1月17日の仮想通貨市場の急落、ビットコイン(BTC)も一時100万円前後まで落ち込む
1月17日の早朝、中国・韓国・ドイツなどで仮想通貨規制が強化されるというニュースが流れて、ビットコインとアルトコインのすべてが約30~40%以上も急落し投資家心理をパニックに陥れました。ビットコイン(BTC)は一時、100万円を割り込むような急落を見せ、ビットコインキャッシュ(BCH)も久々に20万円を大きく割り込みました。イーサリアム(ETH)やリップル(XRP)、ライトコイン(LTC)など主要なアルトコインもすべて30%以上下落するという激しい値下がりだったため、「パニックによる個人投資家の投げ売り」も相当な規模になりました。
2017年7月以降で最大の仮想通貨急落となりましたが、仮想通貨は適正価格を決定する「価格の理論的基準・将来の期待収益」がないため、元々「需給のバランスに支えられた信用」がいったん崩れてしまうと極めて短時間で暴落しやすい特徴を持っています。BTCはじめ仮想通貨の価格は「仮想通貨市場の需給=市場原理」のみによって決定されているため、「売り(ショートポジション)」が増えると、不安に駆られたBTC保有者も連鎖的に売ってしまいやすいのです。仮想通貨価格には理論的基準がなく、「これ以上は価格が下がらないという保証」がないということが、「連鎖的な売り(継続的な価格下落)」を引き起こしやすい要因になっています。
仮想通貨市場には、株式投資・FX投資で行われている将来価格を過去の価格の値動きから予測する「テクニカル分析(チャート分析)」はほとんど通用しません。BTCの2017年のチャートを見ても年初から年末にかけての上昇傾向に規則性はなく、BTC価格が60万円を突破したあたりから、「テクニカル分析では説明のつかない急騰=仮想通貨ブームによる急騰」を長期にわたって続けているからです。
「仮想通貨関連ニュース」が、ビットコイン価格・アルトコイン価格を大きく動かす
現在までビットコイン(BTC)をはじめとする仮想通貨の激しい値動きの多くは、「仮想通貨関連ニュース」が伝えるファンダメンタルズ(仮想通貨の価値・取引継続を規定する基礎的条件)がきっかけになって起こってきました。株式投資でもFX投資でも、株価・経済の基礎的条件とされるファンダメンタルズの分析は重要なのですが、仮想通貨投資においては株・FX以上に「仮想通貨関連ニュースの内容」が示唆するファンダメンタルズの市場価格への影響が大きいと考えておいた方がいいでしょう。
株式のファンダメンタルズとは「企業の業績と財務・成長性と将来性・社会的評価に関する情報」であり、その多くは「会社四季報・企業の財務諸表(公開情報)・ニュース・PERやPBRなど株式指標」から読み取って推測することができます。FXのファンダメンタルズとは「各国の景気と経済の状況・中央銀行の金融政策・世界経済の動向・通貨価値の比較」であり、その多くは「雇用統計や金利などの経済指標・経済ニュース・要人発言・各国情勢とデータ」から読み取って推測することができるでしょう。
では、仮想通貨の市場価値(需給による相対的な時価)やスムーズな送金取引の持続性を規定する「ファンダメンタルズ」とは何を指しているのでしょうか。この問いは2017年7月の暴落と2018年1月の暴落の原因とも関係しています。仮想通貨価格を揺り動かすファンダメンタルズの一つは「仮想通貨の運営手法およびマイニング(採掘報酬)の公正性・透明性・効率性(マイニングの採算性)」と「ビットコインの送金能力と関係する仕様・性能」になるでしょう。もう一つは、1月の暴落を誘発した原因でもある「政府・国家権力による法規制の強度(法律による仮想通貨禁止の恐れ)」です。
過去にビットコインが一時的に暴落した要因
2017年7月の暴落は、ブロックデータを縮小するソフトフォークのSegWit案(UASF)を巡ってビットコイン運営の内部対立が表面化したことが引き金になりました。その時に、ビットコインの信用の根幹であるブロックチェーンを分岐させないソフトフォーク(UASF)を支持したのが、開発者陣営の「ビットコイン・コア派」です。ブロックチェーンを分岐させるハードフォークのSegWit2X(B2X)を支持したのが、中国マイナー陣営の「ビットコイン・アンリミテッド派」でした。
