仮想通貨を危険に晒す成りすまし

仮想通貨が名を上げるにつれて増えていく盗難の被害。以前までは、取引所がハッカーの被害を受けるパターン、取引所の人間が持ち逃げするなど詐欺をはたらいたパターン、個人の管理が甘く不正送金などを行われてしまったパターンといったものが大半を占めていました。そして最近では、ウェブサイトを利用したウィルス感染などによる不正送金も広まってきています。しかし、こうして仮想通貨の盗難が巧妙化していく今、なんと古典的な方法を用いた詐欺も広まってきているのです。

SNS上で著名な人物に成りすまして仮想通貨を盗む

その方法というのがなんと、SNS上で仮想通貨界の著名な人物に成りすまし、嘘の情報を流して仮想通貨を騙し取る古典的なものなのです。まず、詐欺師は仮想通貨に関連する著名人に成りすますため、彼らのTwitterアカウントと似たユーザー名のアカウントを取得します。例えばイーサリアムなど、仮想通貨の中でも有名どころの創設者などをターゲットにするわけです。この時点では、成りすましアカウントのフォロワーも0人で全く注目されませんが、かといってフォロワーを増やすなどといった手間はかけません。

詐欺師はここでいきなり、成りすました相手の公式アカウントが放ったツイートに対してリプライ、つまり返信を送るのです。こうすれば、一部の人は公式のアカウントが補足などをしたリプライだと勘違いするなどし、成りすましアカウントは注目されていきます。そのうえで、「数万円程度の仮想通貨を送ってくれたら、お返しに数百万規模の同じ仮想通貨でお返ししますよ。」などと呟き、これを固定ツイートにでもすれば準備は完了です。あとは、これに騙されて数万円の仮想通貨が送られてくるのを待つだけ。

成りすましとATMでの還付金詐欺を合わせたかのようなこの手口。ネットを使い、主にウイルスで仮想通貨を騙し取る詐欺師が非常に多い中にあって、とても原始的な方法だと言えるでしょう。また、ちょっとのお金を払えば大儲けできるという触れ込みも、オンラインゲームでよく見られるものであり、常々セキュリティに気を配ってきた人々からすれば、見飽きた内容だとも言えます。

ちなみに、他にも成りすましアカウントで特定仮想通貨の買い煽りを行うケースも見受けられます。詐欺師が持っている仮想通貨の値段を上げたいから、という単純な理由もあれば、実はハッカー集団が値を釣り上げていて、自分たちが取引所をハッキングして仮想通貨を根こそぎ奪った時の収益を増やしたいから、という恐ろしい理由もあるようです。

こうした詐欺はそうそう引っかかるものではない

あなたの仮想通貨を盗むのは取引所やハッカーだけじゃない古くて見飽きた手法であるうえ、仮想通貨がただでさえセキュリティに気を配るべきコンテンツであることから、このような詐欺に引っかかる人は殆どいません。成りすましアカウントによるツイートは1日に何百と流れる時があるのに、被害総額は1日あたり10万円あるかないか程度であることからも明らかでしょう。

日本でよく取り沙汰される特殊詐欺などが老人を主なターゲットとするように、セキュリティに対する警戒心が弱い層を相手にしないと大きな成果は挙げられません。しかし、仮想通貨を購入するのは主に若年層で、かつセキュリティ意識も高い人が殆どです。とても引っかかる人が大勢いるようには思えませんね。

実際に引っかかっているのはどういった人なのでしょうか。旨い話に疑うことなく食いついてしまう人はもちろんなのですが、持っている仮想通貨が暴落して損をしたために慌てている人など、精神的に不安定な人も騙される傾向にあります。困っているところピンポイントに助けてくれる話は、やはり乗ってしまいやすいものです。

