金融庁が仮想通貨交換事業者(取引所)の7社に対して行政処分: コインチェック事件後に強まった取引所リスクの警戒感

コインチェック事件後の金融庁の監督行政の強化仮想通貨市場が、サードパーティーリスク(取引所リスク)の顕在化と世界的な規制強化の流れによって停滞しています。

ビットコイン(BTC)価格は3月11日現在、100万円を割り込んで92万円前後まで下落していますが、イーサリアム(ETH)やリップル(XRP)、ネム(XEM)、ビットコインキャッシュ(BCH)といったアルトコイン全般も下落を続けています。

コインチェックのNEM流出事件で不正アクセスされて盗まれたNEM(XEM)に至っては、1月初旬の高騰時に約240円、盗難前でも100円以上にまで上昇していたものが、3月現在では約35~40円と暴落した状況が続いています。

ビットコインキャッシュ(BCH)も昨年末から30万円以上の高値で推移していましたが、3月現在は11万円を割り込んで下落トレンドに入っています。

コインチェック事件が起こってから、取引所リスクに対する警戒感が強まったこと、コインチェックに入れているアルトコイン資産を売買できない(他の取引所に動かせない)投資家が増えたことから、「仮想通貨市場の停滞・下落のトレンド」が続いています。

取引所への不信感が強まる中、金融庁は3月8日に立ち入り検査で問題が発覚した仮想通貨交換事業者(取引所)の7社に行政処分を出しました。

この金融庁の行政処分の影響でさらに仮想通貨市場は下落しましたが、「内部関係者の不正行為(犯罪行為)・杜撰なセキュリティー管理体制・顧客保護の不十分な経営」を洗い出すことで、「仮想通貨を取り扱う資格のない取引所・経営者」に退場を促せるというメリットもあります。

 

 

“みなし業者”のビットステーションとFSHOが深刻な問題の発覚で、「1ヶ月の業務停止命令」となる

3月8日に、金融庁が行政処分すると発表した仮想通貨交換事業者(取引所)7社は、「コインチェック(渋谷区)・バイクリメンツ(港区)・FSHO(横浜市)・GMOコイン(渋谷区)・テックビューロ(Zaif,大阪市)・ビットステーション(名古屋市)・ミスターエクスチェンジ(福岡市)」です。

ビットステーションとFSHOには「1ヶ月の業務停止命令(4月7日までの営業停止)」という厳しい行政処分が下され、その2社以外の5社にも業務改善命令が出されました。事業継続を目指すとしているコインチェックも、二度目の業務改善命令を受けています。

処分された7社のうちで、資金決済法に基づく仮想通貨交換事業者登録が済んでいない「みなし業者」は「コインチェック・ビットステーション・FSHOの3社」ですが、大量NEM流出を起こしたコインチェック以外の2社は業務停止命令を受け、その違反の内容も深刻なものになっています。

ビットステーションは、100%株主だった経営企画部長が顧客から預かっていたビットコイン資産を私的に流用していたということで、「顧客資産の分別管理の徹底」以前に、経営者による背任横領に近い違法行為の疑いが持たれています。

FSHOは、高額の仮想通貨売買に際して「違法なマネーロンダリング(資金洗浄)・犯罪資金の流入」などを見極めて、当局に届け出るかどうかを判断すること自体をしていなかったことが指摘されて営業停止処分になっています。

仮想通貨の取引所7社に対する行政処分の内容・理由:杜撰・違法な経営体制やセキュリティーの甘さにメスが入る

取引所運営の7社のうちで利用者の多い「テックビューロ・GMOコイン・コインチェック」に対する行政処分の具体的内容を見ていきます。

テックビューロは、日本で利用者の多い取引所の一つであるZaifの運営企業ですが、「システム障害の多さ」を指摘されています。

Zaifはビットコインを0円で大量販売する致命的なシステムエラーを起こしたばかりですが、麺屋銀次と名乗る投資家が「22億BTC(時価2,246兆円相当)」を0円で購入できたと発表したことでネットでも大きな話題になりました。

Zaifでは「不正取引(流出NEMの売買)・不正出金の事案」も複数発生し、「顧客への不適切な情報開示」も問題視されていますが、それらの根本的な原因分析ができていないと金融庁は批判しています。

金融庁は、Zaifに対し「リスク管理体制の再構築・顧客対応の改善」を命令しています。GMOコインに対しては「システム障害の多発」が問題視されており、顧客の安定的な取引環境の保護ができていないと指摘されています。

