コインチェックが金融庁認可を受ける前提条件になってきた「匿名通貨の取扱中止」

コインチェックが取扱中止を検討している匿名仮想通貨の思想と現実1月26日にセキュリティー意識の甘さから社内PCがマルウェアに感染して、「NEM大量流出事件(約5億2300万XEMの流出)」を起こしたコインチェックですが、3月12日から日本円にして約460億円相当のNEM補償を実施して事業再開に向けての準備をしています。コインチェックは金融庁から二度目の厳しい行政処分を受けており、「経営体制・顧客保護・事業戦略・セキュリティー・犯罪や脱税の防止の徹底的改善」を早期に実施しなければ、今後の事業継続が不可能な状態に追い込まれています。

コインチェックはまだ金融庁に認可された「登録取引所(登録仮想通貨交換事業者)」ではなく「みなし業者」ですから、資金決済法によって「事業継続が可能な期間」が制限されることになります。何月何日の何時までに認可されなければダメという具体的な日時まではまだ決められていないのですが、コインチェックは金融庁に認可された登録事業者になれない限り、遠からずいつかは「営業停止・廃業」に追い込まれるリスクがあるのです。そのため、NEM流出事件後に立ち入り検査を受けたコインチェックは、金融庁の監督・改善指導を全面的に受け入れながら、急ピッチで通常営業の再開と金融庁の認可(登録取引所としての認可)を目指している途上にあります。

金融庁が「認可のハードル」として繰り返しコインチェックに指摘してきた問題が、「匿名通貨の取扱い」と言われています。金融庁は暗号化技術によって匿名性を高め、送金先を特定したり追跡したりできないようにしている「匿名通貨」を、「資金洗浄・脱税・犯罪の温床」になるとして容認できない姿勢を示しているのです。コインチェックが金融庁の認可を受けるためには、「匿名通貨の取扱いを中止する経営判断」が前提条件になってきています。

コインチェックが取り扱っている匿名通貨は“Monero・DASH・Zcash”の三種類

金融庁が問題視してコインチェックが取扱いを中止することを検討している仮想通貨(アルトコイン)は、「Monero(モネロ,XMR)・DASH(ダッシュ,DASH)・Zcash(ジーキャッシュ,ZEC)」の3種類です。Monero・DASH・Zcashは、厳密にはそれぞれが採用している技術の内容は異なりますが、「送金先の追跡(特定)が至難・不可能である」という特徴が共通しています。Moneroについては、北朝鮮が武器・麻薬密輸などアングラビジネスによる不正収益を外貨に交換するための手段として利用しているのではないかという疑惑も報じられています。

「ダークウェブ・ダークマーケット(闇市場)」と呼ばれる非合法的な商取引やマネーロンダリングを行う場で、「匿名仮想通貨を用いた決済・通貨交換」が悪用されているとも伝えられており、仮想通貨の中でも特に「匿名通貨(送金先が追跡困難な仮想通貨)」を警戒して規制しようとする国家権力の動きが強まっているのです。NEM流出事件においても、犯人は盗んだNEMをダークウェブに持ち込んで「NEMの値引き販売」を画策したことが明らかになっています。ダークウェブを介してすでに、盗難NEMの大部分が別の仮想通貨や法定通貨に交換されてしまったとも見られています。

Moneroとはどのような匿名通貨なのか?

事業継続のための金融庁認可を目指さざるを得ないので、コインチェックが匿名通貨の取扱を中止する可能性は高いと思われます。仮に匿名通貨の取扱停止が実施されたとすると、短期的には「Monero・DASH・Zcashの暴落」は避けがたいでしょう。この3種類の匿名通貨は、ビットコインやイーサリアムなどのメジャーな仮想通貨と比べると、時価総額が小さく保有人数が少ないので、売る人が大量に出れば価格下落がかなり早くなるリスクがあります。匿名通貨の取扱いが中止された場合のコインチェックの顧客対応は決定されていませんが、「匿名通貨の一定レートでの買取りによる現金化(NEM補償型)」や「厳格な本人確認後の出金」という対応になるでしょう。

Monero(通貨単位XMR)は2014年4月に公開された匿名仮想通貨で、国内取引所ではコインチェックだけでしか購入できません。Moneroは世界標準語として構想されたエスペラント語で「コイン」をそのまま意味していて、ビットコインのような発行上限数はありません。MoneroはBytecoinのソースコードを元に開発され、匿名性強化のアルゴリズム「CryptoNight」を採用しているため、送受信者を追跡することが困難になっています。Moneroの匿名化アルゴリズムのCryptoNightは、グループの誰が署名したか分からなくする「ワンタイムリング署名」の技術を使っていて、「ミキシング(署名の混合)+ワンタイムキー(送金アドレスが1回ごとに変化する)」によって送金の追跡や口座残高の閲覧を不可能にしています。

DASH・Zcashとはどのような匿名通貨なのか?

