック社の態度が変わらない限りは静観が良手といえるでしょう

ましてや、会社の前での野次馬行為など、面白半分でやっているならば自由ですが、返金を求める意味では何の効果があるものでもありません。トラブルが起きた時こそ、感情的にならず、合理的にコストパフォーマンスの高い判断を行いたいものです。