12月22日のビットコイン急落、「1BTCの価格の高低」をどう捉えるか?
12月22日、ビットコイン(BTC)が200万円台の高値から20%以上も急落して、経済ニュースでも大きな話題になりました。一部の投資家がパニックになったのかBTCの売りが続出、bitFlyerやCoincheckといった日本の大手取引所もアクセスと取引が急増して回線がつながりにくくなっていました。
クリスマス前のBTC暴落にショックを受けた個人投資家も多かったと思いますが、22日から数日間にわたって、ビットコイン価格は「160~170万円台」の安値で推移しました。BTC価格が150万円台にまで落ち込む時間帯もあり、チャートがナイアガラの滝を描き続ける「BTC暴落の本格化」も懸念されました。
26日頃からBTC価格は持ち直し、12月28日現在「170~180万円台」の落ち着きをようやく取り戻しています。経験主義の投資家心理としては、12月のBTC相場は190万円台以上が当たり前で、180万円台以下は売られ過ぎの「安値」という感覚になっていたので、160万円台以下への落ち込みは正に「BTC急落の衝撃」が強いものでした。
しかし、ビットコイン(BTC)をはじめとする仮想通貨の市場価格(時価)には、「株価の株式指標(PER・PBRなど)・ファンダメンタルズ(企業の業績・財務諸表)・理論価格」のような客観的な数字の計算に基づく合理的根拠はありません。
仮想通貨に興味のある投資家の経験主義やマインドに照らせば、12月時点の「1BTC=150万円」は確かに急落した異常な安値かもしれません。
しかし、2017年初頭に「1BTC=10万円前後」だったことを考えると、BTC価格と利害関係のない一般の人の目線では「1BTC=100万円であっても(年初の10倍以上になったのだから)BTCの時価は高すぎでありバブルである」という見方の方がむしろ主流かもしれないのです。
12月前半のビットコイン価格の上昇要因と「ビットコイン嫌い」なJPモルガンのダイモンCEOの発言
ビットコインが2017年に200万円の大台を突破する高値をつけた理由は、「シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の先物上場」と「ビットコインの複数回の連続的なハードフォーク(分岐・分裂)の予定」でした。伝統と信頼のあるアメリカの大手先物取引所がビットコインを取り扱うことで、機関投資家を中心とした「投機筋の巨額資金」がビットコインに流れ込むと見られたのでした。ビットコインの連続的なハードフォークにも、当初は「二回目のビットコインキャッシュ(BCH)」のような大きな価値増殖が期待されました。
しかし、韓国の少年が画策した「ビットコイン・プラチナムの虚偽情報流布による詐欺事件」によって、「ハードフォーク祭り(BCT分裂で新アルトコイン配布に期待する祭り)」は出鼻をくじかれた恰好になりました。仮想通貨のハードフォークも余りに回数が多すぎると、新アルトコインに対する注目度が落ちて「希少性・信用力・投資意欲」も落ちてしまいます。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、9月に「ビットコインは詐欺だ。最古のバブルと言われた17世紀のオランダのチューリップバブルより悪い」とビットコインを批判して話題になりました。“ビットコイン嫌い”で知られるダイモンCEOは、「自社のトレーダーがビットコイン取引をしたら即座に解雇する、理由は当行の規則違反で愚かだからだ」とまで言い切っていましたが、さすがのJPモルガンも高まるビットコイン需要を前にしては座視を決め込めず、「ビットコイン先物」の取扱いの検討を始めているようです。
ダイモンCEOはビットコイン高騰を「最悪のバブル」と切り捨てました。しかし、1BTCがいくらの価格であることが妥当なのか、どれくらい価格が高騰すれば異常なバブルになるのかの数値基準は、ビットコインそのものに「期待収益」がない以上は、理論的に決められない部分が多いのです。
ビットコイン価格下落の要因1:ビットコインバブル警戒による価格調整
22日のビットコイン暴落の原因について、マスメディアは「先行きを不安視した投資家心理による売り」とだけ説明していました。この投資家心理は端的に言えば、「ビットコインバブル崩壊の警戒心理+バブル崩壊前の勝ち逃げ心理(区切りの良い年末の利益確定の選択も含む)」でしょう。
価格上昇を期待するBTC投資家であっても、「200万円台までの価格上昇速度が余りに速すぎる・現在のビットコイン相場はバブルであり価格の根拠が薄い」と感じている人は多いということです。そのため、10~20%超の大きなBTC相場の下落があると、「バブル崩壊の予兆のイメージ(BTCを保有し続けたら大損するかもしれない不安)」によって反射的に売ってしまいやすいのです。カーネマンとトヴェルスキーの行動経済学の「プロスペクト理論」が示唆するように、「損失回避の心理」は「利益追求の心理」よりも2倍以上は強いという事もあります。
