若干22歳のドミニク・シーナー氏が率いる、ドイツ生まれの仮想通貨コミュニティー、IOTA財団がリリースしたアイオタ(通貨単位MIOTA、以下IOTAと表記)は、近年広がりを見せているIoTモバイルの決済に特化された仮想通貨です。

従来のブロックチェーンとは異なる分散型台帳を用いることで、マイニングによる決済認証が必要でないことから、手数料が全くかからないというインパクトで注目が集まっていますが、このIOTAの台頭以前からIoT分野で活用されていた、イーサリアム・クラシック(通貨単位ETC)との対立状態が浮き彫りとなってきています。

マイクロソフト・富士通など有名大手企業との提携が発表され高騰したIOTA

アイオタVSイーサリアム・クラシックIOTAは、2015年の11~12月に行われたICOセールにおいて、約300万USドル(当時のレートで36億6千万円)を集めましたが、その規模は仮想通貨としてそれほど大きなものではなく、世界的な知名度はその後も上がっていませんでした。しかし2017年6月、香港の仮想通貨取引所である、「BITFINEX」に上場するや否や一気にその価格は上昇し、上場当日の引け値で実にICO実施時点の約500倍となる、時価総額1,600億円を突破しました。

鮮烈な市場デビューを果たしたIOTAは、続いて同年9月30日、中国生まれ仮想通貨取引所である「Binannce」にも上場します。そして、直後からIOTAのIoTに特化した決済認証システムに目を付けたマイクロソフトや富士通、ドイツテレコムやボッシュなどといった、名だたる有名企業との提携が発表されると再度価格が上昇し始め、12月の初め頃にはその時価総額でリップルを抜き去り、全銘柄中第4位の地位まで昇りつめました。

前述した企業以外に、フォルクスワーゲン社やシスコなども、IOTAとの提携を公表していますが、中でもスマートフォンにおいて世界ナンバー1シェアを誇る、韓国のサムスン電子との提携が発表されると同国内での取引量が急増するなど、アジアを中心にその注目度が高まっています。

ブロックチェーンの課題を克服したIOTAの持ち味

ここまでIOTAが、有名企業との提携を進められる大きな理由は、IOTAが「Tangle(タングル)」という、従来の中央集権型ブロックチェーンと異なる、分散型システムを実装しているからです。このタングルは直訳すると「絡み」という意味を持ちますが、通常のブロックチェーン仮想通貨のように「箱」が数珠つながりになっているのではなく、1つ1つの取引承認をメッシュ状に「絡めて」編み込み、分散して記録しているものです。

その結果、取引量が増えるほど処理スピードが高速化される仕組みになっているうえ、そもそもブロックが存在しないため、スケーラビリティというブロックチェーン最大の問題が発生しません。加えて、トランザクション承認がごく小さなIoTデバイスで処理できるため、膨大な電力を使いその計算処理をしてくれる、ブロックマイナーへ支払う報酬が発生せず、併せて取引手数料がかからないという、決済上の大きなメリットがあります。

つまり、IOTAをIoTデバイスにおける決済仮想通貨に採用すれば、かかるコストは使用したデータやり取り分だけとなってきます。分かりやすく身近なもので表現すると、通販型自動車保険CMの謳い文句によくある、「保険料は走った分だけ」のような効率の良い決済システムになっているのです。そのためIOTAは、細かいデジタルデータをインターネットで頻繁に、かつ大量に交換するIoTデバイスにとっては、まさにうってつけの決済用仮想通貨になっているのです。

ちなみにIoTとは、Internet of Thingsの略語でインターネットにモノが接続されることを意味し、外出時にスマホでオン・オフできるエアコンや照明、不足した食材をモニタリングして、自動的にネットで通販注文する最新式冷蔵庫などが、IoTデバイスに当たります。このようなIoTデバイスは、今後どんどんその普及が進むことが予想され、併せて決済システムを実装する必要性も高まってきます。

