ビットコイン(BTC)などの仮想通貨の交換価値=信用は何によって支えられているのか?

ビットコイン・仮想通貨取引の信用低下は、銀行主導のデジタル通貨の台頭を招くのか現在のビットコイン(BTC)をはじめとする仮想通貨の交換価値には、政府・中央銀行などの中央管理機関の信用力の裏づけがなく、時価を担保するような「金・プラチナ」などの有限の貴金属もありません。サトシ・ナカモトが論文で考案したとされるビットコインの究極的な理想は、国家の恣意的な自国優先の金融政策(金融緩和策による通貨供給量増大)に通貨価値を左右されない「世界共通の公正かつ安定的な通貨」になることです。

サトシ・ナカモトは特に中央銀行が通貨供給量(マネタリーベース)を増やすことで起こる「インフレリスク(通貨価値の下落)」を嫌っていたともいいます。そのため、ビットコインの発行数上限は、あらかじめ「約2,100万枚」までにプログラムされていて、原理的にインフレになりにくいように設計されています。元々、ビットコインなどは「無国籍・普遍的・民主的な通貨」を目指している前提があり、そのことを指して「非中央集権的・自律分散的な仮想通貨」と呼ぶこともあります。今まで、政府のような強制的な権限を持つ中央機関が存在しないことが、「自律分散的な仮想通貨」の魅力でありメリットであると主張され続けてきました。

しかし、「Mt.GOX事件・ビットフィネックス事件・コインチェックのNEM流出事件」などが相次いで起こり、取引のセキュリティーリスクと顧客保護の不十分さが大勢の人々に意識されることになりました。仮想通貨の交換価値=信用を支えているのは政府・中央銀行でも金(貴金属)でもなく、「テクノロジーの理想理念(ブロックチェーン技術)+市場原理の需給(仮想通貨が欲しい・価値があると思う気持ち)」だけなのですが、その市場取引を媒介する「取引所」が信用できないのでは、一般の人たちは保有したいとはどうしても思いにくいのです。

「非中央集権的な仮想通貨」の理想と投資価値を疑う声が出てきた原因

3月現在の市場は、ビットコイン(BTC)価格が100万円前後の移動平均線を「支持線」として横々か微増で動いていて、価格に大きな変化が無くなっています。BTCの市場価格のボラティリティー(価格変動幅)が小さくなってきているため、短期で大きな売却利益を狙う投資家にとっては「ビットコインの短期投機対象としての魅力」が弱まってきているのです。特に、日にちが経過するごとに追加の「スワップポイント(レバレッジ手数料1日約0.0005%前後)」を支払う必要がある「仮想通貨のレバレッジ投資」は、2月末から3月にかけてほとんどの個人投資家がまともに利益を出せていないはずで、ロングでもショートでもポジションを解消した人も多いでしょう。ある程度大きなボラティリティーがないと、短期投資の価値は割り引いて見られてしまいます。

3月初旬にようやく「NEM補償・複数のアルトコインの売却再開」が実施されましたが、コインチェック事件では約580億円相当のNEMが大量流出して、「ビットコイン売買+日本円の入出金以外の取引(アルトコインの売買・現金化)」ができない異常な状態が1ヶ月以上も続きました。セキュリティーの脆弱性が露見したコインチェック事件によって、仮想通貨の理想とされてきた「非中央集権的なシステム」のメリットが疑われることになったのです。その結果、国家が監督して法律で規制する「従来の中央集権的なシステム」のほうが、「盗難事故・取引所の経営破綻」の際に顧客が守られやすいのではないかという意見も出てきました。非中央集権的な仮想通貨のシステムは、確かに国家の金融政策や法定通貨下落の影響を受けないかもしれないが、「もしもの事件・ハッキング犯罪(盗難)」の時に無責任ではないかというわけです。

客観的に見た場合の「ビットコイン(仮想通貨)独自の価値・意味」とは何なのか?

