トランザクション詰まりで「仮想通貨としてのメリット」が落ちたビットコイン
仮想通貨ブームに火をつけたビットコイン(BTC)の需要急増によって起こる「トランザクション詰まり」が深刻化しています。昨年は価格が200万円超まで急騰したビットコインですが、いまだに送金能力が低下してしまう「スケーラビリティー問題(ブロックサイズ問題)」を解決できていないからです。ビットコインがトランザクション詰まりを起こすと、仮想通貨の性能面で優れているビッグブロックサイズのビットコインキャッシュ(BCH)やスマートコントラクトのイーサリアム(ETH)に資金が流れやすくなります。
取引データの流れであるトランザクションが詰まるというのは、仮想通貨では送金が停滞(遅滞)するということで、停滞している送金要求が多くなるほど致命的な問題になりかねません。現在のBTCでは、「送金要求(取引要求)」が実行されずに遅滞している件数が常時10~20万件台もあり、送金が完了するまでに数時間以上の時間がかかるようになっています。トランザクションが詰まった仮想通貨の送金スピードを上げるためには、より多くのマイナー(採掘者)に参加してもらって、ブロックチェーン上で取引データの正しさを承認したブロックの生成を急ぐ必要があります。
採掘者(取引の計算者)であるマイナーのコンピューターに、より多くのハッシュパワーを提供させれば、ブロック生成のスピードが上がります。そのためには「効率的な報酬」をマイナーに与える必要がありますが、マイナーの報酬の原資となるのは「マイニング報酬(新規発行分)」と「送金手数料」なので送金スピードを上げると送金手数料が高くなってしまうのです。BTCは2016年まで、「数分以内の送金スピード」と「数十円以下の格安な送金手数料」という仮想通貨のメリットを持っていましたが、今はそのメリットが大幅に失われています。
ビットコインの送金能力の回復手段としての「ライトニングネットワーク」と「Segwit2X」
現在も仮想通貨市場におけるビットコイン(BTC)の市場占有率は約50~60%以上をキープしていて、「取引所における仮想通貨の基軸通貨」としての地位は揺らいでいません。ビットコインが仮想通貨市場の基軸通貨であるというのは、「有名なBTCの需要が多いということ」と「BTC建てでアルトコインを売買する取引所がほとんどであるということ」を意味しています。
しかし、サトシ・ナカモトらによって2008年に考案・設計された元祖ビットコインの人気は、すでに「仮想通貨としての機能の優位性」によるものではなくなってきています。テレビCM・投資コンテンツ(BTCで1億円を稼いだ等の過去の先行者の特別な成功談)などを通した「ビットコインの知名度(世間一般の仮想通貨=ビットコインのイメージ)」が、BTCの新規需要を掘り起こしているのです。
現在のビットコイン(BTC)は、需要の急増やトランザクションの混雑を決定的に解決するだけの仮想通貨としての性能が不足しています。BTCはビットコインキャッシュ(BCH)やイーサリアム(ETH)、リップル(XRP)などの有力アルトコインよりも送金能力では見劣りする部分が目立ってきているのです。BTCを支える開発者陣営も、送金能力低下の危機的事態に対して指をくわえて静観しているわけではなく、「SegWit2X(B2X)」と「ライトニングネットワーク(LN)」の技術的解決策を提案しています。特に、後者のライトニングネットワーク(LN)は、トランザクション詰まりによる送金遅れと手数料高騰を決定的に解決してしまう凄い技術とされています。
ライトニングネットワークとオフチェーンにおけるトランザクション処理
11月に延期された送金速度を上げるSegWit2X(B2X)の仕様は、1ブロックのデータ量を削減する「SegWit(Segregated Witness)」と「ブロックサイズの2~4MBへの拡大」を合わせたものです。12月末にリプレイプロテクションのセキュリティーを備えたSegWit2Xが突然ハードフォークしましたが、B2Xはビットコイン(BTC)のブロックチェーンに取って代わるものではなく、BTCとは別のアルトコインになっただけでした。
「SegWitアドレス」を使用したBTCの送金はB2X以前から可能になっていましたが、その利用率は約12%前後に過ぎません。SegWitアドレスの利用者が多くなれば送金手数料も下がっていく仕組みなのですが、利用者が少ないため、SegWitアドレスを使った送金でも約2000円前後の手数料がかかる状態が続いています。SegWit2XはBTCの本流になれなかっただけではなく、仮想通貨の理想的な送金状態である「数分以内の迅速な送金+数十円程度の格安の送金コスト」も容易には実現できそうにありません。このビットコインのスケーラビリティー問題の救世主として注目を集めているのが、ブロックサイズと関係なく超光速な取引処理ができる「ライトニングネットワーク(LN)」という革新的技術なのです。
ライトニングネットワークとは、イーサリアム(ETH)やリスク(LSK)に採用されている第三者の承認を必要とせずにトラストレスな契約を遂行する「スマートコントラクト」をビットコインの取引処理に組み込む技術です。簡単にいえば、ライトニングネットワークとは、ブロックチェーン(オンチェーン)の外部にある「オフチェーン」でBTCの取引処理を迅速に済ませられる技術で、ブロックチェーンに取引を書き込んで膨大なハッシュパワーで承認する「時間・手数料のかかる作業」を省略することが可能になるのです。
ライトニングネットワーク(LN)は、ビットコインにどのような恩恵をもたらすのか?