ビットコイン(BTC)が初めて体験したハードフォークでは、「ブロックチェーンを分岐させること+仮想通貨が分裂して数量が増えることでビットコインの信用性が失われる」や「開発者・マイナーの内部対立が前面に出てしまうと、仮想通貨には権限のある第三者(管理者)が介在しないという非中央集権の理想理念が崩れる」という見方があり、ビットコインは一時的に暴落しました。
しかし、2017年8月にBTCからビットコインキャッシュ(BCH)がハードフォーク(分裂)したことは、結果としてはビットコインや仮想通貨の「投資・投機の対象としての魅力」を高めることになりました。BTC保有者に無料で配布されたビットコインキャッシュ(BCH)に価格がついて、さらにその価格が持続的に上昇したからです。BCHの成功体験以降、仮想通貨のハードフォーク予定は「価格の下落」よりも「価格の上昇」を引き起こすことが多くなったのです。
中国・韓国・ドイツなどの仮想通貨規制強化の報道
1月17日にビットコインはじめ仮想通貨が急落した最大の原因は、「中国の仮想通貨規制の強化」を伝えるニュースでした。2017年前半までビットコインのマイニング(採掘)や取引の中枢を担ってきた電気料金の安い中国ですが、9月頃から中国当局の規制強化によって「ICO(新規通貨公開)の禁止・取引所の閉鎖」などが行われ、マイニング事業規制も準備されていると言われています。かつてビットコイン市場取引の約6~7割を占めていたとされる中国人(元)のBTC取引は激減しました。
中国の仮想通貨の規制強化は、中国人民銀行(PBOC)副総裁のパン・ゴンシェン氏の発言によると「ウォレットサービス・個人間取引・マイニングを含む仮想通貨取引全般の規制」に範囲が拡大する可能性があるようです。中国だけではなく海外の仮想通貨関連の暗号化プラットフォームへの「中国内からのアクセス」を全遮断する計画があるとしています。中国国内から仮想通貨取引やマイニング事業が締め出されるとの恐れから仮想通貨が暴落した側面があります。韓国も仮想通貨規制を巡って国論が割れており、司法長官が発表した「取引所閉鎖の方針」は撤回されましたが、韓国政府が仮想通貨を好意的に捉えていないことは明らかで規制強化の恐れは残っています。
1月15日にドイツの中央銀行が「仮想通貨の規制は国ごとの規制効果は限定的であるため、国際的な規制ルールをつくるべきである」と発言して、世界各国に仮想通貨の規制強化と共通ルールづくりを呼びかけたことも、ビットコインやアルトコインが急落する一因となりました。フランスでも仮想通貨規制のワーキンググループが動きを強めています。
急落してもビットコインやアルトコインは終焉しない
ビットコインをはじめとする仮想通貨は「公権力(政府・中央銀行)による貨幣価値の担保・物質的な希少価値・一般的な交換価値・株式的な期待収益」を持たないために、価格変動率(値幅)が非常に大きいという特徴を持っています。仮想通貨は暴騰と暴落の両方の可能性を常に持っているわけですが、「国家権力(政府)による規制強化」は特に仮想通貨の取引・所有そのものが違法になるのではないかとの不安を煽るので、暴落を誘発しやすいのです。
仮想通貨のビットコイン(BTC)はその理想・理念において、「国家・中央銀行が発行する法定通貨に取って代わる世界的に流通可能な新しい通貨を創る」や「法定通貨よりも使い勝手が良くて取引に透明性・匿名性のある自由にやり取りできる通貨を創る」という非中央集権的なシステム構築(反国家)の方向性があります。そのため、仮想通貨の市場規模が拡大するにつれて「国家(政府)と仮想通貨の対立図式」が強まりやすく、法規制強化のリスクも出てきます。一方、いくら規制・禁止が強化されても、中国・韓国の政府も「ブロックチェーン技術自体の価値・有用性」を認めているように、ビットコインなど仮想通貨に応用されているテクノロジーの価値が消滅することはありません。
世界中で多くのBTC需要があり仮想通貨の技術・暗号化ネットワークが生き残っている限り、ビットコインやアルトコインそのものが終焉することもないでしょう。中国・韓国・EU諸国など国家による法規制強化によって「仮想通貨の投機ブーム・価格上昇」に一定の冷水が浴びせられる可能性はありますが、仮想通貨は元々「投機の手段」としてだけではなく「通貨の機能(送金速度・手数料の安さ)+世界を革新する可能性(世界共通の通貨・サービス)」にも重点を置くべきものです。今回の仮想通貨急落を機会に、「仮想通貨の理念・思想・機能」と「投機(リスク投資)・必要な法規制(国家との対立図式)」のバランスについても考えていく必要があります。