仮想通貨ペトロが約50億ドルの資金調達に成功?

2月20日、南米の国ベネズエラのマドゥロ大統領がその販売を発表した仮想通貨ペトロは、当初その信頼性を疑問視する声が海外はもちろん、自国内からも上がっていました。ベネズエラが現在陥っている経済の大停滞と、それを起因としたハイパーインフレの解決につながると同大統領は胸を張っていますが、果たして本当に狙い通りの結果となるのか、今回は時系列に沿って徹底検証をしていきます。

世界初となる政府主導の仮想通貨として大注目

ベネズエラは現在、マドゥロ大統領を含む政権中枢や、軍幹部ら計30人の個人を対象に、海外資産の凍結や経済取引を禁じる制裁に加えて、同国国債と主要産業である国営石油会社社債の新規取引を禁止という、米国からの苛烈な経済制裁を受けています。

結果として同国は、800~1000%超ともいわれる超インフレ状態で、自国の法定通貨である「ボリバル」はもはや紙くず同然となっており、食事にも困窮する国民の中には、ビットコインなどの仮想通貨マイニングで生計を立てていることも多い、と各国メディアでは伝えられています。

そんなベネズエラの深刻な経済改善策として、マドゥラ大統領が主導して発行・管理されているペトロは、国家政府が発行・管理する世界初の仮想通貨として世界中を騒がせました。また一方で、経済制裁を科している当事者のアメリカ政府は反発をしているほか、同国議会の野党勢力も「法律違反に当たる」と強い難色を示しています。

従来の仮想通貨と異なるペトロの「信用担保」

通常仮想通貨は、紙幣や通貨のように実態を持たないものであり、例えば日本円であれば「1万円札」が文字通り1万円として使用できるのは日本政府発行という「信用」が伴うからであり、ビットコインなどのメジャー仮想通貨についても、偽造や改ざんができないというシステム上のセキュリティー信用度が、その価値を決定付けます。

一方、ペトロの場合は少々事情が違い、その名が石油を意味するPetroleum(ペトロリアム)に由来するように、豊富な埋蔵量を誇るベネズエラの「石油」がその信用担保となっており、通貨単位である「1PTR」の価格は石油1バレル(約160L)に相当するという考えで発行・管理されます。つまり、現在の石油相場(3月14日NY原油チャート)で言えば約61USドル、日本円換算で6,400円程度が1PTRが持つ「価値」ということになります。

プレセールにおいて50億ドルの資金調達に成功したとの発表が

ペトロの信頼性と将来性を徹底検証今年に入ったばかりの1月5日、ベネズエラのマドゥラ大統領は、昨年発行の意向を示した仮想通貨ペトロ(通貨単位PTR)について、その最大発行枚数を1億枚とする発表をしました。1億枚といえば、前項で触れた資産をもとにすると61億USドルにも相当します。これを重く見た米国財務省は1月16日、「(ペトロを)取引すれば、米国がベネズエラに課している経済制裁に違反する可能性がある。」と投資家に警告を発しました。

「ペトロ認めず」の流れを受けつつも、2月20日ベネズエラ政府は、早期購入者に最大で60%のディスカウントが受けられるインセンティブを付けた、3,890万ペトロのプリセール(先行販売)を敢行しました。結果、初日だけで7億3,500万USドルを獲得し、後日トータルで50億USドル(約5,300億円)の資金調達に成功した、と発表しました。

また、認証された購入取引は18万6千件を超えたとされ、その成功を受けた中国の信用格付け大手Dagongは、「(ペトロが)世界通貨制度を助ける」と、好意的な考えを主張しました。加えてマドゥラ大統領は、ペトロが様々なところで利用されるように国営航空会社に対して、ペトロや他の仮想通貨によるチケット決済を許可するよう命じました。

立て続けのリリースが報じられた「ペトロゴールド」がペトロに与える影響

ペトロのプレセール成功に気を良くしたのか、マドゥラ大統領は翌2月21日、今度は「金」を担保とした「ペトロゴールド」の発行に着手しており、早ければ1週間後にはリリースするという驚愕の発表をしました。発表演説の中で同氏は、「ペトロゴールドはペトロよりも強く、さらにペトロにも力を与える。」と語るなど、その成功に強い自信をのぞかせました。

