仮想通貨は我々の日常に浸透するのか

年末から年始にかけての盛り上がりから一転、仮想通貨市場は現在では厳しい状態が続いています。12月に200万円を越したビットコインは一時期80万を割るまで転落し、現在では100万円付近を行ったり来たりしています。(3月15日現在)

今月19日にはアルゼンチンの首都・ブエノスアイレスでG20が開催されます。そこでは仮想通貨の規制に関する話し合いが予定されており、市場全体にもう一波乱来る可能性も少なくありません。こうした背景から仮想通貨の未来は前途多難だと思われていますが、実は世界中の大手企業が仮想通貨業界へと進出してきています。その中にはアップルやマイクロソフト、グーグルなど世界を変えてきた企業がたくさんあります。

そして日本の大手企業も例外ではありません。今回は日本国内の企業の中でも、我々の生活に大きな影響を及ぼしている大企業の仮想通貨市場参入を解説します。さらに、なぜこれほどまでの大企業たちがこぞって進出をするのか、その理由と日本における仮想通貨の未来を予測します。

Line(ライン)、仮想通貨事業に参入

日本人で使っていない人のほうが少数派とさえも言えるほど、我々の日常生活で浸透しているコミュニケーションアプリの「Line」が1月31日に仮想通貨事業への参入を発表しました。Lineは新会社「Line Financial」を1月10日に設立し、仮想通貨だけではなくローンや保険など金融事業関連全般へ進出していくとのことです。すでLineは2014年にデジタルでの決済「LINEPAY」を提供しており、オンライン決済において高い実績があります。その取引高は全世界で4,500億にも登ります。

現在、日本国内におけるLineの利用者数は7,300百人以上です。日本人の総人口は約1億3千人ですので、単純計算で日本人の二人に一人はLineを利用していることになります。

「Line Financial」は仮想通貨取引所の運営も予定しており、すでに金融庁への登録を済まし現在は審査中とのことです。ちなみに、国内トップの仮想通貨取引所「bitflyer」のユーザー数は約100万人です。Lineを使用している日本人の1.4%がLineの運営する仮想通貨取引所を使用しただけで100万人を超し、ユーザー数が国内トップになります。また、Lineはタイ、台湾、インドネシアなどを含めるとユーザー数は2億1,700百万以上にもなります。

まだまだ日本も含め世界中で仮想通貨は日常に浸透していません。しかし、現代日本人にとって必要不可欠なLineが仮想通貨を取り扱うとなれば瞬く間に普及していく可能性は十分にあります。最近はCoin Check(コインチェック)のXEM流出などにより、仮想通貨事業者への取り締まりが厳しくなっています。そのため審査に時間がかかっていますが、Lineの仮想通貨取引所の進展には注目しておきましょう。

「楽天コイン」構想を発表

日本を代表するEコマース企業(電子取引)で時価総額1.3兆円にものぼる楽天も、早い段階から仮想通貨業界へ参入をしています。楽天はまだ仮想通貨が世の中の人々に認知されていない2014年に、ビットコインのデジタル決済プラットフォームを提供する「Bitnet」と資本提携をし、ブロックチェーンなどの技術発展に貢献をしてきました。

楽天の三木谷会長は先月2月28日、スペイン・バルセロナで行われた「モバイル・ワールド・コングレス」に出席しました。そしてその場で、楽天の主力であるネット通販・楽天市場で得られるポイントと仮想通貨の根幹技術・ブロックチェーンを組み合わせて「楽天コイン」をつくる構想を発表しました。現行の楽天ポイントは海外では使えないため、楽天コインの普及により世界各国で共通利用できる仕組みをつくることが狙いとされています。

導入時期などの詳しい説明はされませんでしたが、三木谷会長は「平成28年に『楽天ブロックチェーンラボ』を設立し、さまざまな研究を始めている」と発言をしていました。それほど遠くない未来でこの構想が実装されるでしょう。

