今年1月に発生したコインチェックでの仮想通貨の大量流失で、取引所に関する信頼が揺らぎつつあります。これに関連して国内の取引所(みなし業者を含む)に対して、金融庁が調査を実施していましたが、3月8日になって7社に対して行政処分が下されました。今回はその内容についてまとめてみます。
7社に行政処分、うち2社には業務停止命令
3月8日に金融庁から7社への行政処分が実施されましたが、そのうち2業者については業務停止命令が出されるなど、厳しい処分となりました。各社に対する指摘事項は次の通りです。
・コインチェック 経営管理体制・内部管理体制などに重大な問題、リスク管理の甘さ
・Zaif システム障害・不正出金などの原因分析、再発防止策が不十分
・GMOビットコイン システム障害の原因分析、再発防止策が不十分
・FSHO株式会社 取引時確認の検証が未整備・利用者保護措置の違反など→業務停止
・ビットステーション株式会社 顧客資産の私的流用→業務停止
・バイクリメンツ株式会社 内部監査未実施・経営管理体制が不十分・利用者財産の不適切な分別管理・一部帳簿書類未作成など
・株式会社ミスターエクスチェンジ 内部監査未実施・経営管理体制が不十分・利用者財産の不適切な管理など
(※わかりやすさを優先し、コインチェック、Zaif、GMOビットコインについては取引所名で、その他は会社名で記載。)
コインチェックについては1月の事件の直後に行政処分が一度下されていますので、今回で2回目ということになります。前回の調査では顧客財産が分別管理されていたことは確認されているようですから、発表されている既存顧客への保証についても、遅れてはいるものの実現可能と思われます。
しかし、前回の事件からすでに一定の時間が経過しているにも関わらず、再度内部管理体制についての指摘がなされたことを考慮すると、業務の正常再開・取引所としての登録については未だ不透明という状況です。他の業者と同様に、3月22日までに報告書を提出するように求められていますので、その内容次第ということになりそうです。
2017年4月から金融庁への登録が義務化
仮想通貨取引については、昨年から金融庁の管轄になり、一定の猶予期間中に要件を満たした上で登録することが義務付けられました。法律制定以前から取引所を運営していた事業者などについては「みなし業者」として、未登録であっても事業の継続が認められています。
コインチェックについては、お笑いタレントのCMなどで有名になりましたが、実は事件発生時点ではまだ登録されていませんでした。2014年に事業を開始したので、仮想通貨取引所としては早い時期にスタートした事業者と言えますが、金融庁の審査に通らず、今年の1月時点でも「みなし業者」のままだったのです。同じくらいの規模と歴史を持つ他の事業者がすでに登録されていたのに比べて、やはり内部の管理体制などに問題があったということが推定されます。
通貨の種類や取引所の本人確認の甘さなどによっては、匿名性の高い取引が可能となるのが仮想通貨の特徴でもあります。そのため、マネーロンダリングなどに利用されることが懸念されています。また、仮想通貨の急激な価格上昇を受けて、金融資産としての価値も増加し、多くの一般の人が取引に参加するようにもなりました。このような状況を受けて、犯罪防止や利用者保護の観点から金融庁が管理をするようになりました。
国内の取引業者一覧
2018年3月現在で国内の登録業者・みなし業者は次の通りです。
○取引業者一覧(16業者)
・株式会社マネーパートナーズ
・QUOINE株式会社
・株式会社 bitFlyer
・ビットバンク株式会社
・SBIバーチャル・カレンシーズ株式会社
・GMOコイン株式会社 ※行政処分(改善命令)
・ビットトレード株式会社
・BTCボックス株式会社
・株式会社ビットポイントジャパン
・株式会社DMM Bitcoin
・株式会社ビットアルゴ取引所東京
・エフ・ティ・ティ株式会社
・株式会社フィスコ仮想通貨取引所
・テックビューロー株式会社(Zaif) ※行政処分(改善命令)
・株式会社Xtheta
○みなし業者(15業者)
・みんなのビットコイン株式会社
・Payward Japan株式会社
・バイクリメンツ株式会社 ※行政処分(改善命令)
・株式会社CAMPFIRE
・東京ゲートウエイ株式会社
・株式会社LastRoods
・株式会社deBit
・株式会社エターナルリンク
・FSHO株式会社 ※行政処分、業務停止命令
・株式会社来夢 ※登録申請取り下げ
・ビットステーション株式会社 ※行政処分、業務停止命令、登録申請取り下げ
・ブルードリームジャパン株式会社
・株式会社ミスターエクスチェンジ ※行政処分(改善命令)
・株式会社BMEX
・株式会社bitExprss ※登録申請取り下げ
・コインチェック株式会社 ※行政処分、業務停止中
業務停止命令を受けたビットステーション株式会社は登録申請を取り下げています。100%株主である人物が顧客の資産を私的に流用したということですから、今後は刑事事件になる可能性もあるので当然でしょう。今回行政処分を受けていない、株式会社来夢・株式会社bitExpressの2社も登録要件を満たす見込みが立たないと判断し、登録申請を取り下げています。
仮想通貨取引は安全か?
仮想通貨そのものが値動きの激しい金融商品であり、通貨の種類も多く、中には素性の怪しいものも含まれています。その意味で仮想通貨という新しい投資対象自体が、ある程度のリスクを内在しているということは否定できない事実です。
しかし、仮想通貨の技術であるブロックチェーンとその応用であるスマートコントラクトという仕組みは、今後のフィンテックに活用されることで資金決済に革命をもたらす可能性が非常に高いと思われます。おそらくいくつかの有力な仮想通貨については、今後も価値が増加し、さまざまな場面で利用されることが増えてくるでしょう。その意味では、きちんと通貨の特性を理解し、リスクを把握した上で投資対象とするのであればリターンも期待できます。
ただ、いくら取引対象である仮想通貨を正しく選択しても、肝心の取引所のセキュリティや運営体制が杜撰では安心して資産を預けることはできません。今回のように金融庁の行政処分が入ることで、それぞれの取引所の管理体制が厳格になり、利用者が安心して取引ができるようになるとしたら、あながち悪いことでもありません。ニュースを聞いて、仮想通貨や取引所に対して悪いイメージを持った方もいるかもしれませんが、より信頼できるシステムに進化する一つの課程であるともいえます。
TVCMでも名前をよく聞くようになったZaif(テックビューロー株式会社)やDMMビットコインは、実際に取引量も多くたくさんの利用者をかかえています。そうした取引所にも今回、行政指導が入ったので、実際に利用している方は不安に思われたかもしれませんが、指導の内容と各社の対応を見定めてから大事な資産を預けるところを選ぶと良いでしょう。
正しいスタンスで仮想通貨投資に取り組む
1月のコインチェックの事件に続く行政処分の実施、うち2社に対しては業務停止命令という、今年に入ってから仮想通貨を巡る良くないニュースが続いています。先に記載した通り、今後取引に取り組む方は、たくさんある仮想通貨の中から何に投資するか、だけでなく安心して取引ができる業者の選定も重要です。また、ハッカーからの攻撃に備えるために個人としてもセキュリティに留意する必要があります。
一方、仮想通貨とその背景技術は新しい時代の資金決済手段としても、さまざまな取引やビジネスの効率化などにも活用される可能性が高く、非常に魅力的なものであるという事実は変わりません。必要な知識を学び、情報を分析するなど正しいスタンスで投資に取り組むことで、大きなリターンを得る可能性も高いと思われます。今後の仮想通貨を巡る情報に注目しながらそれぞれの目的に応じた投資をすると良いでしょう。