匿名性の高いMonero・DASH・Zcashについて

DASH(通貨単位DASH)は2014年1月に公開された歴史の長い匿名通貨で、旧名をダークコイン(Darkcoin)といいましたが、2015年5月に名前の持つイメージ改善もあってDASHに改名しています。DASHの発行上限枚数は「約2,200万枚」でビットコインの約2,100万枚とほぼ同じであり、「匿名性の高い送金+送金速度の速さ」のメリットを持っています。暗号化方式は、セキュリティーレベルが高くて省エネ設計の「X11」を採用しています。DASHは匿名性の高い送金技術として「Darksend」を実装していて、送金者のコインを一度集めてシャッフルしてから送金していく「Coinjoin(コインのプールとシャッフル送金)」を実行するので、「誰が送金したのかの送信元」を追跡することが不可能になっています。さらに「Instant X」という高速送金技術によって、DASHの送金は約4秒で完了します。

Zcash(通貨単位ZEC)は、2016年10月に公開された比較的新しい匿名通貨です。Zcashの発行上限枚数はビットコインと同じ約2,100万枚で、4年に1回マイニング(採掘)の半減期が来て、コンセンサスアルゴリズムにマシンパワーでハッシュ値を計算するPoW(Proof of Work)を採用しているところも同じです。Zcashは取引内容のすべてを暗号化する「ゼロ知識証明」という技術を初めて実装した匿名通貨であり、MoneroやDASHと比較しても「完全に近い匿名性」を実現しているとされています。

Zcashのゼロ知識証明とは「仮想通貨の量+送信者・受信者」を非公開の状態にしたままで送金することが可能な技術のことです。Zcashのゼロ知識証明に基づく送金では、「送金指示の正しさ以外の情報」がやり取りされないので、ブロックチェーン上で誰が誰にいくらの仮想通貨を送金したのかの追跡・特定が原理的に不可能となっています。Zcashの取引では、仮想通貨の送受信・金額にまつわる個人情報が完全に暗号技術で匿名化されているのですが、「送信者が持つ閲覧権・閲覧キー」があれば取引内容・送受信者を確認することはできます。

個人をエンパワーメントする“匿名通貨の思想・理想”と国家がマネーロンダリング・脱税を警戒する“匿名通貨の現実・リスク”

「誰が誰にいくら送金したのか・誰がいくらの金額をウォレット(口座)に保有しているのか」を複雑な暗号化技術で分からなくする匿名通貨の特徴を聞くと、匿名通貨は「犯罪助長のために作られた悪い仮想通貨」であるから規制すべきだという考えを持つ人は多いでしょう。しかし、誤解してはならないのは匿名通貨の開発者たちは、犯罪・脱税・資金洗浄を幇助するために高度な技術設計に裏打ちされた匿名通貨を開発したわけでは断じてないということです。匿名通貨の開発者の基本思想は、通貨に対する「個人の私的所有権」を明確化することにあり、「徹底的なプライバシーの保護+絶対に安全な通貨価値の移動+個人のエンパワーメント」を目的として開発を続けてきたのです。

匿名仮想通貨の思想・理想は、正当な理由がない限りは、個人が所有する通貨価値を誰からも侵害されることがない安全な仕組みを暗号化技術で打ち立てるということに立脚しています。もちろん、匿名通貨の基本思想は、(明確な犯罪でない限りは)個人が自分のお金を何に使おうが自由で、お金の使途を誰にも勝手に知られる事がないという「自由主義・プライバシー権」にも立脚しています。匿名通貨を支持する人は個人のプライバシーと口座残高を徹底的に守ることを「正義・安全」だと考えていて、犯罪・資金洗浄など悪事をした人は、匿名通貨とは別のルートで証拠を固めて逮捕すべきだとしているのです。

そういった個人を徹底的にエンパワーメント(力づけ)しようとする性善説を前提とする「匿名通貨の思想・理想」がある一方で、国家権力は悪意ある個人・組織が匿名通貨を犯罪収益のマネーロンダリングや脱税・違法な売買に悪用する可能性もあるという「匿名通貨の現実・リスク」を警戒しています。匿名通貨の支持者からは、現金も誰が何に使ったか分からなくなる「匿名性」が強いという反論もあります。しかし、匿名通貨は「ボーダーレス(国境なし)な匿名の資金移動・脱税」が技術的に可能であるため、「徴税権の的確・公平な行使」を重視する国家の「対匿名通貨の規制圧力」は今後も強まりそうです。