仮想通貨を悪意ある攻撃から守る昨年のNEM騒動で話題が沸騰しましたが、現時点でも、数多くのサイバー攻撃によって仮想通貨の盗難、紛失が起こっています。こうした中、ネット上から分離して管理が可能なコールドウォレットに対応した取引所も増えています。

日本でいえば、金融庁に仮想通貨交換事業者として登録されたマネーパートナーズなど16社はコールドウォレットに対応しています。

その一方でユーザーの中には依然として、取引所に対する不信感をぬぐえないという人が多いのも事実です。そうした中で新たなセキュリティ対策の一環として注目を浴びているのがハードウェアタイプのウォレットです。

NEM騒動の背景にある保管方式の違い

まずは、ハードウェアタイプウォレットの説明の前に、NEM騒動で明らかになった、仮想通貨を取引所に預けたままにしておくことの危険性について触れていきます。まずは、NEMの騒動を振り返っていきましょう。

現在、仮想通貨取引所では、仮想通貨を保管しておく方式としてコールドウォレットと呼ばれるものが主流になっています。これがどういったものか簡単に説明すると、インターネットにつながずに仮想通貨をオフライン上で管理するというものです。

利用するためには端末をネット環境に接続しなくてはいけないのですが、ネット環境へのアクセス時間が短いため、サイバー攻撃を受ける機会が圧倒的に少なくなるのです。先ほどご説明してきたように、この安全性の高さから多くの仮想通貨取引所で採用されています。

しかし、コインチェックは多くの方がご存知の通り、NEMの扱いに関してはコールドウォレットに対応していませんでした。その結果、あの流失騒動が起こってしまったのです。コインチェックの企業としての努力が足りなかったことも要因としてあるでしょう。

ただ、それ以上に現在の日本において、社会制度上の大きな問題が存在しているのも事実です。

取引所に通貨を預けたままにしておく危険性、「みなし業者」とは

日本国内では平成29年度に改正資金法が制定されました。それまでの資金法に仮想通貨に関する条項が盛り込まれました。俗に仮想通貨法と呼ばれており、仮想通貨事業者の定義や取り扱い内容を法的に定めたものになります。細かい話はここではいたしませんが、ここで留意しておきたい点は、業者の登録に関する部分です。

この法律の定めるところによって、平成29年度から新規に仮想通貨の取引所として、仮想通貨の交換業を営むためには金融庁が定めた基準にのっとり、審査・登録をすることが義務付けられました。現在は3月2日に自主規制策定に向けた新規団体を設立したマネーパートナーズなど16社が登録されています。

ただ、こうした新規登録が義務化される一方で、この法律が始まる以前から事業を行っていた取引所に救済措置が全くないか、というとそうではありません。それが「みなし業者制度」になります。これまでの実績を評価し、とりあえず金融庁に登録の申請をしてくれれば業務を行う許可がもらえるというものです。

「みなし業者制度」があることによって、改正資金法以前の取引所も営業が可能になったのです。しかしながら、これは大きな抜け道を生み出してしまいました。事業者としての最低限度の基準を満たしていないにも関わらず運営できてしまう取引所を生み出してしまったのです。

こういったことから、セキュリティ体制が整っていないコインチェックのような業者が営業できてしまうという問題が生まれました。コインチェック以外にも審査をすり抜け、営業している取引所は現在日本には非常に多く存在しています。このような状況で仮想通貨を取引所のウォレットに預けたままにしておくのは非常にリスクが高いのです。

ハードウェアウォレットの仕組み

ハードウェアタイプウォレットの登場とおすすめ端末こうした取引所やそもそもの仮想通貨が抱えるセキュリティ上の不安から生まれたのがネット環境から切り離して使える、ハードウェアタイプのウォレットです。もともとは先ほども説明したように、取引所がコールドウォレットとして使っていました。

ハードウェアウォレットの仕組みは実にシンプルです。ビットコインを例に説明します。ビットコインは送金に使われる口座番号にあたるアドレス、そしてパスワードにあたる秘密キー、これら二つによって管理されています。実際のところ、重要な秘密キーは取引所が管理していて、私たちは把握することができません。

流出騒動以前はこれが安全の印だったわけですが、実際にはセキュリティが脆弱な取引所であればこれは非常に危険なことになります。ハードウェアウォレットでは、本体内部に秘密キーが登録されています。つまりネット環境から離れた場所で、保管することが可能になっているのです。そのため、高い安全性があります。

一般ユーザー向けのハードウェアタイプのウォレットが登場

このような仕組みを持つハードウェアウォレットですが、これまでは、非常に高価でした。主に事業者向けのものがほとんどでした。そんな中、一般ユーザーのニーズをくんで、現在は多数の小型かつ安価なハードウェアタイプのウォレットが開発販売されています。

現在、日本国内で購入可能かつ信頼度が高いものはLedger NanoS,Treazor,Coolwalletの3社が販売しているものがあります。ここでは対応通貨数も多く、人気の高いLeder NanoSについてご紹介していきます。

Leder NanoSは仏Ledger社が手掛けるハードウェアタイプのウォレットです。価格は11800円、USB形式になっています。ここでご紹介するものの中では唯一「リップル」にも対応しています。それ以外にも27種類の仮想通貨に対応しています。これ一台で、管理から売買といった取引までできるようになっていて、取引所が不安だという方はこれ一つで資産を構築することもできてしまいます。

ハードウェアウォレットでも通貨盗難の事例が多発、購入場所には注意が必要

良い点ばかりをご紹介してきたハードウェアウォレット、実際のところ良い点ばかりではありません。1日1日刻一刻と変わる仮想通貨市場のように、仮想通貨をめぐる犯罪も多様化しています。ハードウェアウォレットから通貨が盗難される事例も実は頻発しているのです。

もちろん、ハッキングによって秘密キーが暴かれた、なんていうすごいものではありません。ハッキングにかかる膨大なコストを考えると無駄です。ではどのような方法で盗まれているかというと、それは非常に原始的な方法だったのです。

すでに自分が所有しているハードウェアウォレットを新品を装ってネット通販に出品。秘密キーは自分で管理し、通貨のアドレスだけを抜き取るというものです。ネット通販では悪意のある個人でも出品は容易に可能です。そのため、こうした事件が発生しています。もし今後ハードウェアタイプウォレットの利用を考えているというのであれば購入場所には注意が必要です。

品薄ではありますが、基本的には販売元から直接購入するようにしましょう。少し面倒ではありますが長い目で見た場合その方が安全です。

ここまでのご説明で、ハードウェアウォレットの危険性もご説明してきました。非常に便利、安全ではありますが、依然として盗まれるリスクはあります。リスクをもっと下げたいのであればペーパーウォレットを利用するのがおすすめです。

秘密キー、アドレスを紙に印字して、オフラインで管理するものです。とにかくシンプルですが、現状物理的に盗まれる、紛失するということを考慮に入れなければ最も安全な方法です。

今回はいまだ渦中にある仮想通貨流出事件を受けて、仮想通貨を悪意ある攻撃から守る一つの方法として、ハードウェアウォレットをご紹介してきました。現状として日本は仮想通貨を一資産として認めつつも、それが悪意のある第三者によって紛失、盗難されたとしても、これらに対する補償制度はできていません。

自己責任で保管、管理、運営を行っていく必要があります。今回ご紹介したのはあくまでも一例です。常に情報にアンテナを張り巡らせ、自分の資産を守る方策を立てていく必要があります。