G20にて仮想通貨規制強化の論調

年明けの大暴落以降、仮想通貨市場は今一つ低迷が続いています。コインチェックの盗難事件、テザー問題、日本の仮想通貨取引所の一斉取り締まりなど、(短期的に限定されるものも含め)ネガティブ材料が散見される市場ですが、直近の下降トレンドの原因の一つが、昨日閉幕したG20に向けて、リスクオフで売られているもの、と言われています。そもそもG20とは何なのか、仮想通貨市場に対してどのような影響が、なぜあるのか、そこ結果を受けての今後の動き方など、改めて纏めていきたいと思います。

G7といわれるサミットを開催する主要7か国(アメリカ・イギリス・日本・イタリア・カナダ・フランス・ドイツ)にロシアとEU、さらには新興国11か国(インド・中国・ブラジル・韓国・インドネシア・オーストラリア・インドネシア・南アフリカ・アルゼンチン・トルコ・メキシコ)を加えた、世界に影響力のある20の国および地域連合によって開催されるグループで、Group of 20の略称です。今回話題となった「G20」とは、グループの事ではなく、このグループが開催した、G20サミット、G20首脳会合ともいわれる会合のことを指しています。2018年度のG20はアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されました。

G20と仮想通貨の関係

仮想通貨への短期的、長期的な影響は?世界でも影響力の強い20の国、地域での会合となるので、ここで議題となった事項についてはその相場などに大きな影響がある可能性も出てきます。今回、「仮想通貨」が一つの大きなトピックとして扱われた初めてのG20であったので、仮想通貨に関わっているプレーヤー全体がその動向に注目しています。
仮に、ここでの話題が仮想通貨に対して否定的なものであった場合、長期的な仮想通貨市場の成長に悪影響が出るだけでなく、短期的に仮想通貨の値動きの激しさを好んで入ってきていた資金が引き上げることも懸念されるため、長期的にも、短期的にも悪影響が懸念されました。当然、逆もまた然りで、今回のG20で仮想通貨がポジティブな議題として扱われた場合、短期的な暴騰、長期的な伸長が予測されます。
現在、国によって仮想通貨に対する見解は大きく異なるものの、中国やヨーロッパの主要国など、G20の中でも特に発言権の強い国は昨年から今年の初めにかけて、規制強化の意向を示しており、どちらかというと、ネガティブな方向に進むのではないかという懸念から、市場から資金が引き上げられていたと分析されています。
これは株式市場など、他の金融市場においても同様の動きがみられることは多々あり、企業の決算発表や、経済全体に影響のある発表の前には期待での買い、リスクオフでの売りといったようなことが頻繁に起こります。

実際、仮想通貨の議題においては仮想通貨の話題はネガティブな面が強調されながら展開されたようです。その匿名性による資金洗浄の危険性や、激しい値動きによる投機的な側面などが強調されるとともに、昨年の仮想通貨の値上がりの要因の一つが「ブロックチェーン技術」に対する期待が含まれていた、とした上で、ブロックチェーン自体の将来性を高く評価した一方で、「ブロックチェーンと仮想通貨とは別物」という点が強調。大局で予想されていた通り、各国が仮想通貨の負の側面を警戒し、規制を強めていく方向の論調が強かったと報じられています。

短期的な市場への影響への考察

どちらかというとG20の報道後、市場全体として上昇トレンドとなっています。非常に短期的な動きしか観測できていないので、この後どのような動きとなるかは予測がつきませんがどちらかというとマイナスの方向であったとはいえ「懸念していた通り、もしくは懸念していたレベルを下回るレベル」であったという評価であるというのが筆者の見解です。株式でもよくあることで、好決算であったにも関わらず、「市場の期待を下回った」場合には株価は下がるケースも、その真逆も然りです。今回報じられたことも、市場が懸念していたほどには各国が仮想通貨をネガティブに見ている、ということはなく「想定内」だったということでしょう。

国の「ポジショントーク」

加えて、そもそも大前提として少なくとも現状、「国家」もしくはそれを前提とした組織が仮想通貨に対してポジティブな見解を示すということ自体が中々想定しえないことは念頭に置いておく必要はあります。当然、脱税の問題や、マネーロンダリングによる犯罪の助長など、会合の中で発言された懸念も本心ではあるはずですが、その一方で、現在国家が唯一持っている権利である「通貨発行権」を脅かし、お金の仕組み、ひいては経済の仕組みそのものを根本的に変革しかねないポテンシャルが仮想通貨にはあります。それが国家の在り方にとって良いものか悪い物か、国家の在り方の変革を促すものなのか、はたまた国家という組織体を衰退、消滅に導くものなのか、未来のことは全く分かりません。しかし、仮想通貨という新たな概念、そして、その概念が受け入れられていく動きというのは現在の国家の在り方に対して何らかの少なくない影響を与えるものであり、それに対する恐れ、現在の自身の立場を守るためには仮想通貨に対して必然的にネガティブ、もしくは慎重なスタンスを取らざるを得ないことは想像に難くないものです。それが悪いと言っているわけではなく、その立場ゆえにそういったスタンスに立たざるを得ないのが国家であることは念頭に置いておく必要があります。

規制強化の影響は?

次に、もう一つ念頭に置いていただきたいのは国の規制がどのような影響を与えるのか、ということです。筆者の見解は、影響は長期的には限定的、かつ、規制の強化がポジティブ材料にもなりえる、というものです。
そもそも、「規制を強化」というと、それに呼応するように通貨の価格が下落するかのような風潮がありますが、実際問題として仮想通貨は将来に対する期待が高いものの、まだまだ未成熟な市場であり、多くの問題を抱えていると言えるでしょう。コインチェックの流出騒動などもその代表的な一例といえるでしょう。規制を強める、ということは短期的に見ると、流動性の悪化などが懸念されるところではありますが、長期的に考えると、勿論すべてすべてではありませんが、市場から懸念材料や、悪意ある参入者を排除することで全体の健全化を促す方向に動きうるということが挙げられます。
また、そもそも「国の規制強化」の影響も仮想通貨そもそもの性質から考えると限定的である、と考えています。仮想通貨は本来的に「非中央集権」的な思想に基づいて構築されており、中央集権的な権力によって既存の枠組みの中で取り締まりを強化したところで、その抜け穴がいくらでも出てくるものです。例えば、中国国内での仮想通貨の取引に対しての規制が強化されたときにも、当然市場からはネガティブな材料として扱われましたが、中国の投資家は「規制のないところで始めるだけだ」と大きく動揺することもなかったようです。仮想通貨のように完全に市場のニーズだけで価格が決まる「通貨」に対して、既存の枠組みの中で完全な制限を行うことは難しいと考えています。

G20の結果から見る今後の仮想通貨との付き合い方

G20では予想されていた通り、仮想通貨にはどちらかというとネガティブな論調が優勢で、各国の規制は今後強くなっていくことが予想されます。しかし、それは必ずしもネガティブな材料ではなく、仮想通貨というものの性質上、国が完全に取り締まりを行うのも困難なものになっています。ニュースに一喜一憂して振り回されず、仮想通貨に対して自身なりの見解を持ったうえで付き合っていくことが求められます。