三菱UFJが仮想通貨「MUFGコイン」の発行を計画

国内大手企業の動向から紐解く仮想通貨の未来三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、今年の1月15日に独自の仮想通貨である「MUFGコイン」の発行を計画中だということを発表しました。同社の目的としては、スマートフォンのアプリを通じてMUFGコイン利用者間の送金や加盟店での決済手段として用いることです。仮想通貨の根幹技術である『ブロックチェーン』を利用することにより大規模な管理システムが不要となり、送金スピード及び送金手数料も大幅に抑えることができます。

従来のビットコインなどの仮想通貨はボラティリティ(価格変動)が非常に大きく、安定しないため日常生活では使いづらいとの声が上がっていました。MUFGはこうした問題を解決すべく、1MUFG=1円と価格を安定させる方針をとっています。ただし電子マネーなどとしてコインを発行すると、銀行を介さずに個人間で100万円超の送金ができなくなる(資金決済法)など制約も大きくなってきます。

一方で、仮想通貨としてコインを発行すれば100万超の送金が可能になります。しかし、これには先ほど挙げたビットコインなどのように価格が安定しないという問題があります。

そこでMUFGは仮想通貨として「MUFGコイン」を発行し、価格を安定させるために独自の仮想通貨取引所を開設予定です。そして取引をMUFGと利用者だけにとどめ、できる限り1MUFG≒1円として安定を図ります。MUFGコインはビットコインの特徴である非中央集権型をあえて取らず、MUFGが管理者として介在していくという特徴があります。

MUFGはすでに「MUFGコイン」及び仮想通貨取引所開設を2018年内に行う構想を金融庁に通告しています。そして同グループの三菱UFJ銀行はMUFGコインを使った新事業のアイデアを競うコンテストを競うなど、構想の実現に向けて動き出しています。

日本の企業が仮想通貨市場に参入する理由

ではなぜ、ここまで大手の企業がこぞって仮想通貨市場への参入を決めているのでしょうか。それは、企業側からしても仮想通貨を扱うメリットが大きいからです。
企業側に対するメリットはいくつかありますが、その中でもとりわけ大きい2点を挙げていきます。

①手数料の安さ
まず挙げられるのが決済手数料の安さです。最近「楽天コイン」の構想を発表した楽天を例にしてみましょう。楽天は国内最大級のECサイトである楽天市場というネットショップの運営をしています。楽天市場で買い物をするときに利用する決済手段は、ほとんどの方がクレジットカードです。

実はクレジットカードで買い物をすると、事業者側は5%の手数料を負担しなければなりません。もし仮に、楽天市場での決済手段がクレジットカードから仮想通貨に変わったら今まで負担をしていた5%が利益に変わります。

②送金スピード
仮想通貨を扱うメリットとして、送金スピードの速さも挙げられます。従来は資金移動の手段として銀行送金が使用されていました。銀行のシステムを利用することにより、手間がかかりますし海外への送金ともなれば日数もかかります。また、土日や祝日を挟んでしまうと銀行が稼動しておらずかなりのタイムロスになってしまいます。

しかし仮想通貨の場合、世界中どこでも即時に送金が可能です。さらに銀行送金だとかかる手数料も、大幅に抑えることができます。

このように、企業にとっては仮想通貨を使用することにより送金がスピーディになりフットワークも軽くなるという利点があります。

仮想通貨が欠かせない時代に備えて

今まで見てきたように国内の大手企業はこぞって仮想通貨市場に参入し、今後もその勢いは加速していくはずです。今回挙げた三社の他にもリクルート、NTT、DMM、メルカリなど日本を代表する様々な企業が何かしらの形で仮想通貨と関わっています。今までは投機的な側面から盛り上がりを見せていましが現在はその点は落ち着きを見せています。

今後は実需の面で普及していくはずです。我々国民に関わりの強い企業(ラインに関してはインフラとさえいえるでしょう)が仮想通貨を使用し始めたとなると、瞬く間に日常に浸透いくことは目に見えています。

仮想通貨に対して何かしらの拒否反応を持っている人も多いかもしれませんが、仮想通貨の普及には抗えないと思います。今我々にとってインターネットが欠かせないように、仮想通貨が欠かせない時代がそう遠くない未来に来るはずです。その時に備え、スムーズな受け入れ態勢を整えておくことが大切となってきます。