世界中の投資家や金融を取り扱う機関が、相次いでビットコインを始めとする仮想通貨に対して否定的なコメントを出しており、顕著な保守姿勢を見せています。もしも世界の通貨基準がドルから仮想通貨に入れ替わってしまうと、彼らが持つドル資産の価値が暴落し、多大な損失に見舞われる恐れがあります。そのような危機的事態を防ぐ為には、仮想通貨の流通を阻止する事が第一の策なのでしょう。かつてない富の変化に対して懐疑的、否定的な彼らは一体どのような主張を行っているのでしょうか。
JPモルガンCEO「ビットコインは詐欺」
アメリカ合衆国ニューヨーク州に本社を置く銀行持株会社JPモルガン・チェース最高経営責任者(CEO)ジェイミー・ダイモン氏は、9月12日に同行のトレーダーに対してビットコインの取引を行なったことが発覚したら解雇するとアナウンスしました。またニューヨークでの投資家会議においても『ビットコインは良い終わり方はしないだろう』『これは詐欺』『最古のバブルと言われる17世紀オランダのチューリップ球根より悪い』とコメントし、ビットコインはバブルだという自身の考えを述べています。
このダイモンCEOの発表は、銀行にとってビットコインなどの仮想通貨は微妙な存在だという考えの表れなのです。ビットコインが今以上に世間に普及してビットコインを使用した手数料の少ない送金が当たり前になれば、金利政策などでただでさえ収益の減っている銀行は残された収益の柱を失うことになります。
しかしJPモルガンと同様に証券会社・投資銀行を持つモルガン・スタンレー最高経営責任者(CEO)の ジェームズ・ゴーマン氏は穏便な見方を示しています。9月27日の米紙ウォールストリート・ジャーナル主催のイベントで、「ビットコインは明らかに、単なる流行りものを超えている」「匿名の通貨という概念は、プライバシー保護の観点から非常に興味深い。その制御について中央銀行システムに対して示唆するものがあるからだ」とのコメントを出しました。
さらにこの姿勢は日本でも東京三菱UFJ銀行が他行に先立ち発表しており、2018年には仮想通貨リップルを使用した送金ネットワークを採用する予定です。資金力のある銀行は次々と仮想通貨を採用する姿勢を見せていますが、取り残された銀行は今後、統合へと向かっていくでしょう。中小銀行にとっては、まさに『これは詐欺』と言いたくなる事態です。
エンロンの二の舞が作られているのを見ているようなものだ
サウジアラビアで最も裕福な3人の一人と言われるアル=ワリード・ビン・タラール王子は、米経済専門局CNBCのインタビューで『ビットコインは全く信用していない。いずれ崩壊するだろう。エンロンのような状況が生じつつあると思う』『全く理にかなっていない。ビットコインはどの中央銀行からも規制を受けておらず、管理も監督もされていない』と強い批判の姿勢を見せています。
この「エンロンのような状態」とは、米国テキサス州にあった総合エネルギー会社エンロンが起こした不正会計事件の事です。特別目的会社(SPC)を利用して架空の利益を計上し続けた結果、2001年ついに巨額の粉飾決算の事実が発覚し、160億ドル以上とも言われる負債総額を抱えて破綻となりました。この事件になぞらえてビットコインの高騰を裏付けのない架空の利益と称しているのです。
ただでさえアルワリード王子は、自身所有の投資会社キングダム・ホールディングの株価損失により10億ドル(約1140億円)もの資産を目減りさせているのでこれ以上の資産を減らしたくないという気もあるのでしょう。
投資の神様バフェット氏「ビットコインはバブル」
アメリカの巨大投資ファンドバークシャー=ハサウェイの代表ウォーレン=バフェット氏は、株式投資界で世界一と称されるほどの知名度を誇っています。そのバフェット氏が10月中旬に同氏の故郷であるネブラスカ州オマハで開催されたセッションで『ビットコインはバブルである』『ビットコインを評価することはできない、なぜならビットコインは価値を生み出す資産ではないからだ』とコメントしています。
バフェット氏は、数十年にわたって年率20%超えという超人的な投資成績を叩き出しており、その個人資産は2017年で約8.3兆円と小国の国家予算に匹敵する金額を保有しています。その投資戦略はバイ&ホールドが基本であり、購入した株式は年単位で保有しその株価が値上がりした差額(キャピタルゲイン)によって利益を出すという方法を利用しています。
彼はビジネスが良いものであると確信したとき、その時の市場価値に関わらず積極投資を行う為に2009年のリーマンショックでも暴落した銘柄を買いあさり大きな利益を上げていました。それにも関わらずビットコインに価値を生み出す能力が無いと判断するのは、投機として期待しているとの意味を込めた発言なのでしょうか。数多くの投資家の中で最も先見の明があると言われるバフェット氏の動向には目が離せません。
著名投資家マーク・キューバンが態度を急変
1999年に自らが設立した「broadcast.com」を米Yahoo!に57億ドルで売却し、米国プロバスケットボールチーム「ダラス・マーベリックス」のオーナー兼投資家となったマーク・キューバンがビットコインに対してコメントを出しました。『ビットコインはバブルだ。いつ、どれくらい下がるかは分からない。皆がどれだけ簡単に金もうけできるかを自慢している。つまり、バブルだ』『誰でもどこでも仮想通貨を買える。仮想通貨は金のようなもの。資産というより宗教に近い。もちろん金は素敵な宝飾品になる。だが仮想通貨は違う』
当初は仮想通貨に懐疑的だったキューバン氏ですが、現在ではその考えを一転させて8月には設立間もない仮想通貨ファンド1confirmationに出資を行っています。その考えの変化には、6月にビットコインが2900ドル(約32万円)となり相場を下げる事なく上昇気流に乗るかのごとくさらに相場を上げて37000ドル(約42万円)を始めた事が要因にあります。この現象に対して彼はツイッターに新たな考えとして『このブログ記事を全て書き直し、株式をビットコインに換えるべきかもしれない。とうとう、いくらか買う必要が出てきたようだ』と投稿しています。
さらに8月19日には電子メールのメッセージに『ブロックチェーンは、素晴らしいアプリケーションが生まれ得る土台となるプラットフォームだとかねて考えていた。ビットコインやその他の仮想通貨の内在的な価値を決めることは難しいが、ブロックチェーンから生まれ得るアプリケーションとは無関係だ。問題は素晴らしい企業に資金を出して育てることができるかどうかで、私はできると考えている』と書くほどに仮想通貨に熱心な素振りを見せています。保守派、懐疑派たちの中でも、このキューバン氏の行動の移り変わりは非常に柔軟であり、他の投資家への影響が出てくるでしょう。
認知度が高まり過熱していく仮想通貨市場
これらの有力な投資家が思わずコメントを発してしまうほどにビットコインを主体とする仮想通貨は既にメジャーであり力を持ってしまっているという事です。次々と新たなICOの公開が迫る中、今後の仮想通貨市場はさらに過熱していくでしょう。その時、「投資家」である彼らは仮想通貨に対してどのような姿勢を見せるのでしょうか。