しかし、ベネズエラの属するOPEC(石油輸出機構)が、その調査によって豊富な埋蔵量を確認している石油と異なり、ペトロゴールドの担保原資とされている金については、その根拠がベネズエラ国庫に存在している「現物」なのか、まだ未発掘状態にある「埋蔵鉱物資源」なのか、現時点では明らかになっていません。結果として国内からは、「経済政策を棚上げした、仮想通貨の乱発であり、信頼性に乏しく詐欺行為に近い。」との指摘が出ているほか、ペトロの違法性を訴える声が、なお一層高まってきています。

また、経済制裁を実施しているアメリカがより強い懸念を見せることは明らかで、先行したペトロのプレセールに参加した機関投資家の中には、強大なアメリカが反発していることを受けて、「入手したペトロがUSドルを中心に、実通貨として資産化することができなくなるのではないか。」という不安感が広がっています。つまり、あまりに短期間で行われたペトロゴールドの発行表明はペトロを強化するどころか、逆に双方の信頼性を失墜させてしまうという悪影響が、一部投資家の間で出てきています。

問題はベネズエラという国家そのものに対する信用度

ここまで触れてきた、ペトロ及びペトロゴールドは他の仮想通貨と異なり、「現物」を担保としたICOによる資金調達通貨であり、経済アナリストの中にはペトロやペトロゴールドは仮想通貨ではなく、ベネズエラがアメリカの経済封鎖をかいくぐって資金調達するために発行する、「国債」に似た一面があるという指摘があります。

そして、ベネズエラという国家はすでに多くの国債を発行しており、経済破たんによってその返済が滞っている「借金まみれ」状態にあり、そのかじ取りをしているマドゥラ大統領率いる現政権が管理するペトロを投資材料とするのは危険である、という意見が大勢を占めています。
つまり、ペトロという仮想通貨銘柄のセキュリティーやシステム云々ではなく、管理している現政権の信頼性欠如が問題視されているのです。

さらに、ベネズエラの国会は現在大統領を支持する与党勢力と、それを良しとしない野党派が逆転している「ねじれ国会」となっていて、ペトロを容認しない野党派に政権が交代した場合、新政権は違法と捉えているペトロを認めない可能性があり、最悪ICOで入手したペトロが全く換金できない状態に陥るのではないか、という不安も広がっています。

もちろん、今後の一般リリース状況などの動きによって情勢は変わってきますが、現時点ではペトロ・ペトロゴールドに手を出すのは非常にリスキーであり、現政権が存続していくことに「賭けた」、ギャンブル性の高い投資になると考えられます。しかし、到底国際社会的に見れば認められるものではありませんが、ベネズエラではマドゥロ権存続のために、野党派の最有力候補が大統領選へ出馬することを禁じている、非民主主義的な大統領選を今年4月に控えており、情勢的にマドゥロ氏の再選が確実視されています。

結果として、ペトロは現政権下で今後も取引が行われる見込みとなっているため、場合によっては何の担保もない他の仮想通貨よりも安定している、まっとうな投資材料になるのではという見解を持っている投資家も存在します。しかし一方で、ペトロの管理をしている現政権への信頼感はゼロに等しく、体制の存続・崩壊関わらず同国の法定通貨であるボリバル同様、このペトロ・ペトロゴールドの価値は、将来的に大暴落していく可能性が高いと考えられています。

また、社会主義を貫く現政権は国民の私有財産所持を認めておらず、過去には強制的な個人資産没収を行っており、国民が困窮を極める生活を成り立たせるために行っている、仮想通貨マイニングも「私的財産の追及」として、以前は法律で固く禁止していました。しかし、今回のペトロリリースに対するつじつま合わせなのか、今後はベネズエラ国民による仮想通貨マイニングを容認する、という発表がなされました。

とはいえ、ペトロの一般公開が順調に進み晴れて資金調達が完了した時、再選を果たしたマドゥロ大統領が独裁者の顔を再度覗かせ、国民が所有するペトロを搾取し政権の地盤強化に充てるのではないかという、アメリカ・イギリス・EU諸国などを中心とした、資本主義側各国からの懸念の声も多く上がっています。