アルトコインの「バージ(Verge)」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。海外の取引所では、香港のBinance、アメリカのBittrex、イギリスのHitBTCなどで取り扱っていますが、日本語対応ではなく、日本円からバージ(Verge)を直接交換することはできません。

仮想通貨バージは匿名性が売り物で「公認ゆるキャラ」もある

仮想通貨バージ(Verge)の今後と将来性Verge(バージ/単位:XVG)は2014年10月に誕生した仮想通貨です。アルトコインの代表格のイーサリアム(ETH)の誕生と同じ年で、歴史が浅い仮想通貨の世界では3年もたてば「古参」の部類に入ります。バージ(Verge)の発行上限は165億5,500万XVG。最大の特徴は送金や取引のプライバシーが守られる「匿名性」ですが、決済の際のスピードが約5秒と速いことも売り物になっています。バージ(Verge)は匿名性でも、ブロックチェーンの1ブロックのサイズでも、取引のスピードでも、セキュリティ性でもビットコイン(BTC)を上回るような「第2のビットコイン」という意味で「ビットコイン2.0」と呼ばれるほど、期待が集まっています。

仮想通貨は、企業や団体が出資を集めて営利(つまりお金儲け)を目的に誕生させて運営しているケースがほとんどですが、バージ(Verge)はそれとはちょっと違います。開発費用の大部分は募金でまかなわれ、開発・運営では技術者有志がボランティアで参加しています。そうやって関わった数千人の人たち(コミュニティメンバー)の間では「われわれは仲間だ」「バージ(Verge)はわれらの仮想通貨だ」というコミュニティ意識が強く、バージ(Verge)を保有する〃仲間〃を増やそうと、自主的に、活発に活動しています。それはたとえて言えば、登山が好きな人がお金を出しあって自分たちの手づくりで山小屋を建てて、交代で管理して登山客をおもてなしして、その山小屋のファンを増やしているのに似ています。

バージ(Verge)では仲間のシンボル的存在として、仮想通貨には珍しく熊本県の「くまモン」のような公認キャラクター「バージリスク」くんがつくられています。とんがり頭のは虫類ですが、なぜか職業は「アルバイトの忍者」で、いつも手裏剣を持っているという〃ゆるキャラ〃です。口癖は「バジ」で、バージ(Verge)のコミュニティメンバーの間では「見たバジ」「好きだバジ」というように語尾につけて会話しています。時代劇のサムライの言葉をまねて「○○でござる」と言っているような感じです。

なお、公式サイトによればバージ(Verge)とはフランス語で「男性のペニス」という意味だそうで、女性には嫌がられるかもしれませんが、名前の由来でも仲間内で面白がりながらコミュニティを盛り上げようとしています。

Vergeの特徴は取引スピードの速さと「投げ銭」のシステム

バージ(Verge)は第2のビットコイン「ビットコイン2.0」と呼ばれるように、基本的なしくみはビットコインのそれを受け継いでいます。仮想通貨の基本中の基本のシステムであるブロックチェーンのアルゴリズム(コンピュータで計算する方法)は、ビットコインと同じ「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」という方式を採用しています。しかし、ブロックチェーンの1ブロックにデータを書き込むのに要する時間は平均30秒で、決済のスピードは平均約5秒と、どちらもビットコインよりずっと速くなっています。ブロックにデータを書き込むのに要する時間は、アルトコインの中でも「速い」と定評があるDASHの約1.3秒にはさすがにかないませんが、Moneroの約2分よりはずっと速くなっています。決済のスピードが速いのは、ブロックに書き込むデータ量を小さくできる「Simple Payment Verification(SPV)」という技術が効いているからです。

もう一つのバージ(Verge)の見落とせない特徴は、「チップ機能」という「投げ銭」機能を備えていることです。これはツイッターで特定の文字列をつけてツイート(投稿)すると、そのツイートを気に入った人が返信とツイートで任意の金額のバージ(Verge)を送金できるしくみです。そうやって、街角で演じている大道芸人やミュージシャンが帽子やギターケースでチップをいただいている投げ銭のしくみを、ツイッターでも実現しました。LINEでも今後、導入される予定です。