ライトニングネットワーク(LN)は、BTC取引(BTC送金)をする個人間にオフチェーンで「プライベートなペイメントチャネル(送金・決済のチャネル)」を構成する技術です。BTCのメインブロックチェーン上で実用化することができれば、ブロックサイズを拡大しなくても迅速で安価な送金処理をすることができるようになります。
ライトニングネットワーク(LN)がBTCのメインチェーンで常時、安定的に機能するようになれば、現在のBTCがトランザクションの遅延で苦境に陥っている「スケーラビリティー問題(ブロックサイズ問題)」を決定的に解決する恩恵を受けることができるでしょう。LNは仮想通貨が本来持つべき「理想的な送金能力」を現実のものにする技術であり、「個人間の効率的で迅速・確実な仮想通貨取引」がようやく可能になるのです。
現時点のBTCはブロックチェーン上で、1秒間に6~7件のトランザクション処理を行っています。ブロックチェーン上に書き込まずブロック検証作業も省略できる「オフチェーンのLN」であれば、「数百万~数十億件/秒のトランザクション処理」を行うことができるとされるので、実質的に「スケールフリーのBTC(取引処理件数にほぼ限界がない送金手数料も安いBTC)」に進化することになります。
ビットコインはLN活用のマイクロペイメントで仮想通貨の未来を切り開けるか?
ライトニングネットワーク(LN)がBTCで実用化されて安定的に運用できれば、「ビットコインの仮想通貨としての決済機能・メリット」を完全に回復させることができるでしょう。ビットコインでLN実装が短期に実現できれば、仮想通貨市場における基軸通貨としての地位を保つことができ、「マイクロペイメント(少額決済)+店舗のPOS端末での決済」によってBTCの実用性はさらに高まります。
現在のBTCは送金手数料が約2000~3000円にまで高騰しているため、「実用的な決済手段」として利用することが不可能な状態に陥っています。数百円のマイクロペイメントをBTCで行えば、送金手数料と合わせて3000円以上の支払い金額になりますから、常識的に考えて誰も少額決済の手段として使いたがらない仮想通貨になりかかっているのです。LNのBTCへの実装は送金処理の遅延を解消して、送金手数料も無料に近づくとされているので、「個人間=P2P(Peer-to-Peer)の送金処理・仮想通貨を使った日常的な少額決済」を仮想通貨の理想状態に近づけてくれるのです。
BTCのメインブロックチェーン上で、複数の顧客間で「マイクロペイメントのライトニングネットワーク経由の高速取引(約1秒で決済完了)を行う実験」が成功した意義は大きいのですが、LNの実用化・実装完了の予定日はあくまで未定という問題があります。「オフチェーンの2レイヤー(2層)処理」を行うためには、BTCの仕様に新規機能を別に付加する必要があり技術的なハードルも高いので、LNの実装が実現するとしても1年以上先の話になるというのが大方の予測となっています。
ライトニングネットワーク(LN)の送金処理にはほとんどコストがかからないのですが、LNにプライベートチャネルを開いてアクセスする過程でブロックチェーンにアクセスする必要があり、結局、一定以上の送金手数料がかかる恐れがあるとも言われています。ビットコインでLN活用のマイクロペイメント(手数料ゼロに近い少額決済)が実施できるようになれば、BTCが再び「実用の決済手段として機能する仮想通貨の未来」を切り開いていくことになりますが、それまでに越えなければならないハードルも多いのです。