アルトコインの「DigixDAO(デジックスダオ)」は、現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていません。海外の取引所では香港のBinance(バイナンス)、中国のHuobi(日本語対応あり)で取り扱っていますが、そこでは日本円からDigixDAO(デジックスダオ)を直接交換することはできません。
人類が「金」という実物資産を愛好した理由
DigixDAO(ディジックスダオ/単位:DGD)は、シンガポールで2016年に誕生した仮想通貨です。最大の特徴は、金地金(ゴールド・インゴット)をその担保にとっていることです。自らそれを「デジタル資産の金本位制」「ゴールド・ストレージ(Gold strage/金の貯蔵所」と言っています。
貴金属の「金(ゴールド)」は、人類が古代から愛好してきた「実物資産」です。数千年にわたって採掘ずみの量は約166,600トンで、オリンピック競泳用プール3杯分が採掘されました。鉱脈が地表の近くにあって採掘のコストが見合う埋蔵量は約51,000トンと推定され、プール1杯分です。現在の生産国のトップ3は中国、オーストラリア、ロシアの順ですが、2017年の世界産出量は3,150トンで、そのペースだと、あと17年で掘り尽くす計算です。そのように希少価値があるだけでなく、金(ゴールド)は数千年たってもその輝きを失わず、貴金属としての価値が目減りしません。
そのため金(ゴールド)そのものの値打ちは変動しにくく、円やドルのような法定通貨の値打ちが下落していくインフレに強いという特徴があります。また、戦乱や革命が起きても、金(ゴールド)を持って国境を越えて逃げれば、どこの国でも都市には必ずある貴金属店で換金ができ、当座必要なお金が手に入ります。フランス革命でもロシア革命でも、亡命した貴族の多くはそうやって生きながらえました。そのように政治・経済の大変動に対する「セキュリティ性」が高いために、金(ゴールド)は「安全資産」「安定資産」と呼ばれることもあります。半面、預金や株式や不動産などと違って、どんなに長期間保有していても利息や配当や地代や家賃が入って財産が増えることはありません。
金(ゴールド)を持っている人は、「金地金(バー/インゴット)」「金貨」「アクセサリー」「工芸品」などの形で自分の金庫に保管するか、銀行の貸金庫や取引業者の保護預かりなどに預けています。そのように形があり手で触れられる「実物資産」の金を、形がなく目に見えないバーチャルな存在の仮想通貨に結びつけたのが、DigixDAO(デジックスダオ)です。
デジックスダオは仮想通貨と金が結びつき、両方の性質を持つ
DigixDAO(デジックスダオ)の仕組みですが、代表的なアルトコインのイーサリアム(ETH)の基本システム「ブロックチェーン」の技術を利用して、金(ゴールド)の実物の価値を裏付けにしてトークン(仮想通貨のもとになる金券のようなもの)を発行します。DigixDAO(デジックスダオ)をシンガポールで保管して、担保にとるのは金貨やアクセサリーや工芸品ではなく、ロンドン、ニューヨーク、チューリヒ、香港、東京の世界5大市場の取引所に登録した企業や機関が検査して、純度や重さを保証する刻印が刻まれた金地金(バー/インゴット)です。昔のスパイ映画に出てきたようなチョコレート型の無地の金塊ではありません。
イーサリアム(ETH)のブロックチェーンには、取引や契約の内容のデータを記録してそれを証明する「スマートコントラクト」という機能があります。DigixDAO(デジックスダオ)はそのしくみをそのまま利用して、仮想通貨に金(ゴールド)の取引、保有の証明や記録が必ずセットになり、確認できるようになっています。登録されるデータは「登録日時」「金の重量」「品質保証者(刻印した業者)」「保有者」「外部監査人」などです。それを「PoA(Ploof of Asset/資産の証明)」と言い、PoAを記録したものを「PoAカード」と言います。そうすることで、実際には保有していないのに金(ゴールド)を保有しているかのように偽装される「カウンターパーティリスク」を防いでいます。
わかりやすく言えば、PoAは「金(ゴールド)の預かり証明」のようなものです。DigixDAO(デジックスダオ)を取引すると、それの裏付けとして保管されている金(ゴールド)の所有権が自動的に移転したのと同じことになります。それは実物を全く動かさず、その所有者の名札だけを付け替えるようなものです。
「DigixDAO(デジックスダオ)を買うと、金(ゴールド)を買ったのと、同じことになる」
