仮想通貨テザーの疑惑

仮想通貨は、取引上のメリットとしてよく価格の変動制に注目されます。もし、法定通貨と同じく1単位が決まりきった価値しか持たないのであれば、ここまで知名度が高くなることはなかったでしょう。2017年における高騰は、投資家だけでなく一般ユーザーを巻き込んだものであり、相場などに疎い方はその波に乗っただけでも利益を十分に上げられる状況となっていました。

しかし、2018年に入ると年初からドイツとフランスの規制に対する声明の発表、coincheckのNEM流出事件に至っては、現在も収束とは程遠い状況です。そして、1月後半から2月初頭にかけもう1つの事件が話題となっています。それがテザー疑惑と呼ばれるものです。

仮想通貨と法定通貨の違いを理解しておく

法定通貨は、国や中央銀行が発行するものであり、その価値は国が保証しています。また、流通量も国がコントロールしており、明確な管理者も決まっている為、不正は出来ません。対して、ビットコインを代表とする仮想通貨は、管理者はおらず、価値のコントロールもされていません。需要があれば、価値が高騰しなければ下がるという非常にわかりやすい動きを示します。もっとも、何かマイナスの情報が入った場合には、価値が半減する場合なども多く、資産として保有することそのものにリスクが付きまといます。

法定通貨のメリットは、国がその価値を保証しており、財政が破綻しない限り、一定の価値を保有し続けられることにあります。貯金などの行為は、言い換えれば、価値の変わらない通貨を貯め続けることであり、資産という意味では非常に有効でしょう。
しかし、一気に増加することもなく、送金に至ってはその処理に何日も要するため、決済手段としての迅速性はありません。

仮想通貨のメリットは相手のアドレスさえ分かっていれば、国際送金であろうとも処理が非常に迅速であること、価値に変動性があることが挙げられます。しかし、仮想通貨の機能として匿名性を持っているものはマネーロンダリングなどの犯罪に使われることも多く、常にハッキングなどによって全ての通貨を失うリスクと隣り合わせです。

仮想通貨テザーとは

仮想通貨テザーは、USDとレート互換性のある仮想通貨であり、従来の仮想通貨とは立ち位置が異なります。仮想通貨において、各国で危険視されている価格変動性はこの通貨には存在しません。そういう意味では、日本でゆうちょ銀行・みずほ銀・地銀が発行する「Jコイン」、三菱UFJ銀行が発行する「MUFGコイン」などはテザーの性質を持った後発の仮想通貨となります。

また、テザーはTether Limited社が管理しており、国内の取引所では取り扱っていません。しかし、日本円でのUSDの価値はある程度決まっています。つまり、通常のUSDと同じ価値を保有していることから、普及すればどこでも使用出来る電子通貨並みの便利さを獲得することになります。

しかし、テザーについては昨年から引き続き様々な疑惑が取り沙汰されています。法定通貨との互換性はあるとしても同等の法定通貨を発行会社が保有していない、ビットコインの価格引き上げに直接の影響を与えているとの懸念があり、その疑惑が真実だった場合、仮想通貨市場が全て崩壊する可能性を秘めていると言えるでしょう。

テザーにまつわる疑惑

仮想通貨と法定通貨の互換性が崩壊したらまず、テザーはかねてから、テザー発行に対する準備金を管理会社であるTether Limited社が担保しているのか疑問とされていました。額にすれば、2000億円を超えるテザーの総額に対して担保する金額がないとなれば、テザーの存在意義は全て失われます。また、かねてから疑惑とされていたのにかかわらず、Tether Limited社は昨年、ハッキング被害を受けたうえで監査法人であるFreidmanとの契約を解消しており、疑惑が真実である可能性が高まっています。

次に、ビットフィネックスとTether Limited社が共謀してビットコインの価格の引き上げを行ったのではないかとされるレポートが公開されています。そして、そのレポートによれば、2017年におけるビットコインの価格の引きあげはビットフィネックスとTether Limited社の策略であり、実際にはユーザーの総意によって価格が決定されていたのではないというになるでしょう。そして、今回のテザー疑惑は1月26日に起こったcoincheckのNEM流出事件と相まって仮想通貨全ての価値を暴落させる事態に至っているという結果です。

あくまでも疑惑である為、真実は不明です。もっとも日本の金融庁のように強制的な立ち入り検査などがあれば、すぐに真実は露呈することになります。また、否定出来る材料をTether Limited社が示していないことにも問題があり、疑惑が晴れない限りマイナスの要因としてテザー疑惑は残り続けることになります。そして、最悪の露呈タイミングとしては、1月からの下落・停滞傾向である仮想通貨市場が様々な局面を乗り越えて、上昇傾向に入ったときでしょう。

もし疑惑が真実だった場合

テザーの疑惑が真実だった場合、世界中で今後発行予定である仮想通貨全ての計画が頓挫することになります。日本の大企業が発行予定である仮想通貨もこの疑惑が真実だった場合、金融機関としても信用するわけにはいかないでしょう。日本は世界における仮想通貨の先進国と言っても過言ではなく、現在ではビットコインの保有量は日本が世界で最も高いシェアを誇ります。また、仮想通貨取引所の規定や法律なども世界で初めて定めたうえで、今後は更にしっかりとしたルールを制定していく事が予想されています。

しかし、日本における円と変わる立ち位置の通貨として、仮想通貨は着目されたわけですが、仮想通貨の性質は変わりません。仮想通貨は電子マネーのようにデジタル上の存在であり、目に見えてわかるのは数量などの数値のみです。その為、オンライン上での管理は常にリスクがありますし、取引所に預けている場合でもハッキング被害はゼロとなることはないでしょう。

その為、テザー疑惑がなくとも世間的な認知度が悪評に傾きつつある仮想通貨市場において、テザー疑惑が真実とされた場合、仮想通貨の存在価値が相対的になくなることに繋がります。企業も悪評の高い金融商品をわざわざ開発するメリットがありません。
そして、法定通貨との相互互換性のある仮想通貨における悪意のある行為は、日本におけるメディア、金融機関、仮想通貨事業を生業とする企業等ありとあらゆる面で打撃をこうむることになると言えます。

テザー疑惑と仮想通貨の未来

仮想通貨の未来は、世界中で厳しい規制が行われ、開発や取引所の運営が停止しない限り発展を続けると考えられます。仮想通貨に使用されている技術は最先端と言っても過言ではなく、コンテンツの配信や動画の配信、迅速な送金処理など、現在のシステムでは不可能と言えるものも運営・使用可能となります。

その為、テザー疑惑が真実だったとして仮想通貨ではなく、その技術のみが残されることも想定できます。システムとして仮想通貨を使用して稼働するものもありますが、代用となるシステムを生み出すことは不可能ではありません。もっとも、テザー疑惑が真実ではなく、顧客や世間に対する単なる報告不足だとされた場合には、規制内容のみが仮想通貨の懸念となることを認識しておくと良いでしょう。

仮想通貨を取り巻く環境は安泰とは言い難いものです。しかし、仮想通貨が保有するシステムや機能は現在の環境を大きく変える可能性を秘めています。テザー疑惑を意識しつつ、市場の動向を見守っていきましょう。