そういえば、前述したIOTAとの提携を公表した有名企業はどこも、このIoTデバイスの開発・販売に力を入れているか、非常に関連性の深い企業ばかりです。スケーラビリティ問題を気にすることなくスピーディーにかつ、手数料なしで決済できるIOTAは、提携企業が今後リリースしていくであろう多くのIoTデバイスの決済通貨として、全世界的にニーズが広がっていくと分析している専門家が多数存在します。

指摘されているIOTAの問題点

IoT分野を席巻するのはどっちだ非常に革新的なシステムを持ち、多くの企業と提携するIOTAは今後急速に普及していく可能性を秘める仮想通貨ですが、全く問題点が指摘されていないわけではありません。その1つが、あまりに独自性を重視して開発が進んだため、多くのバグや不具合が発生する可能性がまだまだ残されている、いまだ発展途上未完成な仮想通貨であることです。

IOTAは外部からのマイニングに頼らず、オフライン状態でもトランザクション承認ができるのが強みですが、半面シビルアタック(複数ID作成による攻撃)によって、不正な取引認証ノードを作成できてしまう、というセキュリティ上の問題点への指摘が出てきています。事実、仮想通貨市場にデビューした直後の2017年8月、インプットが同じ数値のアウトプットとハッシュする際バッティングしてしまう点を付いた攻撃により、偽造ノードが作成されてしまうという、致命的な弱点が発見されました。

もちろん、この攻撃は犯罪ではなく関連団体による実験的なものであり、この問題点について通告を受けたIOTA開発財団は、速やかにシステムのアップデートを実行したため、現バージョンではこの弱点が克服されています。しかし、今後同じような問題が発生する可能性への不安が広がっており、IoTデバイスの決済通貨としての普及が進むには、もう少々システムの成熟による信頼性の向上を待たなければならないというのが、IOTAが置かれている現状です。

システムが成熟し安全性と実績を積み上げているETCの強み

一方、イーサリアムのハードフォークで誕生したイーサリアムクラシック(通貨単位ETC)は、暗号化理論や原則がすでに成熟期に差し掛かっており、安全で信頼できる効率的な技術として、数百万ドル規模に及ぶ企業間でのIoT決済にも活用されています。また、IOTAが以前指摘を受け、対応を迫られた暗号化ハッシュのバッティング問題も、ブロックチェーンによって発行と、取引認証の過程が完全に分断化されているETCのシステムでは、発生する可能性がゼロに等しくなります。

もちろん、BTCや母体であるETH同様に、マイニングによる取引認証が必要なETCではIoT決済時に手数料が必要となりますが、巨額な決済においては些細な手数料より、セキュリティ面の信頼性の方が重視されてきます。つまり現状では、外部攻撃に対する耐久性を見る限り、IOTAよりETCの方が大きな取引に適している決済用仮想通貨であると、評価することができます。

IOTAとETCどちらがIoT分野を牛耳っていくのか大胆予想

IOTAが持つ強みや弱点、さらにIoTデバイスの決済通貨として1日の長を考えると、現時点ではETC の方が知名度と実績において、一枚も二枚も上手だとする見方が業界内では支配的です。しかし、それも現段階での話であり、今後ソフトフォークやハードフォークが実施され、システム的にIOTAが成長し、その安全性が認められてくれば立場が変わる可能性もあります。

また、そのセキュリティの高さと実績から、企業などによる大きなIoT取引決済での利用が進んでいるETCに対して、マイクロペイメントに最適なIOTAは、家電や自動車のAV機器など、身近で利用者の多いIoTデバイスの分野で飛躍していくという意見も、専門家の間では湧き上がっています。

さらに、先行するETCの決済や送金手数料が突如無料になったり、ブロックチェーン型仮想通貨が抱えるスケーラビリティ問題が大幅改善するなど、目を見張るような変化を遂げる可能性はことは少ない一方で、発展途上であるIOTAには、まだまだ進化を遂げる可能性が秘められています。いずれにせよIOTAは、まだ海外数か所の仮想通貨取引所にしか上場していないものの、今後ビットフライヤーを筆頭とする国内取引所での取り扱いが始まれば、注目するに値する仮想通貨の1つであると言えます。