揺れる中国仮想通貨事情仮想通貨に関して全面的な規制を行うという厳しい対応を見せてきた中国。ですが、ここにきて、新たな動きを見せてきました。

中国全土レベルの政治制度を決める、中国人民政治政商会議(CPPCC)にて最高諮問委員会のメンバーがブロックチェーンとデジタル資産管理の「承認システム」を作るべきだと発言したということが、各種仮想通貨を扱うメディアで報道されています。

非常に強い規制を敷いてきた中国においてこれは180度といってもいいくらいの方向転換です。この記事では、報道の背景や承認制度が設立された場合何が変わっていくのか、現在わかっている情報からご説明していきたいと思います。

中国でのこれまでの仮想通貨事情

まずは本題に入る前に、中国における最近の仮想通貨事情をざっくりと振り返ってみましょう。中国はもともと、その賃金や電気料金の安さからマイニング大国として知られています。そんな下地もあってか大手取引所が乱立。2016年にはビットコインの総取引額で世界一にもなり、一時期は流通量の98%を保有しているほどでした。

中国ではこれまでも貨幣以外の資本として、さまざまな、モノが人気を博してきました。その中で目を付けられ、新たに人気を得たのが仮想通貨。しかしながらその人気はある問題をはらんでいました。それは資本の国外流出です。本来であれば、中国国内にとどまるべきである金融資本が、仮想通貨利用者の急増によって国外に流出してしまうことになったのです。

そのことを問題視していた中国当局はたびたび海外送金など資本の国外流出に規制をかけていました。こうした流れの中で、2017年秋、中国当局はよりその態度を強硬にし、最終的には国内の全仮想通貨取引所を閉鎖する措置をとるに至りました。

それ以降も、マイニングの禁止、地方にあったマイニングオフィスの閉鎖、ICOの全面禁止など、仮想通貨関連には厳しい規制を敷いています。

中国国内のステークホルダー達の認識も厳しいものが多く、基本的に中国国内では仮想通貨はある種の経済的な敵としても見られていたのです。こうした背景がありながら、今回のように大きな方向転換が取られることになりました。

中国人民政治政商会議が、暗号通貨にかかわる承認制度創設を検討

中国人民政治政商会議(CPPCC)は、それぞれの州を基盤に中国全土に広がる政治機関です。人々の生活や経済全般にわたる国の重大な方向性を決めています。

3月3日から開催されているCPPCCの年次会合にて、先ほどの発言が飛び出しました。先ほどから説明しているように、これまで中国はアメリカや日本など仮想通貨に好意的な国々とは反対的にその有用性に疑義を投げかけ、数々の規制を行ってきました。

最近では2017年に仮想通貨を利用して資金調達を行う「ICO」の全面禁止。直近の2018年2月には中国人民銀行の機関紙である金融時報が、仮想通貨取引、ICO規制強化を伝えたばかりです。

しかもこれは、商業拠点、国内外のプラットフォームの閉鎖など、これまでの規制と比べてより強固なものでした。こうした発表がなされた後に今回の発表が行われたのです。いったい何が、中国の姿勢を変えさせたのでしょうか。

実際のところ、中国当局や中国最大手の検索エンジンを運営する百手(baidu)の創業者である、李彦宏(りげんこう)、中国通信販売大手アリババのCEOであるジャックマーなど中国IT業界のステークホルダー達はこれまでも、仮想通貨そのものの将来性や基盤となっている、ブロックチェーンの技術に関しは好意的な評価を下していました。

ですが、彼らが相次ぐ仮想通貨の盗難や大手取引所での資産の紛失といった問題など、仮想通貨制度が持つ脆弱性に危機感を抱いていたのも事実です。中国当局が憂慮しているのも、同様の理由。その一方で世界的にはナスダックが先物取引にブロックチェーン技術を応用しようとしている、各国の大手金融機関が実験的にブロックチェーン技術の試験的利用に取り組んでおり、革新と安全のバランスを図る取り組みがなされています。

こうした、流れの中で中国当局も実際に完全に仕組みを取り入れるかは別として、ブロックチェーン技術の試験的運用に乗り出さなくてはいけなくなったということが今回の一見正反対にも見える方向の転換の背後にはあると考えられます。またそれ以外にも年々上昇を続ける金融資本としての価値が無視できなくなったということも背景にあると考えられます。

中国の仮想通貨市場が開放される影響は

規制が強まる中国で暗号通貨の承認制度が設立か?今回の動きは事実上、国内での仮想通貨取引再開へのスタートと取ることもできます。これまで強固な姿勢をとってきた中国当局ですが、3月3日の発表ではここまでご紹介してきたようにその態度を一変させています。仮想通貨やその基盤技術であるブロックチェーンの脆弱性への懸念は述べる一方非常に前向きです。

これまで、規制を強めてきた、仮想通貨市場を開放する一つの契機でもあり、これまで安価で市場にたくさんの仮想通貨を供給してきた中国のマイナー達も活動を再開する可能性もあります。

現状日本に限らず、その他諸外国では中国での規制の影響からマイニング事業の拠点を規制が緩やかであるヨーロッパに移しています。ですが中国のこの流れが続けばこうしたマイニングを行う場所の選択肢も依然と同じように多様性を取り戻すかもしれないのです。

また、技術的な面でも大きな革新が期待されます。中国にはテンセントやアリババ、バイドゥのほかにもhuaweiなど世界的なit関連企業が拠点を置いているのです。現在のところ、CPPCCが設立する承認団体がどのような基準のもと、ブロックチェーン技術や資産管理システムなど暗号通貨関連の技術や仕組みの承認を行うかはわかっていません。

ですが、単純に投機的な価値だけではなく、中国の大きな市場や国内IT企業の技術を生かし、仮想通貨が本来目指していた新たなインフラとしての技術革新やそれに向けた法的な整備が整う見通しもあります。

気になる中国のステークホルダーたちの動向

そうなってくると、気になるのが現在多数いる中国IT業界の兆児達やbinanceのCEOを務めるCZ(チャンポン・ジャオ)などステークホルダー達の今後の動向です。現在まだこの情報は発表されたばかり。実際のところまだ大きな動きはありません。そこでここでは最後に中国のステークホルダー達のこれまでの動きを見てみたいと思います。

まず、アリババのCEOジャック・マー。これまでも数は少ないもののインタビューの中で、仮想通貨やブロックチェーン技術に言及していました。仮想通貨そのものには盗難、紛失などの問題から、難色を見せつつも、ブロックチェーン技術に関してはその有用性を認め、研究をしていることを公言していました。

大きな動きが見られたのが2018年1月。非公式ながらアリババが仮想通貨マイニングのプラットフォームを設立したとの報道がなされたのです。ジャック・マーやアリババはこのことを直後に正式に否定しました。

ただ、この中国当局の発表を見てみるとアリババの報道もあながち嘘ではなかったようです。巨大なECサイトを持つアリババが今後どのような動きを見せていくのか気になるところです。

もう一人、中国における仮想通貨がらみのビックネームがbinanceのceo、CZことチャンポン・ジャオです。2017年に仮想通貨取引所binanceを開設。瞬くまに世界最大手の取引所へと成長させました。もともと中国出身である彼ですが、中国当局の規制から逃れるため、これまではバイナンスの拠点を香港に置いていました。

まだ彼のtwitterでも動きは見られませんし、今年に入り300人単位での従業員数拡大を発表したばかり、そうそうに動けるわけではありませんが、こちらも動向に注目です。

今後の中国仮想通貨がらみの動向には、単純に投機的な視点だけでなく、大きな社会情勢、変革の起点として、注目してみていくひつようがあります。