ビットコインなど仮想通貨を規制しようとする国家権力と価格下落

ビットコインをはじめとする仮想通貨の市場価格に大きな影響を与えるファンダメンタル要因として、「仮想通貨に対する国家(政府)の法規制」があります。ビットコイン(BTC)に少しずつ社会一般の注目が集まり始めた2017年以降、何度か起こった「ビットコインの急落・暴落の原因」には必ずといっていいほど中国・韓国の仮想通貨に対する規制強化のニュース・風聞(噂)が関係してきました。中国の取引所規制で中国元による仮想通貨売買が禁止されたため、ビットコイン(仮想通貨)の市場取引額が大きい通貨は、「米ドル・日本円・韓国ウォン」になっています。

中国国内の取引所規制は強化されていますが、中国では今も米ドルでの取引所利用、ウォレットアプリによる個人間の相対取引は行われていて、ビットコイン保有を継続している中国人もかなり残っているとされています。そのため、数回の規制強化が実施されて「中国国内でのICO(新規仮想通貨発行による資金収集)+中国元による取引所での仮想通貨売買」が禁止された現時点においても、中国政府の仮想通貨規制強化のニュースが持つインパクトは衰えていないのです。その典型的な現れが、1月17日のビットコインとアルトコインの約40%減に迫る全面的な大暴落でした。

報道によると中国は、取引所閉鎖やマイニング禁止など完全な仮想通貨禁止にまでは踏み込んでいないものの、「ウォレットアプリ・個人間取引の禁止(あるいは国家公認アプリの強制使用)」や「海外の取引所・暗号化サービスに対する中国国内からのアクセス遮断」をする用意があるとしています。中国が必死に仮想通貨規制を強めようとする背景には、「中国元の価値下落のリスク(中国人が自国の法定通貨の元をあまり使わなくなる)」と「中国共産党の社会主義思想に反するギャンブル的な投機熱(中国の人民間の格差を煽る)」があるでしょう。

日本の仮想通貨規制は禁止ではなく管理の方向性

仮想通貨(ビットコイン)と国家権力の対立図式が強まる現状とその理由日本の仮想通貨規制は世界レベルで見てもかなり甘い方であり、日本政府は「改正資金決済法(2017年4月施行)」によって仮想通貨を金融庁の管轄下に置くことを定めています。日本の法律は、仮想通貨を「通貨(お金)」として認めたわけではないですが「財産的な価値を持つもの(決済手段・投資対象となり得るもの)」として定めています。

日本は取引所を規制するのではなく、「顧客保護のための一定の要件(資本金1,000万円以上・顧客の本人確認の厳格化・顧客資産の分別管理など)」を定めて、その審査をパスした取引所だけを登録する制度(ホワイトリスト)を採用しています。取引所の登録制を採用した理由としては、経営破綻時の顧客保護と顧客の脱税防止、仮想通貨詐欺(実体・資本のない業者)の防止を考えることができるでしょう。

日本の法権力は仮想通貨・取引所を禁止するのではなく、法律で管理して「仮想通貨売買による利益(雑所得)」からもきちんと税金を徴収しようとする方向性で動いているのです。日本が中国・韓国と比較すると仮想通貨に対してある程度まで寛容なのは、為替市場における「円の通貨価値」が中国元・韓国ウォンよりも安定しているからという面もあるでしょう。

韓国が仮想通貨規制強化を検討

韓国政府は中国政府以上に仮想通貨に対しては否定的なスタンスであり、ICOの禁止に続いて「全仮想通貨取引所の一時閉鎖(厳格な規制後の再承認)」を計画しているとされます。イーサリアム(ETH)とビットコイン(BTC)を中心に韓国ウォンによる取引量はかなり多いので、韓国の仮想通貨禁止に近い規制強化のニュースが流れると仮想通貨市場は下落することになります。

しかし韓国政府の仮想通貨禁止に相当する規制強化案に対しては、投資家・仮想通貨保有者を中心とする反対意見が続出しています。韓国の法律では、法案公表から30日以内に「法案反対の請願書への賛同者」が20万人を超えた場合、政府は国民に向けて法案に対する反対・疑問に回答する義務があるとされています。「仮想通貨規制法案に反対する請願」は政府が回答する義務を負う国民請願としては制度発足から7件目ということで、韓国で如何に仮想通貨に対する興味関心が高いかが分かります。

