3月2日、仮想通貨交換業者16社が新しい認定自主規制業界団体の設立に動き出しました。記憶に新しい、コインチェックのネム(NEM)流出事件に端を発するものです。ユーザーの信頼を取り戻すために、JBA(日本ブロックチェーン協会)とJCBA(日本仮想通貨事業者協会)がようやく手を組んだ形になります。これによりユーザーにどのような影響がでるのか、まとめました。
仮想通貨業界団体にコインチェックなどの「みなし業者」は含まれない
今回の業界団体の設立に関わるのは、金融庁の登録を受けた、マネーパートナーズ、QUOINE、bitFlyer、ビットバンク、SBIバーチャル・カレンシーズ、GMOコイン、ビットトレード、BTCボックス、ビットポイントジャパン、DMM Bitcoin、ビットアルゴ取引所、エフ・ティ・ティ、BITOCEAN、フィスコ仮想通貨取引所、テックビューロ、Xthetaの16社。
JBAにはKRAKENという取引所を運営するPayward Japanやコインチェックも参加しておりますが、こういった「みなし業者」は含まれていません。
ただ、みなし業者に関しても随時受け入れ体制を整えていく、とのこと。これにより業界団体に加入していない取引所で取引をするメリットというのは少なくなり、ユーザーは自分が利用している取引所の安全性をはかる目安を手に入れることが出来ます。
業界団体を結成することのユーザーにとってのメリット・デメリット
業界団体を結成することのメリットは、自主規制に対してお互いに強制力を持たせることができるという点です。規制違反があった際はこの業界団体でペナルティを課すことができ、監視力が生まれます。
例えば、今後取引所各社の広告規制を行っていく可能性が高いです。業界団体の母体となるJCBAはすでに加盟取引所に対して、自主規制の強化を求めています。リスクの表示などはもちろん、個別通貨の推奨を禁止するなど、ユーザーが過度なリスクを取らないよう保護に努めています。この流れは業界団体にも適用されると言及されています。
今回のコインチェックのネム(NEM)流出事件の原因の一つとして、杜撰なセキュリティ管理が取り沙汰されています。コインチェックは昨年末からテレビCMを始めとしたマーケティングを積極的に行い、新規ユーザーの獲得に注力してきました。その結果、本来もっとも力を入れるべきユーザー保護、つまりセキュリティ面への対応が疎かになり、今回の事件を引き起こしています。
業界団体の副会長であるbitFlyer代表の加納氏は、セキュリティ基準として、コールドウォレットやマルチシグの活用などを定めていく予定だと言及しています。こういった本来やらねばならないセキュリティ対策を義務付けていくのは、ユーザー保護の観点からはメリットになります。
すでに株式などに投資をしている方なら、金融商品のリスクというのは充分心得ていると思いますが、仮想通貨へ投資している方の多くは、投資そのものが初めて、という方も多いのが現状です。上記のような広告の規制、表現の最適化はユーザーの金融リテラシーの向上、ひいては保護にもつながります。
一方でデメリットは、必要以上に強制力を発揮する団体になってしまうと、仮想通貨市場全体の停滞を招き得るという点です。これに関しては、業界団体の会長であるマネーパートナーズ代表の奥山氏も危惧しています。仮想通貨の根底にあるブロックチェーンの概念は、中央集権へのアンチテーゼです。業界団体の強制力が強くなるあまり、ユーザーの自由な取引が出来なくなってしまうと、ブロックチェーンの理念に反する結果となる可能性もあります。
業界団体がまず対策していく問題はなにか
まずは内部管理から取り組むという事を言及しています。具体的には取り扱う仮想通貨の種類、ICOのガイドライン、詐欺行為への対応などを説明するホワイトペーパーの整理などです。現在世界中にある仮想通貨は約1,500以上と言われています。中には詐欺やマネーロンダリングに使われているものあり、通貨ごとの安全性をしっかりと見極め、信頼できる通貨のみを取り扱っていく必要があります。現状の仮想通貨取引所でも問題となっている、システム障害や入出金のトラブルなどへの対応も強化していくとのことです。
設立などの体制づくりに関しては、おおむね1ヶ月程度要すると言及しています。また自主規制の策定や運用は数ヶ月先になる見通しです。組織が大きくなるとそれだけ小回りの効いた動きが出来なくなりますが、いち投資家として可能な限り早い対応を求めたいところです。
業界団体の母体、JBAとJCBAの概要
JBAは日本ブロックチェーン協会の略で、bitFlyer代表の加納氏が代表を務める団体です。仮想通貨部門とブロックチェーン部門、そして賛助会員の3部門により構成されており、かねてより自主規制についての議論は重ねてきました。JBAはJADA(日本価値記録事業者協会)という団体が前身となっており、法制度やブロックチェーン技術への取り組みでは実績のある団体です。
一方でJCBAは日本仮想通貨事業者協会の略です。マネーパートナーズ代表の奥山氏が代表を努めており、銀行や証券会社などが仮想通貨ビジネスを始める際、情報の調査・研究、意見交換などを行っています。
JBAはブロックチェーンに関する知見、JCBAは会計や税務、法律などの知見を集約する場としてこれまで機能してきました。両団体は2年ほど前から統合についての協議を重ねて来ましたが、ステークホルダーや自主規制への考え方の違いから、統合や提携は見送られてきました。
手を組むことのなかった両団体がようやく手を取り合った形になります。なお、業界団体は両団体が存続する上で成り立ちます。今後、既存の二団体が統合されるかは言及されていませんが、自主規制についてはすり合わせができ次第、業界団体側に寄ってくるというのが業界団体の意向です。
なお、仮想通貨に関連する業界団体に、BCCC(ブロックチェーン推進協会)がありますが、今回の業界団体立ち上げには関与しておりません。
業界団体の設立でユーザーの信頼回復に繋げることはできるのか
この度の業界団体の設立は、コインチェック流出事件によって失われた、ユーザーの信頼回復が目的の一つとなっています。今回の事件により、業界は新しいルールづくりやユーザー保護の基盤を作ることが求められています。昨年から多くの人が仮想通貨投資を始め、実際に投資していない人にも認知されています。だからこそ、多くの人の信頼を取り戻す事が急務になっています。
仮想通貨は投機性が注目されがちですが、その技術、ブロックチェーンやフィンテックはまだまだ一般の人々に理解されていないのが現状です。しかし、仮想通貨投資の本質はブロックチェーンという技術への投資です。「一過性のマネーゲームに終わってしまっては、次世代のイノベーションにつながらない」というのは奥山氏の言葉です。業界団体や取引所は規制づくりに動く一方で、そういった技術に対するユーザーへの啓蒙が今後必要になってきます。
加納氏は、この業界団体の設立を「大きな一歩」と表していますが、まさにその通りです。今まで遅れていた自主規制へのメス入れになります。ただし、健全な仮想通貨ビジネスが成り立つには、ユーザーの知識もあってこそです。仮想通貨の銘柄選定の前に、取引所もしっかり選んでいくのは投資家としての義務です。事業者とユーザー、双方にとって最適な環境づくりを共に進めていくことが、本当の意味での信頼回復にも繋がってきます。