アルトコインの「ウェーブス(Waves)」は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。海外の取引所ではロシアのLivecoin、Tidex、YoBit、ウクライナのLiqui、アメリカのBittrexなどで取り扱っていますが、どれも英語は対応していても日本語対応ではなく、日本円からウェーブス(Waves)に直接交換することもできません。
ウェーブスはICOで新コインを産む「母なる仮想通貨」
Waves(ウェーブス/単位:WAVES)は2016年4月、「Nxt(ネクスト)」から分岐(ハードフォーク)してロシアで誕生した仮想通貨です。ウェーブス(Waves)の発行上限は1億WAVES。送金の速度は1秒間に1,000取引と非常に高速です。ウェーブス(Waves)はロシア語では「ワベス」と言い、開発者はアレクサンドル・イワノフ(Alexander Ivanov)という名のロシア人で、ニックネームはサーシャ(SaSha)。Nxtの開発メンバーだった頃から仮想通貨の世界では有名な人物でした。そのネームバリューをいかし、クラウドファンディング(ネット上の資金調達)によってビットコインで総額29,634BTC(約1,600万米ドル)もの資金を集め、ウェーブス(Waves)のICO(イニシャル・コイン・オファリング/仮想通貨の新規発行を伴う資金調達)は大成功をおさめました。
意外に思うかもしれませんが、ロシア(旧ソ連)はアメリカやフランスやインドと並び称される「数学大国」で、軍事や宇宙開発のためにコンピュータ・サイエンスが高度に発達しました。仮想通貨を英語で「Cryptocurrency(暗号通貨)」と言うように、「暗号」はその最重要技術なのですが、ロシアでは東西冷戦の時代、若い頃のプーチン大統領も関わったKGBの諜報活動などで暗号化するために、高等数学を駆使して暗号を「解読する技術」も、「解読されないようにする技術」も、盛んに研究されました。そんな数学やコンピュータや暗号学に関する科学技術の成果を受け継いで、ロシアの仮想通貨のテクノロジーは世界でも最高水準にあります。
ウェーブス(Waves)は、動物のメスが卵や子どもを生んで子孫をふやすように、ICOをサポートして新しい仮想通貨を誕生させ、「増殖」させるためにある仮想通貨です。それは言ってみれば、ロシアの母なる大地ならぬ「母なる仮想通貨」です。すでに、ゲームソフトの中で報酬のやりとりに使われる「MobileGo」や「ZrCoin」「Innocent」といった仮想通貨がウェーブス(Waves)を〃母〃として誕生しています。
Wavesは約5分、700円程度で新仮想通貨を発行可能
ウェーブス(Waves)が「仮想通貨の母」になるしくみはNxtから受け継いだ「CAT(Custom Application Token)」という機能です。CATにより、ウェーブス(Waves)の分散型のブロックチェーンは、その上に独自の仮想通貨(デジタルトークン)を新しく誕生させて「増殖」させることができます。言い換えれば、誰でもウェーブス(Waves)を保有すれば、独自の仮想通貨を簡単に誕生させることができ、その「開発者」になれるというわけです。そこではコンピュータの専門的な知識は必要ではなく、パソコンが使える人であれば誰でもすぐに利用できます。ICOで、パソコンへのインストール、アカウントの作成、新規通貨の作成にかかる所要時間はおよそ5分で、手数料は1WAVES(約700円)とわずかです。
そのようにウェーブス(Waves)は「誰でも独自の仮想通貨をつくって発行できる」ことを目指して、予備知識も何もない初心者でもできるようなわかりやすさ、扱いやすさを追求しています。極端な話をすれば子どもでも、紙の「おてつだい券」のような「自分オリジナルの仮想通貨」をつくって発行することが可能です。
たとえば、どこかの町の商店街「××銀座」の商店会が、その商店街だけで通用する仮想通貨をつくりたいと思ったら、商店会の事務所にコンピュータを揃える必要も、専従の技術者を雇う必要もありません。商店会長か誰かがWavesを保有して、CATで設定して新仮想通貨「Japan XX Ginza Coin(JXGC)」をウェーブス(Waves)につくらせればいいのです。ICOで仮想通貨を発行したら、あとは商品券の要領で管理すればいいでしょう。
しかし残念なことに、現在のところ日本語版がないので、仮想通貨の発行者も利用者も英語がわからなければお手上げです。また今後、法律で規制されて仮想通貨をむやみに新規発行できなくなるおそれもあります。マイナー仮想通貨(草コイン)のICOについては中国で出資金詐欺まがいの事件が起き、中国やロシアはICO規制に動きました。日本では芸能人まで関わっているICOによる資金調達に「安易な錬金術を許していいのか」と風当たりが強くなっています。ICOをやりやすくしようとしているウェーブス(Waves)にとって、そんなニュースは向かい風になります。
