ビットコインとビットコインキャッシュのシーソー相場

ビットコインキャッシュのスケーラビリティー問題1月6日、昨年末に150~160万円台まで下落していたビットコイン(BTC)の価格が数週間ぶりに200万円台を回復しました。11日に再び160万円台まで落ち値動きが激しくなっています。Bビットコインの再上昇に呼応するように、2017年8月にビットコインから分岐したビットコインキャッシュ(BCH)はビットコイン高騰時に27万円台にまで下落しましたが、仮想通貨市場ではBTCとBCHの価格はシーソーのような相場で一方が高騰すると一方が下落することが多くなっています。現時点ではビットコインキャッシュを含むアルトコインを時価総額と需要で大きく引き離している本家本元のビットコインですが、「スケーラビリティー問題(ブロックサイズ問題)」を前提とするトランザクション詰まり(送金処理手続きの停滞)が深刻化しています。

ビットコインはチェーンブロックのブロックサイズが1MBしかないため、ブロック形成の約10分間で「数千件」の取引記録しか処理できず、マイナー(採掘者)の数が減ったりマイニングのハッシュパワーが低下したりすると、取引処理の流れであるトランザクションがすぐに詰まってしまうのです。BTCは価格高騰と合わせて「マイニング難易度」も上がっているので、効率的に採掘してマイニング報酬を得るためには、ASICBoostを組み合わせた高性能・高コストなコンピューターのネットワークが必要になっています。

現時点でも10~20万件以上の送金要請(100MB以上)がすぐに処理されないままになっており、ビットコインの取引処理に数時間以上の時間がかかるようになってきています。ビットコインの送金機能低下が短期間で回復するか分からないというのも、ビットコイン以外のアルトコインに大量の資金が流れ始めた一因です。ビットコインとビットコインキャッシュは特に「仮想通貨の基軸通貨の地位」を巡って需給がシーソーのようにどちらかに傾きやすい特徴をチャートで示しています。

ビットコインキャッシュの“ブロックサイズ”はスケーラビリティー問題を解決するか?

ビットコイン(BTC)とビットコインキャッシュ(BCH)の性能面の最大の違いは「ブロックサイズ」です。ビットコインは「1MB」なのに対してBCHは「8MB」のブロックサイズがあります。理論上は、BCHはビットコインの約8倍以上の取引処理能力を持つだけではなく、さらにブロックサイズを最大32MBまで拡張することが可能です。BCHの送金実験では約1GBのブロックサイズでも成功したとされ、ビットコインよりも拡張性が非常に高くなっています。

ビットコインのトランザクション詰まりの最大の要因は、仕様(機能・性能)が劣っているということもありますが、仮想通貨ブームの熱狂による「ビットコインの予想以上の需要急増・市場占有率の高さ」です。仮想通貨は大きくビットコインとそれ以外のアルトコイン(オルトコイン)に分けられますが、仮想通貨に詳しくない一般の人たちでも誰もが知っているのはやはりビットコインであり、日本国内の登録取引所では「ビットコイン」だけをメインに取り扱っている販売所も多いのです。

ビットコインキャッシュはアルトコインの中では、イーサリアム(ETH)と並んで時価総額・需要が高くなっていますが、それでもビットコインと比べればまだまだ需要とトランザクションの取引量が少ない状況にあります。逆に言えば、需要が少ないからこそビットコインが悩み続けている「送金時間の遅延・送金手数料の高騰の問題」に、ビットコインキャッシュはまだ直面せずに済んでいるのです。

現時点で、BCHはブロックサイズ8MBのうちの約2MBしか使われていない余裕のある状況とされています。現在のBCHは「送金時間は数分間・送金手数料は10円以下」であり、ビットコインと比べた場合の性能の優位性は明らかです。将来、ブロックサイズ8~32MBを使い切るほどにBCHの需要が急増した時に、快適・安価な送金環境を維持できているかが「スケーラビリティー問題解決の鍵」になるでしょう。