一部報道では今回の韓国の仮想通貨禁止は見送られるとも報じられていますが、実際に韓国で仮想通貨取引が禁止されるのか否かは不透明な状況です。政府が進めている「実名取引システム・課税制度導入」は賛成する人がほとんどなので、適切な規制強化であれば仮想通貨市場にとって追い風になる可能性もあります。韓国公正取引委員会(KFTC)のキム・サンジョ会長は「電子商取引の法律では仮想通貨取引所の閉鎖はできない」との見解を示していますが、韓国金融委員会の崔鍾球(チェ・ジョング)委員長は「全取引所の閉鎖か違法な取引所の閉鎖かのいずれか」を政府が検討しているとしています。

シンガポール、香港、ベトナムなどの仮想通貨に対する規制・態度

仮想通貨の価値・理念に襲いかかる各国の規制強化の波仮想通貨に対する規制レベルや態度(好意的か敵対的か)は、各国家によって大きく違います。日本やアメリカは、中国・韓国・EU先進国(ドイツ・フランス・イギリスなど)に比べれば規制レベルは緩い方ですが、仮想通貨に対して好意的な態度を取って規制が緩い国家・地域も世界には多くあります。中東のイスラーム圏では利息やギャンブルを禁じるシャリーア(イスラム法)に反するという理由で、多くの国が規制・禁止の意向を持っているようですが、東南アジアやアフリカの国々など自国通貨の信用価値が弱い国には仮想通貨を歓迎する所も少なくありません。

国際的なフィンテック(ITと金融の融合サービス)のハブを目指すシンガポールは、仮想通貨の規制強化には消極的でした。しかしシンガポール通貨金融庁(MAS)は、仮想通貨禁止の対応はしないものの、「資金洗浄・テロ支援抑止」のために取引所への監督権限を強めるとしています。中国の「一国二制度(2047年まで資本主義体制を維持)」の対象である香港は、高度な自治が認められており中国本土の仮想通貨規制強化はまだ及んでいませんが、大手銀行は取引所に対する送金停止の措置を取り始めています。ベトナムはビットコイン(仮想通貨)に対してもっとも受容的な国家であり、国家としては初めて2018年中にビットコインを法律上の「通貨(ベトナムドンVDN同等のお金)」として認める計画を大統領自ら発表しています。

ドイツとフランスは「仮想通貨の投機性・匿名性と悪用・規模拡大」に対してもっとも危機感を抱いている国であり、G20の財務相会合で「ビットコインの国際的規制案(世界共通の仮想通貨規制案)」を共同提案する意向を示しています。仮想通貨を規制すべき根拠としてドイツとフランスが上げているリスクは、「投機とバブル(規制によるリスク低減)・資金洗浄・テロ支援」になっています。

なぜ国家権力は仮想通貨(ビットコイン)を規制したいのか?

仮想通貨市場が拡大するにつれて、「仮想通貨と国家権力の対立図式」が強まり、国家・中央銀行が仮想通貨(ビットコイン)を法律で規制したいという思惑を隠さなくなってきています。2016年以前は、ビットコイン価格も安く市場規模も小さくて参加者も少なかったので、国家権力がビットコイン(仮想通貨)を本気で「反国家的なテクノロジーやマーケット」として警戒することはありませんでした。しかし現在はビットコインの時価総額が3,000億ドル近くにまで膨れ上がり、法定通貨をビットコイン(仮想通貨)に交換したいという新規参入者も世界中で増えているため、国家も一部の人だけに流通する特殊なトークン(暗号)として放置することが難しくなってきたのです。

国家が仮想通貨(ビットコイン)を規制したい主な理由は、「投機・バブルからの国民の保護」と「匿名性によるマネーロンダリング・テロ資金(犯罪資金)・ICO詐欺などの防止」になるでしょう。仮想通貨の最大の特徴は「中央機関の管理者が不要になる非中央集権的+自律分散的なネットワーク」と「個人の匿名性+取引の透明性の実現」ですが、これが通貨の動きを正確に上から管理したい国家権力からすれば受け容れることのできない要素になっています。

サトシ・ナカモトがP2Pとブロックチェーンを組み合わせて考案した非中央集権的なビットコイン(仮想通貨)は、その原理的理念として「国家から独立した自律分散型の通貨として機能すること」を目指してきました。その理想・理念が「仮想通貨市場(金銭のやり取り)」を正確に管理したい国家からすれば、「(本来国家が独占すべき)通貨発行権の侵害」として受け取られやすいのです。ドイツとフランスのG20における国際的な仮想通貨規制案を皮切りに、仮想通貨規制の波は大きくなりそうですが、「仮想通貨・ブロックチェーンの禁止」にまでエスカレートしない公正な規制と健全な市場整備を期待したいです。