つまり仮想通貨でありながら、実物資産である金(ゴールド)と同じ価値を持ち、それが持つ歴史的な信頼性、セキュリティ性、価格の安定性などのメリットが受けられるというわけです。もし、ハッカーに仮想通貨のDigixDAO(デジックスダオ)を盗み取られたとしても、その価値の裏付けの金地金は別の場所に保管されていて無事ですから、安全性は高くなります。
DigixDAOは用途別に2種類の仮想通貨で成り立っている
金(ゴールド)と仮想通貨の両方の性質を持っているDigixDAO(デジックスダオ)は、比較的安定している金価格が歯止めになり、ビットコイン(BTC)など仮想通貨で起こりがちな交換レートの急激な上昇、下落が抑えられます。
DigixDAO(デジックスダオ)は「DGX(Digix Tokens)」と「DGD(Digix DGD)」という2つの仮想通貨(トークン)の組み合わせでできています。わかりやすく言えば、DGXは金(ゴールド)の性質を持ち、DGDは仮想通貨の性質を持っています。
DGXの金(ゴールド)との交換レートは「1DGX=金1グラム」で固定です。1000DGX持っていて「PoAカード」がついていたら、シンガポールにあるオフィスで1000グラム=1キログラムの金地金(バー/インゴット)といつでも交換ができますと保証しています。それが「担保」で1信用の源です。金地金を保管しているシンガポールはアジアの金融の中心地になっている都市国家で、スイスほどではありませんが国家の信用度は高く、周辺国の戦乱に巻き込まれるようなカントリーリスクは低いと言われています。
DGDの方は仮想通貨取引所で取引され、円やドルなど法定通貨との交換レート、ビットコインやイーサリアムなど他の仮想通貨との交換レートが頻繁に変わっています。しかし、比較的安定した金価格に連動するDGXの影響を受け、あまり派手な値動きをすると歯止めがかかり、元に戻る特性があります。1年、2年など長期で見れば、DGDの値動きは他の仮想通貨に比べて安定します。たとえば2017年~2018年の年末年始にビットコインの交換レートが大きく変動した時、アルトコインの中にはつられて大きく値を崩したものがありましたが、DigixDAO(デジックスダオ)の対円の交換レートは安い時でも20,000円台を保って比較的安定していました。価値が安定している資産の金(ゴールド)を価値の裏付けにしているから、そうなります。
このようにDigixDAO(デジックスダオ)は仮想通貨でありながら暴落の恐れは小さいのですが、DigixDAO(デジックスダオ)については「わざわざ複雑なデジタル化を行って仮想通貨で持つより、金(ゴールド)で持つほうが安全で便利ではないか」という意見があります。たとえば1グラムあたりの金価格は4,900円(3月2日現在)なので、1億円分の金地金でも20.4キロで、旅行用スーツケースに入れて持ち運べます。しかし自分にとって持ち運びが便利とは、泥棒にとっても便利だということ。仮想通貨について「ハッカーに盗まれる」とサイバーセキュリティ上の問題がことさら騒がれていますが、金(ゴールド)を自宅に置いていても空き巣や強盗や火災にあうリスクはあります。
将来、ハッカーの侵入を許さないようなセキュリティ対策の決定版が登場したら、DigixDAO(デジックスダオ)もあらためて見直され、金(ゴールド)の代わりとしてひろく利用される「決済用仮想通貨」になる可能性があります。
デジックスダオは下がった時も20,000円台で安定した値動き
DigixDAO(デジックスダオ)は、現在、日本の仮想通貨取引所では取り扱っていないので、円からの直接の交換はできません。日本の取引所でいったん円からビットコインなど別の仮想通貨に交換してから、海外の取引所に持ち込んで改めてDigixDAOに交換することになります。DigixDAO(デジックスダオ)の円との交換レートは、2017年の春頃までは1DGD=1,000円前後で安定していましたが、2017年5月に入るとにわかに上昇し、5月中に10,000円を突破しました。その後も値を崩すことなく、2018年1月に1DGD=20,000円を超え、2月には50,000円を突破して驚かせました。いったん20,000円台まで下がった後、2月末には再び40,000円台まで上昇しています。
DGDが変動してもDGXは1DGX=金1グラム=4,900円(3月2日現在)です。そのDGDとDGXの価格差が大きくなると、2月にDGDを50,000円台から20,000円台へ引き下げる力が働きました。ということはDGDの20,000円台は「戻っていく価格帯」「めったなことでそれを下回らない価格帯」とみなすことができそうです。仮想通貨の売買を「投資」とみるなら、それは「いくらで買って、いくらで売ればよいか」を考える上で、ヒントになります。