バブルを警戒する投資家心理としては、「BTC価格の長期続落」は望まないけれど「バブル価格の調整局面」が欲しいということもあり、極端な価格上昇が続くと調整で下落しやすくなります。BTCは150万円台まで急落しましたが、1週間も経たないうちに再び180万円台を回復しました。今回の下落が「ビットコインバブル崩壊でないこと」は明らかですが、一方的な価格上昇が続けば続くほど、「いつかバブルが弾けるかもしれない不安(永遠に上昇し続ける投機対象はない現実的認識)」は強まります。
その結果、決定的なビットコインの価値喪失にまでは至らなくても、「大幅下落による価格調整(投資家が納得できる程度の価格上昇速度への調整)」は繰り返されると予測されます。
ビットコイン価格下落の要因2:ビットコインのスケーラビリティー問題の深刻化と送金手数料の高騰
ビットコイン価格の下落要因として軽視できないのが、いまだ決定的な解決の目処が立っていないビットコインの「スケーラビリティー問題(ブロックサイズ問題)」です。ビットコインで採用されているブロックチェーンのブロックサイズは「1MB」と小さいため、一定時間内の取引(BTCの10分毎の送金)の処理能力に限界があります。ビットコインは「処理時間の遅延(送金取引の未処理件数)+送金手数料の高騰」といったブロックサイズ問題が深刻化してきており、安い手数料の送金要求(トランザクション)が送金されず未処理のままで放置されやすくなっています。
仮想通貨ブームでBTCの売買・送金の取引量が増えれば増えるほど、ビットコインの抱える「取引処理時間の遅延・送金手数料の高額化」は悪化していきます。bitFlyerとCoincheckでは、「一時的なBTCネットワークの混雑」を理由に、ビットコインの送金手数料を1回2000~3000円前後にまで値上げしました。
Bitflyerの送金手数料は0.0015BTC(約2400円・1BTC=160万円換算)になり、今まで(0.0004BTC)の4倍弱の値上げ、Coincheckは0.002 BTC(約3200円)となり、今まで(0.001BTC)の2倍の値上げです。ここまで高くなると、法定通貨にはない「仮想通貨(ビットコイン)の実用性・利便性」が疑わしいものに見られてしまいます。
ビットコインの送金能力の低下と送金手数料の異常な値上げは、今まで「仮想通貨のメリット」とされてきた「グローバルかつスピーディーな送金能力+送金手数料の安さ」を台無しにしてしまうので、いずれにしても技術的な解決策が求められます。今まで中央集権的な管理者・仲介者がいないから、「無料に近い格安コストで世界中に送金できる」というのが、仮想通貨・ブロックチェーンのメリットとして語られてきました。
しかし1回2000円以上にまで送金手数料が高騰すると、中央集権的な銀行の送金システムよりも手数料が高いケースが多くなります。送金手数料が高いと、法定通貨の信用力が担保されている限り、敢えて「ビットコインによる送金」を利用する動機づけは弱くなります。
「SegWit2X(B2X)の復活」が、送金能力低下にあえぐビットコインを救うのか?
ビットコイン高騰を、17世紀オランダの「チューリップバブル」になぞらえる意見は多いですが、バブルの原義は「内在的・本質的な価値から市場価格(資産価値)が乖離すること」です。ビットコイン高騰の相場をバブルと見なすか否かは、「ビットコインの内在的・本質的な価値」をどこに見出すかに依拠しています。有価証券・不動産など金融商品を扱うファイナンス理論では「将来の期待収益」を内在的価値としますが、その観点では収益を生まないビットコインの内在的価値は低いかもしれません。
しかし、ビットコインの内在的価値は「非中央集権的ネットワーク・グローバルで低コストな送金能力・国家の景気や財政から分離した通貨」などの近未来的なコンセプトにあるとも解釈できるので、ビットコインのブロックサイズ問題の技術的解決(送金能力回復)が重要になってくるのです。技術的解決策として11月に予定されていた“SegWit2X(B2X)”は内部対立によって無期限延期されていましたが、急遽、12月末(501451のブロック)に実装される見通しが発表されました。
今回のSegWit2Xは、“SegWit(Segregated Witness)”で1ブロック内のデータ量を約60%減らすだけではなく、ブロック容量は以前の2MBの予定から「4MB」にまで拡大されるようです。さらに、リプレイアタックの防御機能も追加されており、1ブロックの生成速度を「約2.5分」に短縮して取引処理の高速化を図っています。
「送金能力の低下(送金遅延・送金手数料の高騰)」がビットコインの先行き不安とBTC価格下落の重大な要因になっているわけですが、機能が強化された「新SegWit2X」で見事に送金能力を回復させられるのでしょうか。現行ビットコインの仕様の限界が明らかになっている以上、B2Xやビットコインキャッシュなど高機能な仮想通貨がBTCに取って代わる可能性も考えていく必要があります。