ビットコインキャッシュのトランザクション(送金取引量)が増えるとネットワーク伝達速度が重要になる

ビットコインとビットコインキャッシュのシーソー相場とその未来ハードフォークなしで8~32MBのブロックサイズの拡張性を誇るビットコインキャッシュ(BCH)ですが、「仮想通貨の送金能力」はブロックサイズの大きさだけでは決まらず、1ブロックごとの伝搬・検証を高速で処理する「ネットワーク伝達速度」が重要になってきます。現在のビットコイン(BTC)レベルのトランザクション(送金取引量)だと、ブロックサイズ拡張に加えて、約0.5秒以下で1ブロックの検証を終えて次のブロックに伝搬するネットワーク伝達速度がないと、マイナー(採掘者)は効率的な報酬が得られなくなっていると言われています。

ブロックチェーンのネットワーク伝達速度は、2016年以前のビットコインではほとんど問題視されることがなく、「ブロックサイズ・取引データ容量の拡張」だけで対応しようとしていました。しかし、取引データが増えて混雑してきた現在のトランザクションでは、「ノード(各コンピューター)の演算処理能力・保存容量・通信回線速度」と相関するネットワーク伝達速度が重要になってきています。

仮想通貨がクレジットカード並に送金処理で使われれば、個人のコンピューターではフルノードを管理できなくなる可能性

仮想通貨のブロックチェーン技術は、改ざんのないデータの正当性を保証するために「過去から現在までのブロック(送金データ)のすべて=フルノード」を保存することで検証可能性を維持しています。しかし、「取引量の急増・ブロックサイズの拡大(1ブロック当たりのデータ量の増大)・過去からの膨大な送金データの蓄積」によって、フルノードの容量は拡大しています。

仮想通貨を保管するウォレットや採掘するマイニングの専用ソフトウェアには、フルノードや剪定ノード(部分ノード)をダウンロードする機能がついています。ビットコインのフルノードを検証できる主流のソフトウェアとしては「Bitcoin Core」、ビットコインキャッシュのフルノードの検証では「Bitcoin ABC」があります。ビットコインのフルノードは現時点で160~170GB程度とそれほど大きくはありません。ビットコインキャッシュであればもっと小さな容量でフルノードを立てて運用することができます。しかし、世界共通の電子通貨になることを目指している仮想通貨が、本当にVISAやMasterCardといったクレジットカードと同等の決済(送金処理)に使われるようになったら、現時点で「約47TB」までフルノードの容量が増大するという試算があります。

市販パソコンはハイスペックなモデルでも「約3~5TBのHDDの保存容量」ですから、ビットコインやビットコインキャッシュの決済が増加して数TB以上になった時には、ビットコインやBCHのフルノードを個人のコンピューター(HDD)で保管し検証することは困難になるでしょう。

ビットコインキャッシュ(BCH)の価格とマイニング報酬の上昇

仮想通貨のトランザクションがこのまま増加していけば、ビッグブロックの高速伝搬専用の別ネットワークが必要になるということで、ビットコイン(BTC)では「ライトニングネットワーク(LN)」の検証実験が続けられています。大容量のフルノードが個人ユーザーのコンピューターで管理できなくなれば、フルノード検証を専門で請け負う組織・団体における「(個人ノードに頼らない)簡易認証システム」が導入される可能性もあります。30万円に迫ろうとするビットコインキャッシュ(BCH)の価格高騰に合わせて、マイニング報酬も増加しています。

中国最大のマイナー集団viaBTCが支持するBitcoin ABCも、BCHのマイニングを積極的に行っているとされます。そのため、BCHはマイニング難易度と価格上昇を考慮した「マイニング収益の効率性」においてビットコインを上回る場面が目立ってきています。マイナーが増えると安定的にブロックが形成されて送金処理も早くなりやすいので、仮想通貨としての需要も増えやすくなります。ただし、viaBTCが中国の規制強化などでマイニング事業から撤退との報道も流れましたので、今後ビットコインとBCHのマイニングのバランスがどうなるか注意が必要です。

今の時点では、大多数の取引所はビットコインを基軸通貨として扱っていて、アルトコインの売買においても「ビットコイン建ての取引(BTCでアルトコインを買う・アルトコインでBTCを買う)」を採用しています。しかし、中国の取引所OKEXや英国の取引所CoinEX(via BTC資本)は、「ビットコインキャッシュ(BCH)建ての取引」をスタートさせていて、BCH基軸のマーケットも広がりを見せているのです。ビットコインキャッシュがビットコインとのシーソー相場の競争に勝つか否かの大きな焦点の一つが、送金スピードと送金手数料を決定する「スケーラビリティー問題の決定的な解決策」にあると言えるでしょう。