バージは匿名性を持つかどうか選べる実用的なしくみ

募金とボランティアから生まれた仮想通貨Verge(バージ)バージ(Verge)の最大の売り物はビットコインにはない「匿名性」です。外部の第三者には、送金を行った送り主のアドレスも、いくら送金したかという取引の履歴もわからず、送金や取引の秘密が守られます。匿名性が売り物のアルトコインには、他にMonero(XMR)、Zcash(ZEC)、DASH(DASH)、Bytecoin(BCN)などがありますが、バージ(Verge)はそれらにはない特色を持っています。その最大のものが、「TOR」「i2P」など複数の「匿名ネットワーク」を組み合わせるというテクノロジーです。技術のくわしい説明は省きますが、「TOR」によって「いくら送ったか」という送金の内容はわかっても、誰が誰に送金したかはわからなくなります。「i2P」によって送金の内容も、誰が誰に送金したかもわからなくなります。

それ以外にも、バージ(Verge)では匿名性確保のために「5つのアルゴリズム」や「レイス(Wraith)プロトコル」という独自のしくみを採用しています。レイスプロトコルを利用したバージ(Verge)にしかない機能として、ブロックチェーン上の取引の記録(履歴)を公開するか、非公開にするかを、お好みに応じて切り替えられるというものがあります。

たとえば企業と企業の取引で、秘密にする必要がない決済は公開に、企業秘密がからんだ決済は非公開にしたり、非公開の決済でも期限がきたら公開に切り替えるというように、バージ(Verge)であれば一つの仮想通貨で使い分けるができます。これは将来、バージ(Verge)が実用的で、一般の商取引での利用(実需)が伸びる要素があるとされている根拠になっています。

Verge取引のリスク

ただし、匿名性が売り物の仮想通貨は何でもそうなのですが、悪用される恐れがあります。外部の第三者には送金の送り主のアドレスも送金額も取引の履歴もわからず、仮想通貨の利用者のプライバシー、取引や決済の秘密が固く守られるので、脱税、贈収賄、密輸、麻薬や武器の取引、違法な送金、資金洗浄(マネーロンダリング)など、さまざまな悪事に利用される恐れがあります。そのためVergeは当局からにらまれ、イメージが悪化したり規制を受けたりするリスクを負っています。

それとは別にバージ(Verge)には「競合する通貨が多い」というリスクもあります。匿名性を売り物にしているライバル的存在は、比較的その名が知られているものだけでもMonero、Zcash、DASH、Bytecoinと4つあり、Bytecoinを除く3つは時価総額がバージ(Verge)を上回っています。特にDASHは取引のスピードでバージ(Verge)をしのぐので強敵です。

バージ(Verge)ではライバルとの競争に勝つために、ゆるキャラをつくったりして「コミュニティづくり活動」を盛んに行っていますが、最後に物を言うのはやはり技術競争になります。バージ(Verge)の構想としては「RSKテクノロジー」を実装して、匿名性を持つアルトコインでありながら、イーサリアム(ETH)が持っているような、取引や契約の内容のデータを記録して自動的に実行する「スマートコントラクト」の機能を持つ計画があります。

仮想通貨の世界は日進月歩で変化が激しいですから、まだこの世に現れていない「新人さん」に負けてしまうこともありえます。バージ(Verge)は生き残れるでしょうか。

バージの発行枚数上限が巨額なのは「両刃の剣」

バージ(Verge)は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円から直接交換できません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてVergeに交換することになります。バージ(Verge)と円の交換レートは2017年12月下旬に1XVG=30円に迫り、2017年1年間の上昇率がなんと約1万2,900倍になりました。仮想通貨の時価総額ランキングでも20位前後まで上昇しました。その後は下落して、2018年2月にはほぼ5~10円の範囲におさまりました。

発行上限が165億5,500万XVGというのはビットコインの2,100万BTCに比べると途方もなく多く、1,844億7,000BCNのBytecoinやアルトコインの代表格リップルの1,000億XRPに次ぐぐらいの規模です。通貨の発行量が多いのはイコール良いこととは、必ずしも言えません。それはメリットにもデメリットもなる「両刃の剣」です。

法定通貨では、たとえばハンガリー・フォリントやポーランド・ズロチのような小さな国の中だけで通用する通貨と比べると、発行量が格段に多い米ドルやユーロは値動きが安定しています。仮想通貨でも発行枚数が多いと交換レートが乱高下しにくく、価格変動が抑えられて一般の商取引で利用しやすくなり、実用的というメリットがあります。もっとも、需要と供給のバランスで言えば供給過剰になるリスクもはらんでいて、それが通貨の価値が下がる「インフレ」を起こし、他の通貨との交換レートが下がる恐れがあることも、頭の隅に入れておく必要があります。