守れるか非中央集権的な仮想通貨の理想と価値ブロックチェーン技術に支えられた仮想通貨の魅力とされるものに、第三者のチェックを受けずに確実な売買(契約)が分散台帳で成立する「自律分散性」、個人情報を知られずに暗号化された通貨価値を送受信することができる「匿名性」があります。しかし、自律分散性は「市場原理への過度の依存(極端な価格変動リスク)」と「違法送金・盗難の抑止困難」という問題を生みました。匿名性はマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が非難したように、メリットを相殺する「マネーロンダリング・脱税・違法商品の売買・テロ資金」などの社会的な問題点が目立ってきています。

ビットコインをはじめとする仮想通貨の理想に対する風当たりが強まる中でも、残されるビットコイン独自の価値・意味とは何なのでしょうか。最大の価値は「グローバルな決済手段としての価値」であり、ビットコインで決済可能なサービスや店舗が増えることが期待できます。最近、再びビットコインの送金手数料が2~5ドル前後と大幅に安くなってきたため、「安価な海外送金手段」としても注目されます。市場で一定の価格のボラティリティーがある限り、「投資・投機の対象」としても高い価値があります。国家・社会システムの変化を促進するような大きな意味としては、「国家とお金の考え方のパラダイムシフト」を引き起こす可能性があります。「ブロックチェーン技術の広範な応用」で、私たちの生活がどんどん便利になっていくとも言われています。

「銀行主導のデジタル通貨」と「ビットコイン・イーサリアムなど既存の仮想通貨」との市場競争はどうなるのか?

ビットコインなどの理想理念とされた「非中央集権・自律分散性・市場主義・匿名性・価値の安定」が揺らいでくる中で、ビットコインやアルトコインが世界共通のものになるという未来予測に異論が多く沸き起こっています。ビットコインを含む既存の仮想通貨は「オワコン(終わったコンテンツ)」であり、次にデジタルな仮想通貨市場を支配するのは「銀行主導の仮想通貨(政府・法定通貨の裏付けがあるデジタルコイン)」であるという異論もあります。

ビットコインやイーサリアムは「政府・中央銀行・ファンダメンタル(経済条件)による価値の裏づけ」がない非中央集権的な純粋な通貨だからこそ、インフレリスクを回避して市場原理のみで「独自の公正な仮想通貨価値」を保存できるメリットがあると言われてきました。しかし今度は「政府・銀行・日本円の価値の裏づけ」があった方がやはり信用できるという、ある種の「フィアット(法定通貨)への回帰」が起こっています。三菱UFJフィナンシャル・グループの「MUFGコイン」、みずほ銀行の「Jコイン」のような、法定通貨と等価交換で紐付けられた「大幅に価格変動しないデジタル通貨」の方が最後には市場競争に打ち勝って主流になるという予測もでてきているのです。

ビットコイン(仮想通貨)の未来とブロックチェーン応用の可能性

ビットコインやイーサリアムなどの従来の仮想通貨に変わって、銀行主導のデジタルコインが台頭して主流になってくるという予測を伝える記事が増えています。その根拠は、ビットコインが理想とする「世界共通の通貨価値の安定」は既に日本円や米ドルのフィアットで、ある程度実現されているから(為替取引も迅速にできるから)というものです。一般的な決済手段として利用するのであれば、市場価格の暴騰暴落リスクのあるビットコイン(BTC)をわざわざ使う必要はなく、フィアットと等価交換できるデジタルコインのほうが安心できて選ばれやすいというのです。

銀行主導のデジタルコインは「1MUFGコイン・1Jコイン=1円の固定価格制」で、確かに市場リスクが低いのですが、逆に日本円を等価交換するだけなので、既存の電子マネーとほとんど変わらず「保有する動機づけ」に乏しい問題もあります。日本円と同じ価値しか常に持たないのであれば、別にMUFGコインやJコインにわざわざ交換する必要がなく、「クレジットカード決済」でも「銀行口座の送金」でも良いように思えるのです。ビットコインやイーサリアムなどは「日本円とは異なる市場の値動き」があるからこそ、価格変動リスクはあるものの、「日本円とは違う価値の保存先(リスクヘッジ)・投資先」として選ばれています。日本円と完全に等価交換されるデジタルコインなら、敢えて大量にデジタルコインに交換する必要や新しい魅力が無いと感じる人も多いでしょう。

仮想通貨のコア技術である分散台帳「ブロックチェーン」そのものは、インターネット(WWW)に相当するイノベーションとされ、ビットコイン以上に「社会インフラ・価値の移転記録」の広範な分野の基礎技術として普及していくことがほぼ確実です。3月19日からのG20でフランスとドイツが「仮想通貨の世界共通の規制」を提案してくる可能性も取りざたされますが、ビットコインの未来がどうなるかは「適正レベルの法規制の受容+政府・中央銀行からの一定の独立性維持(銀行主導のデジタルコインと比べて魅力のある差異)」にかかっているでしょう。