ウェーブスには取引所の機能もあるので〃安心子育て〃
Wavesの大きな特徴は、仮想通貨でありながら「分散型プラットフォーム」のシステムそれ自体が仮想通貨取引所の役割を果たせる機能を持っていることです。その機能を「アセットエクスチェンジ」と言い、取引所は「分散型取引所(DEX/Decentralised Exchange)」と呼ばれています。
自前のその仮想通貨取引所では、Wavesと米ドルやユーロやロシア・ルーブルのような法定通貨との交換や、Wavesとビットコインや他のアルトコインとの交換、Wavesを〃母〃として誕生した〃子〃の仮想通貨とWavesの交換、〃子〃と〃子〃の間の交換ができます。〃母子同室〃のような母と子、子と子の交換では、ふつうの仮想通貨取引所にはない特別なルールが適用され、危険な〃猛獣〃がウヨウヨいるような仮想通貨の外の世界から守られて〃子〃の交換レートが安定するという効果があります。〃子〃が順調に育って外の取引所で上場できるようになれば、〃乳離れ〃して独立できます。
Wavesは誰でも簡単にICOで仮想通貨の〃子〃がつくれると言っても、産んだら産みっぱなしで育児放棄するような〃鬼母〃ではなく、取引所の機能を使いながら責任をもって仮想通貨の〃赤ちゃん〃の面倒をみて、ロシアより愛をこめて大きくなるまで大事に育てる、しっかりした〃良き母〃です。
オールロシアがついてもICO規制がリスク
ウェーブス(Waves)は現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円から直接交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで、あらためてウェーブス(Waves)に交換することになります。
円との交換レートは2016年4月のハードフォークによる誕生、上場直後はクラウドファンディングでのICO人気が続いて1WAVES=約150円まで上昇しました。その後は20円台まで低迷しましたが、マイクロソフトと提携した2017年5月から8月まで大きく上昇し、35円だったのが20倍以上の700円台まで上昇しました。さらに12月には「1秒間に5000件の取引処理が可能になる新プロトコル『Waves NG』へのアップデート」というニュースを受けて、1WAVES=1,800円前後まで急騰しました。仮想通貨の時価総額ランキングでも20位付近までポジションを上げています。現在の交換レートは700円前後で落ち着いています。
ウェーブス(Waves)を誕生させたイワノフ氏はロシア連邦政府とのコネクションがあり、2017年7月に連邦政府の中央証券保管庫(NSD)と提携してブロックチェーン・プラットフォームの共同開発を進めています。旧ソ連のカザフスタン政府や、エネルギー企業のガスプロムなど複数のロシア企業ともパイプがあり、「オールロシア」体制はウェーブス(Waves)の大きな強みだと言えます。もっとも、イワノフ氏はプーチン大統領のお気に入りかと思えば、大統領は仮想通貨への規制をたびたび口にし、関係は必ずしも良いとは言えないようです。
民間企業だけでなく政府でも仮想通貨を発行しようとする動きが今、旧ソ連ですが欧州連合加盟国でユーロ圏のエストニアなどで起きています。プーチン大統領もルーブルの仮想通貨版の発行を検討中と伝わっています。政府の仕事もできるような内部体制をしっかり固めようと、ウェーブス(Waves)は世界最大の会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツと提携しました。マイクロソフトの企業向けクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure(マイクロソフト・アジュール)」との連係も図っています。イワノフ氏は、ビジネスマンとしてもやり手のようです。
Waves投資最大のリスクとは
仮想通貨が仮想通貨を産んで増殖するウェーブス(Waves)は、見やすい、操作しやすいインターフェース、ブロックチェーンのダウンロードが不要になること、自前の取引所が利用できる使いやすいライトウォレットの装備などで「誰でも簡単にICOができる」とアピールしています。そのため、もし仮想通貨の新規発行のニーズが高まって「ICOブーム」がやって来たら、使いやすいウェーブス(Waves)がそれによって大きな恩恵を受け、交換レートが再び上昇する可能性があります。しかし、当局の規制によってICOブームは盛り上がらないかもしれません。ウェーブス(Waves)に投資するなら、その最大のリスクとも言える各国のICO規制の動きから目が離せません。