GMOコインも根本原因の分析が不十分であり、システム障害の適切な再発防止策を取るように命じられています。

コインチェックは二度目の業務改善命令となりますが、「取り扱っている仮想通貨の内包するリスクが適切に評価できていないこと(一部アルトコインの強い匿名性の問題)」や「マネーロンダリング・テロ資金供与のリスクを防止する内部管理体制の未整備」などが指摘されています。

NEM流出のコインチェック事件を鑑みて、「顧客保護の認識がないまま、業容拡大を優先させた経営姿勢」が厳しく批判されており、金融庁は「経営戦略の見直し+顧客保護の徹底+取扱い仮想通貨のリスクの洗い出し+サービス再開に先立つ安全体制の見直し」など多くの改善を要求しています。

今回の立ち入り検査や行政処分を受けて、「ビットステーション・ビットエクスプレス(那覇市)・来夢(三重県)」の3社が仮想通貨事業者としての登録申請を取り下げています。この3社は実質的に廃業になる見通しです。

コインチェックの記者会見でNEM補償の見通しが語られる:コインチェック事件を誘発したお粗末な原因

取引所7社に対する行政処分とコインチェックのNEM補償・事業再建計画1月26日、約5億2,630万XEM(当時レートで約580億円相当のNEM)が流出した「コインチェック事件」が発生してから、1ヶ月以上の時間が経過しました。

まだ流出したNEMの補償とアルトコイン取引の再開は行われていませんが、仮想通貨業者7社に対する行政処分が発表された3月8日の午後にコインチェック社の和田晃一良社長らが記者会見を開き、来週中(3月12日から)に盗難NEMの補償を開始する見通しが伝えられています。

具体的なNEM補償の手順については、コインチェックのホームページのプレスリリースを通して発表するということですが、「日本円での補償(=コインチェック口座の日本円に反映する形での補償)」という従来から提案している補償方法に変更はありません。

コインチェック事件が起こった原因について、外部専門家を交えた調査結果も報告されています。複数の従業員宛(社内端末)に送られてきた「ウイルスメール(マルウェア)開封による感染」によって、ホットウォレットに保管していたNEMを送金できる「秘密鍵」が盗まれたことがNEM盗難の原因だったということです。

それが事実としたら、かなり杜撰なセキュリティー体制と従業員教育(ウイルスチェックをせず迂闊にメールを開封した)だったことになり、「社内セキュリティー・従業員教育・安全管理体制の抜本的な見直し」は急務になります。

コインチェックの事業継続は可能か?:取引所の淘汰・法規制によって「濡れ手で粟の取引所運営」は徐々に困難となる

コインチェック社の記者会見や顧客宛のメール内容を見て、コインチェックの事業継続は可能かどうかといえば、「NEM補償の約480億円の現預金があること+会社資産を分別していると主張していること」から今すぐに経営破綻するような状況ではないのだろうと思います。

非上場企業であるため、コインチェック社は「財務状況の開示」はしないとしていますが、「ユーザー数・全体取引高」については公開しています。

コインチェックには現在約170万口座が開設されており、2017年7月の全体取引高は2,868億円で、2017年12月には約3兆8,537億円まで急成長しています。

正に「倍々ゲームの急成長」で、約半年で全体取引高は10倍以上もの規模に拡大しているわけです。利益率については非公開ですが、約460億円のNEM補償をしても経営が揺らがないほどの相当な利益を貯め込むことができていたと推測されます。

金融庁の行政処分によって仮想通貨事業から撤退する会社も出てきましたが、雨後の筍のように乱立してきた取引所がこれからは、「顧客の選択+法律・金融庁の規制(監視)」によって淘汰される段階に入ってくることになるでしょう。

コインチェックの会見ではビジネスモデルが「取引所(取引全体の約80%)+販売所(約20%)」であることが語られ、利益の主な源泉が「販売所のスプレッド(買値と売値の差額の手数料・仮想通貨ではかなり高い)」であると明らかにされました。

ビットコインやアルトコインがどんどん値上がりしている時には、スプレッドが高くても個人投資家は余り気にしなかったので、相当な手数料を稼げたはずです。

コインチェックの事業継続に関わってくるのは「取扱アルトコインの種類・数」になってきますが、金融庁は「(犯罪収益・テロ資金のマネーロンダリングに利用される恐れのある)匿名性の強いアルトコイン」に対して強い抵抗感を持っているとも伝えられています。

今まで仮想通貨ブームに乗って「濡れ手で粟」で稼げてきた大手取引所も、これからは殿様商売にあぐらをかいていることはできなくなってくるはずです。

顧客保護が不十分で信用を失うリスク、スプレッドの利益率を大きくし過ぎて顧客が離れるリスク、立ち入り検査・法規制で行政処分を受けるリスクなどに、取引所側も配慮しなければならない段階(配慮しなければ淘汰される段階)になってきたのです。