殆ど引っかかってくれないのに人気なのは何故か

このような詐欺に引っかかってしまう人は確かにいますが、数はごく少数。では何故、なかなか引っかからず儲かりにくい詐欺をわざわざ選ぶのでしょう。その理由はやはり、誰でも手軽に決行できるという点が大きいと考えられます。新しいTwitterアカウントを作って著名人にリプライし、仮想通貨を送金させる文言を呟くくらい、ものの10分もあれば可能ですからね。

逆に今ネットで流行っている仮想通貨の盗難手法、例えば採掘スクリプトやハッキングに代表されるものは、少なからず知識が必要かつ準備に莫大な時間を要します。それらを用意できないけれど、仮想通貨を騙し取って儲けたいなどと考えた人々が、こぞって古典的な手法を用いるのです。誰でも簡単にできて、引っかかる人が0というわけでもないのですから、やろうと思うのも理解はできます。

実際、アンチウイルスソフトを作るマカフィーの創業者である、ジョン・マカフィーの成りすましアカウントを作った詐欺師は、たったの数時間で10万円以上を稼げたそうです。

よくある詐欺でも払うものが現金から仮想通貨になると気付かない?

昔からよくある手法で仮想通貨を盗むという括りで言えば、他にも種類はいくつかあります。ここでは例としてICO、新規発行のオリジナル仮想通貨を使った資金調達に関する古典的な詐欺を、2つピックアップして紹介しましょう。

1種類目は、突然知人にこう言われるところから始まる詐欺です。「めっちゃ儲かる仮想通貨があるんだけどやってみない?」。話を聞いていくと、価値の上がり続けている仮想通貨があって、でも知名度はそこまで良くない穴場があるから、買ってみないかと言うのです。しかも今なら、「私みたいに知人へ紹介してその人が買ってくれたら紹介料も手に入るから」と誘われます。旨い話だと思いその仮想通貨を買ってみたら、確かに価値は爆上げ!でも数ヶ月経ったある日、その仮想通貨を売ろうとしたら持ち逃げされていた・・・。

2種類目の詐欺は、ある企業が新しい事業に手を出そうとしていて、そのために投資してほしいと募集しているのを知るところから。投資してくれれば毎月のように配当が受け取れるとされており、さらに投資を始めたのが早い人ほど配当額は大きくなると言います。挙句の果てには、なんと事業を始める前から配当を配り始めるのです。当然ながら配当は数ヶ月ほどで止まり、最初に投資したお金は戻ってこなくなります。

これらの詐欺、お気づきの方も多いとは思いますが、それぞれマルチ商法や自転車操業などと呼ばれる大変に有名な手口です。にもかかわらず、投資するものが現金から仮想通貨に変わった途端に、全く同じ手口でも騙される人が多くいます。その理由は、あまりにも仮想通貨の業界で有り得ないようなことが起こり続けているせいで、詐欺師が持ちかけてきた旨すぎる話もあっさり信じ込んでしまい、詐欺だと気付くことができないからなのです。

古典的な仮想通貨の盗難から身を守れるのはあなただけ

こういった古典的な手法で行われる詐欺は、大半がブラウザのプラグインやアンチウイルスソフトだけで防げるものではないため、あなた自身の警戒心こそが求められます。例えば、今まで見てきた事例から1つオススメなのは、もし仮想通貨ではなく現金で支払えと言われたら、同じものに投資しようと思えるかどうかを考えることです。成りすましの例だと、「1万円くれたら100万円あげるよ」なんて話になるわけで、これに騙される人はいませんよね。

いくら夢のある話が溢れる仮想通貨業界とはいえ、何でもかんでも無条件に受け入れることは止めておくべきです。現金で投資する際と同様に、相手は信頼できる人物・企業なのかどうかを常に注意しましょう。また、効果は限定的ですが、一部の詐欺ならフィッシング対策ソフトなどで防げるものはあります。例えばEtherAddressLookupというソフトは、任意のTwitterアカウントを仮想通貨界のホワイトリストへ照らし合わせ、正式なものなのかを判断してくれます。